桜の開花のお話が聞こえてきた日、大木のひと枝が花開いていました。でも昼間のぽかぽか陽気と打って変わって、日が暮れるとぐっと冷え込むことも。風の強い花冷えの頃、おうちに籠る今こそ妄想にうってつけの季節かも!? 今回は、架空の物語を考えるのを手助けする「名前の作り方」の同人誌です。
今回紹介する同人誌
『フィクションのための名前の作り方』 B5 60ページ 表紙カラー・本文モノクロ
著者:蒼井拓
名前の作り方とは? 考え方を伝授
あんなことこんなこと、こんなストーリーもいいかも……文章、マンガ、ゲームなどなど、オリジナルの世界を作り出すのはとってもわくわくすることですね。でもキャラクターや街の名付けって迷いませんか? 私は購入したゲームのプレイヤー名でもすっごく迷うタイプです……。
このご本では英語をベースにして、人名はもとより、地名、愛称など、架空の名前を付ける方法論が示されます。中身はテキストびっしりで一見すると難解そうにも見えますが、一項目が短くまとまっているので、お茶でも飲んで一息入れながら読むのにぴったり。テキストの行間がわりと広めにゆったりと設定してあるのも、取っつきやすい雰囲気でうれしいポイントです。
架空とはなにか? 妄想の細部を突き詰める楽しさ
まずは舞台となる地名を考えるところから解説がはじまります。確かに地名だと言葉の意味と実体に関連性があるというのをスムーズにイメージしやすいかも! 英語を基本にしつつ、一つ一つを日本語にして考え直すことで、別の言語へ置き換える導きがスムーズです。
具体例はいくつか挙がりますが、辞書のようにたくさんの名前が掲載されているタイプのご本ではありません。名前を作るための言葉の組み合わせについて、順を追って説明が進められてゆきます。
キャラクターが暮らすのはどんな土地か? どんなご先祖さまだった? 呼ばれたときの響きはどんな風ならすてきでしょうか? それを丁寧に考えていくのは、生まれてくるキャラクターとおしゃべりしているみたいでもありますね。個人的には愛称について項目があったのがうれしいです。縮めて名前を呼ぶ親しみやすさが表現でき、しかも自分で作るからいくつかの候補からぴったりくるのを選べるってうれしいです。
言葉を通じて古今東西を知り、やがて新しい世界へ旅立つ
こちらのご本に接して思ったのは、具体的に名前を作るための手引きと向き合うのは、実は架空世界の地固めにつながっているということでした。ふわふわと創作をするときに、どうしても自分が知らない部分はふわふわしたまま放っておきがちです。言葉に注目し、発音のルールはどうなっているのだろう? と、言語の成り立ちを確認したり、土地の形状に思いをはせるという、すでにある“こちら側のこと”をしっかりと知ることで、妄想の“あちら側”がより豊かになっていくのを感じました。
知識から新たな創作が羽ばたくきっかけを読み取れる、そんなご本だと感じました。
今週の余談
暖かくなるとパンが発酵しやすくなるんです。牛乳を煮てミルクジャムを作る手軽さに気付いた昨今、次はそろそろパンも焼いてみようかな。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。