日曜劇場「集団左遷!!」福山雅治が挑む銀行陰謀ドラマを徹底予習、香川照之を筆頭に顔の濃いおじさんパワーが、いよいよ平成を終わらせる(1/2 ページ)
福山雅治が日曜劇場名物「顔相撲」に参戦、香川照之との対決、きっとあるよね。
TBS系の日曜劇場の新ドラマ「集団左遷!!」が今夜21時からスタートする(第1回は85分スペシャル)。主演は、2016年放送の「ラヴソング」(フジテレビ)以来3年ぶりの連続ドラマ出演となる福山雅治。今年2月に50歳になったばかりの福山が、企業ドラマという新境地に挑戦するとあって期待が高まる。
主人公「片岡洋」は、原作小説の主人公を足して2で割ったネーミング
ドラマの原作となるのは、江波戸哲夫(えばと・てつお)の小説『集団左遷』『新装版 銀行支店長』(いずれも講談社文庫刊、『集団左遷』は祥伝社文庫版もあり)だ。このうち『集団左遷』は、大手不動産会社を舞台に、リストラ候補となった社員たちの逆転劇を描いた。一方の『銀行支店長』は、信用金庫を合併した大手メガバンクの支店長である主人公が、旧信用金庫系の支店への異動を命じられ、合併後もなお残るわだかまりの解消のため奔走するさまが描かれた。
今回のドラマは、舞台は『銀行支店長』と同じくメガバンク「三友銀行」を舞台としながら、主人公が支店長として赴任するのは、リストラ対象としてすでに廃店の決まった支店と、『集団左遷』の要素も盛り込まれている。ドラマで福山雅治が演じる主人公「片岡洋」の名も、『銀行支店長』の片岡史郎と『集団左遷』の篠田洋と、原作の主人公を足して2で割ったネーミングだ。
原作者である江波戸哲夫は1946年生まれ。東大経済学部を卒業後、三井銀行(現・三井住友銀行)を経て学陽書房に編集者として勤務し、1983年にフリーのライターとして独立した。以後、経済や政治周辺に題材をとりながら、確かなデータにもとづく小説やノンフィクションを多数著している。
25年前の映画「集団左遷」を振り返る
今回のドラマの原作のうち『銀行支店長』は、1992年に『支店長、最後の仕事』という題名で刊行されたあと、1995年の文庫化に際し改題された。もうひとつの原作『集団左遷』は1993年に刊行されている。2作ともバブル崩壊直後、1990年代前半の作品ということになる。
『集団左遷』は刊行の翌年、1994年には梶間俊一監督により松竹で映画化もされた。当時の松竹はサラリーマン路線への転換を画策しており、本作も鳴り物入りで製作された(宣伝アドバイザーをなぜか舛添要一が務めていたりする)。出演陣も、主演の柴田恭兵をはじめ、中村敦夫、津川雅彦、小坂一也などのベテランを配すとともに、ヒロインに当時売り出し中だった高島礼子を据えるなど、華やかな面々がそろえられた。
それにもかかわらず興業成績は振るわなかったようだ。脚本を巡っても担当した野沢尚がプロデューサーと衝突するなど、トラブルもあったらしい。それでも現在、Huluでも配信中の同作を見ると、見どころはちゃんとあるし、さほど失敗作とは思えない。
映画版「集団左遷」の舞台は原作と同じく、大手不動産会社・太陽不動産が、バブル崩壊後、不良債権化した在庫処分のため新設した「首都圏特販部」である。だが、在庫処分はあくまで名目で、会社側はリストラ候補となった社員をこの部署に集め、実現不可能な目標値を示したうえ、全員まとめて解雇することをもくろんでいた。
このもくろみは、次期社長の座を狙う副社長・横山輝生(津川雅彦)を中心に画策された。首都圏特販部の本部長には、あえて横山に批判的な篠田洋(中村敦夫)が据えられる。特販部で精鋭となりそうなのは、篠田がバブル期に他社から引き抜いた営業マンの滝川晃司(柴田恭兵)ぐらいで、あとは、まわりが残業するなか毎日定時で帰社してしまう柳町(河原崎建三)、娘の結婚資金に頭を悩ませる花沢(小坂一也)など、どうにも頼りない者ばかり。
特販部は宣伝費も出ず、苦戦を続けるも、やがて滝川が仕掛けたある企てにより、その存在が世間に知られるところとなり、注文が殺到。これを機に部内の結束も固まっていく。だが、横山は特販部つぶしに躍起となり、ある者を内通者にしてさまざまな工作を図っては、部員たちを何としてでも失敗に追い込もうとする。
原作の主人公は、先述の通り特販部の本部長の篠田だが、映画では滝川に変えられている。この映画において篠田はどちらかというと、普段は部下たちを背後で支え、ここぞというときに前に出てくる役どころだ。これに対し、柴田恭兵演じる滝川はキレモノながら、仕事のやり方はどこか危なっかしい。私生活でも女性問題が原因で離婚し、莫大な借金を抱えるなど無頼の雰囲気が漂う。ちなみに柴田にとってはこれが初のサラリーマン役だったという。このときの好演はおそらく、後年の経済ドラマ「ハゲタカ」(NHK、2007年)への主演にもつながっているはずだ。
映画のなかで、いかにも時代を感じさせるのは、敵役である副社長の横山の描写だ。何しろ彼はその地位を利用して、元愛人で秘書課から特販部に異動させた今村春子(高島礼子)などに対し、セクハラ、パワハラの限りを尽くす。いまから見ると、この手の人間が日本経済をダメにしたのだな、とも思わせる。なお、今回のドラマでは、横山を三上博史が演じるが、この配役からしても津川雅彦とはまったく違ったものになるに違いない。同様に主人公も、福山雅治演じる片岡洋は、渋い相沢と無頼の滝川とそれぞれの要素を採り入れこそすれ、また異なるキャラクターになるのではないか。
映画「集団左遷」でいまひとつ特筆すべきは、登場する女性たちの役割である。そもそも特販部の設置を提案したのは、江波杏子演じる高杉という女性弁護士だった。また、滝川が特販部のPRのため相談を持ちかけるのは、住宅情報誌編集長の原(萬田久子)というやはり女性だった。いずれも自分の意思をはっきり示す人物として描かれている。前出の春子もまた、物語が進むにつれ、副社長との関係を完全に断ち切って、重要な役割を担っていく。企業ドラマというと、とかく男くさくなりがちだが、要所要所で女性がキーを握るこの映画は、平成前半の企業物では珍しいかもしれない。
この映画のクライマックスでは、神山繁演じる太陽不動産の菊川社長が、役員会議において「社員というのは一種の文化だと思う。文化というのを数字で計ってはいけない」という言葉を口にする。思えば、社員という文化をひたすら数字で計り、ギリギリまで削り取った末に疲弊させたのが、この平成という時代ではなかったか。
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