8月2日に放送された「凪のお暇」(TBS系)。どこまで行っても空気を壊せない我聞慎二(高橋一生)と、「1人で泳ぐ」と決意した大島凪(黒木華)の対比がエグい3話だった。
肩書きに惹かれていた。どこを好きだったか思い出せない
北海道で暮らす母・夕(片平なぎさ)から「東京へ行く」と連絡を受けた凪。パニックになって部屋を出ると、近所に引っ越してきた坂本龍子(市川実日子)がやって来ていた。凪は慎二との出来事を龍子に聞いてもらうことに。慎二がクズだと分かった龍子から「なんで付き合っていたのか」と問われ、凪は答えられないでいた。
出会いに恵まれない凪の為、龍子は凪に内緒で婚活パーティに申し込んでしまう。強制参加させられた凪はその場で元同僚の足立心(瀧内公美)に出くわし、パーティ後、3人は飲みに行くことに。言いたい放題の足立を前にサンドバッグ状態の凪だったが、「参加者の職業や年収がお眼鏡にかなえば抱かれちゃうってことだよね? それはチョロそうな女に群がる男と同じぐらい浅ましいんじゃない?」と言い返すことに成功。しかし、自分も慎二の肩書きに惹かれていたことに気付いて凪は落ち込んだ。
凪は慎二に会いに行き「慎二の肩書きに惹かれていた。どこを好きだったのか思い出せない。別れてください」と思いを告げる。その夜、凪は隣人・安良城ゴン(中村倫也)の部屋を訪ね、一夜を共にした。
はぐれイワシに憧れる慎二
前回(第2話)のレビューで「凪と慎二は似た者同士」と書いた。事実、2人には共通項がある。どちらも育った家庭に問題を抱えているのだ。夕から凪にこんな連絡が入った。
「身なりは? ちゃんとしてる? まさか、あのみっともない頭で外に出たりしてないわよね?」
ちゃんとすることを娘に課し、同時に薄給の娘に仕送りを求める母親。一方、実の母からくせ毛を「みっともない頭」呼ばわりされている凪。いつしか世間体を気にし、いい子を演じるようになった。
慎二の家庭は外側から見たら理想的だ。でも、父は外に愛人4人と子どもがいる。天然を演じる母は美容整形に依存していた。兄は家庭に嫌気が差して消息不明に。幼い頃から空気を読み、取り繕って生きてきた慎二。いい息子を振る舞い、そして貫くのだ。親戚の結婚式では出席者全員に話しかけ、「慎二君がいると空気が明るくなる」と言われるほど場を掌握。理想の家族ショーである。
「空気読んでるだけだし。そこに俺はいないけど。ただただ、相手にとって心地のいい言葉を返すだけ」(慎二)
水族館のデートで交わした会話で、凪は慎二と分かり合えないと思った。同じ方向を泳ぐイワシの群れの中、逆方向に泳ぐはぐれイワシが1匹だけいたのだ。
凪「がっ、がんばって! 落ち着いて。きっと、まだすぐ戻れるから」
慎二「何はぐれてんだ、あのイワシ。空気読めよな(笑)。他のイワシにぶつかってるし、死ぬんじゃねえ? ウケるわ」
空気を読み、同じ方向を泳ぐイワシは慎二の家族そのものである。だから「何はぐれてんだ、あのイワシ」という言葉が慎二の口を突いて出た。でも、慎二はそこにはいない。仮面を被り、自己を隠してきた彼は本音を言っていなかった。
「俺、そいつに憧れた。どんどんはぐれろ、勝手にどこまでも行っちまえって」(慎二)
群れから外れるイワシにシンパシーを覚える感性と境遇が慎二にはある。空気を読み続ける自分への反動だ。相手が欲しい言葉をサッと口にする自分を「透明人間」と卑下した慎二は、慎二以上に空気を読むことに必死な凪に癒やしを求めた。凪も群れから外れようとしているのだが。
空気を壊せない慎二
慎二と話をするため、凪は古巣の会社を訪れた。凪を見つけた高橋一生の演技は抜群である。「え、なんで?」と目を泳がせ、驚きと嬉しさを抑えようと必死! でも、抑えきれない。一度顔をそらし、そこから階段を斜めに突っ切り最短距離で凪へと向かっていった。子どもかよ!
「俺に会いに来たってこと?」(慎二)
慎二がどこかモジモジしている。ずっとこんな感じの彼なら良かったのに。その時、かつての同僚たちが凪を見つけてしまった。「本当に大島さんだ! 髪……」。会社では決して空気を壊さず、作り笑顔で場を円滑にする慎二。なのに、見世物になった凪の手を取り、マジな表情で同僚の前から連れ去った。
見るからに良さげなレストランの個室を取る慎二。2人は向かい合う。席についた慎二が見るからにウキウキしている。彼は素直になろうとしている。まずは凪が口を開く。
「営業部のエースで、出世頭で、みんな大好きな我聞慎二君。そういう慎二の肩書きに惹かれてたんだと思う。その証拠に、慎二のどこを好きだったのか思い出せない。これからは誰かに乗っかって泳いでいくんじゃなくて、ちゃんと1人で泳いでみたいの。私……慎二のこと好きじゃなかった。別れてください」
はぐれイワシになろうとしていた慎二に「1匹だけはぐれたイワシの気持ちは分からないよね」と言葉を掛ける凪。慎二の顔が見ていられない。「素直になろう」という決意は表情から消え、呆然となり、引きつり、強がりの表情へと戻っていった。慎二の心が折れた。
「何様だよ、お前ぇ」
やめとけ、慎二。彼はモラハラのスイッチを押した。
「俺ら、とっくに別れて……っていうか、元々付き合ってた記憶ないけど。せいぜい、婚活パーティで男漁りがんばってくださーい」
過去に遡ってまで「好きじゃなかった」と言われた慎二は、凪が抱くイメージに沿い、いかにも慎二らしい憎まれ口を叩いた。はぐれたイワシに憧れていたのに「はぐれる気持ちは分からないよね」と言われた彼は、凪の言葉を否定しなかった。凪の態度を受け、凪の想定内の態度を見せた。
相手の出方にいつまでも左右されてしまうテンプレ通りの慎二。「そう思われてるなら、こう返さなきゃ」的な対応。慎二は空気を壊せない。八百屋のレジ打ち間違えを指摘し、パワーストーンの購入を断り、足立にカウンターパンチを放った凪との対比。別れた後、テーブルに突っ伏した慎二。対する凪が表情一つ変えずだったというのもまた。
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