外を歩くと、抜けるような青空が広がっています。蝉の声も聞こえるようになりました。どこからか青々した植物の匂いがふっと運ばれてきたり。夏ですね。長期のお休みに旅行をされる方もいらっしゃるでしょうか。今回の同人誌は、異国のキルギスを旅し、ボランティアで遺跡発掘隊に参加された様子をつづったご本です。
今回紹介する同人誌
『2度目のキルギス!遺跡発掘編』A5 36ページ 表紙・本文カラー
作者:高橋ゆり
豊富な写真とマンガで、異国での発掘調査に参加体験を紹介
もともと中央アジアを旅することがお好きな作者さん。古代の文化にもずっとご興味をお持ちで、そんな中「キルギスの発掘にボランティアで参加できる」という話を聞き、旅立ちを決意されます。
キルギスで? 遺跡? と、考えてもみなかったつながりにびっくりしたのですが、発掘場所のアク・ベシムはかつてシルクロード沿いに栄えた交易都市だったそうです。さらにご本の解説を読むと、西遊記の三蔵法師としても有名な玄奘三蔵による旅行記に書き残された都市でもあったのですって。シルクロードや玄奘三蔵という言葉に、おぼろげながらイメージが湧いてきます。
ぱっと聞くだけでは謎の遺跡発掘地に赴く印象でしたが、たくさんの写真や、解説、そして作者さんの気持ちが伝わるマンガの数々によって、キルギスで行われた遺跡発掘の様子が親しみやすく紹介されています。本文もカラーで、状況がよく分かります。
準備や現地の様子も細かくレポート。そして最後に貴重な発見も!
作者さんはボランティア参加なので、旅費や宿泊費も自己負担。交通手段も己で確保しなければなりません。なんだか大変そう……と尻込みしてしまいそうですが、「行くっ!」と勢いよく参加を決意されただけあって、実に楽しそうにご準備をされていきます。
飛行機のチケットや、現地での移動手段の確保も、何かと手間がかかるのですが、何より旅の目的のため、観光旅行とは持ち物がひと味違います。遺跡発掘経験のあるお仲間さんから、動きやすい服装は自転車用のものがいいということや、滑り止めつきの軍手、土器を洗うためのゴム手袋などなどの情報を収集され、さらに現地の「朝露がすごい」などのお話も聞いて、最終的に大きなリュックにずっしりと詰められますが、それすらうれしそうな顔でリュックを背負われるお姿!
作業は発掘隊の先生の指導通りにとにかく地面を掘ること、とのこと。気温30度になる場所でひたすら掘り、土を運ぶ作業は地道で体力が必要そうです。それでも“私的には壁画が出たらいいなぁ”とうっとりされる作者さん。
重いリュックよりも、暑い作業よりも、またとない機会に携われる喜びの方が勝ったのがにじみ出ています。そんな思いが通じてか、なんと最後の最後に華麗な石畳が発見されました!
玄奘三蔵と同じ食事をしている……! はるかな過去を、いま旅する
でも、実はこのご本の中では、石畳の発見も意外に淡々と描かれています。もちろん吉報がとても喜ばしいのですが、見開きばーん! とページを使ったりはせずに、それすらマンガの1コマの中に納まっているんです。
ご本には、遺跡の発掘と同じくらい、現地入りしたルートのこと、何を食べて過ごし、時々観光した街の様子は……と、旅の暮らしそのものにたくさんページが割かれています。そして作者さんは帰国して、読書し、玄奘三蔵の食事に思いをはせているときにふと気付きます。「私、普通に毎日 玄奘三蔵と同じの食べてたっ!!」と。きっと作者さんは、古代のシルクロード文化も、いまの中央アジアの街々も、そして日本でそれらについて調べたり、準備をしているときも、ずっとずっと楽しんでいらっしゃるのではないかしら! と感じました。
出土した美しい石畳だけでなく、旅や、地道に遺跡を掘ること、一緒に遺跡発掘を進める先生たちや同行者さん、現地の方々とのふれあい、おいしいごはんも、その土地ならではの風景も……それらが同じように面白くって、大切にされている様子が伝わってきます。キルギスの遺跡の知識とともに、大好きなものに触れる旅って楽しそう! という気持ちにも触れられるご本です。
ただいま、東京・八王子にある帝京大学総合博物館では、このアク・ベシム遺跡の調査についての展示も行われているようですよ。
今週の余談
気付けばもう7月も最終週に。みなさま、夏の準備は万端でしょうか。海、山、ライブ、同人誌イベント! 栄養と水分を補給して、めいっぱい楽しい夏にしたいですね
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。