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序
雪が色を失った、透明な雨が降りてきた。
1月。酷く寒い冬の日に、私は1件の着信を受け取った。
「心配するな」
静かな声だった。静寂に音が吸い込まれるようだった。失われた人間の言葉が雨とともに放物線を描いて降りてきた。
「どこにも行きはしない」
それが最後の言葉だった。直後、爆発音が聞こえた。
遺体は結局、見つからなかった。今ではその名前も思いだせない。
I
物語には始まりも終わりもない。気持ちに終わりも始まりもないように、それはある一定の永続性をともなって進む。惑星の引力のようなものだと思う。互いに引かれあいながら遠ざかる。遠ざかりながら引かれあう。問題は何を対象に語るかだ。
物事はせんじ詰めると、死を如何に語り継ぐかという問題に突きあたる。
これは死を扱った物語だ。サイボーグ化された身体を扱った物語だ。機械化によってあらゆる欲望を可能にした人間の悲劇を扱った物語だ。
だが同時にこれは、〈失われた愛〉を扱った物語でもある。失われた愛を求めて砕け散った存在の物語でもある。
一体、僕は何を言いたいのか?
僕は彼女の生きた証を語り継ぎたいのだ。死を語り継ぐことは、その人物が生き続けることでもある。
そしてわれわれの犯した過ちを語り継ぐことにもつながる。
お願いだ。未来を変えてくれ。
美しい宝石の結晶から生みだされたアンドロイド。
人格を移植されたその心からは大切な感情が抜け落ちていた。
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