雄大、壮観、迫力の地層 ただただかっこいい地層をまとめた同人誌を読んで自然の魅力に圧倒される:司書みさきの同人誌レビューノート
今回紹介する2冊には、合計12カ所の地層を掲載。
あんなに強かった日差しが、いまやすっかり灰色の雲の向こうです。ぽつぽつと降り始めた水滴がやがてにぎやかな本降りになるのを窓から見上げ、「雨降って地固まる」のことわざを思い出しました。降る雨を浸み込ませて受け止める土の中……今回は地層の同人誌をレビューします。
今回紹介する同人誌
『地層 時の断層』A5 32ページ 表紙・本文カラー
『地層 おかわり』A5 24ページ 表紙・本文カラー
著者:週子
雄大、壮観、迫力の地層のかっこよさ
もう、とにかくかっこいいです。いつもの暮らしの中で地層を意識したことはなかったのですが、次々に繰り出されるその姿にくぎ付けです。カラーでばーんと掲載された地層のなんと迫力のあることでしょう。それは磯で波に洗われるような足元部分にもあれば、見上げる大壁にもあって、一口に地層と言っても、そのバリエーションにおどろきます。岩や土のしましまがこんなにかっこいいものだなんて!
作者さんは地層の専門家ではなく、「ただ地層を見るのが好きなだけの素人で」と自己紹介されていますが、雄大な遠景や、しましまだけとは限らない模様の面白さなど、さまざまに取り上げる目配があり、こんなところもあんなところもいいよね! とわくわくしていらっしゃるのが伝わってきます。
こんなにも地層にひかれるきっかけは伊豆大島の地層断面だったそうで、あまりの巨大さに興奮して「わー!!」と叫んで走り出してしまったとか。その感じ、ご本を読んでいるだけでも分かるような気がします。人としてというより生き物として体が突き動かされそうな雄大さが、A5のご本から十二分に感じられるんです。
写真と言葉で積み重ねる地層の魅力
ご本は写真とコメントで構成されています。まずは目を引かれる、異なる土壌がはっきり分かる見事な写真は、ご家族が撮影されたものも多いのだそうです。そして作者さんの的確なコメントが見どころポイントを教えてくれるのですが、「この逆断層の迫力は、凄まじいものがある」といったご自身の感じ方も交えた書きっぷりが少し硬質な雰囲気でかっこよさに拍車を掛けているんです。
ときに「説明など要らない。ただゆっくり見てほしい」と写真に任せ、ときに地層への思いを込めて書きつづり……と、写真と文章それぞれの持ち味を積み重ねて地層のご本が作られていることそのものも、またすてきなことですね。
地層との出会いは悠久にして、一期一会
ご本には北海道から沖縄まで、2冊合わせて12カ所のスポットが紹介されています。その中には一度ならず二度も訪れた場所も。
神奈川県三浦半島では、「あたかも芸術品のように垂直に切り出された露頭に目を奪われた」と強い印象が刻み込まれたものの、最初はガラケーでしか撮影しなかったことを後悔し、8年ぶりに同じ場所に向かわれたそうです。あたりは平らにならされて駐車場に変わっていましたが、インパクトのあるあの地層は健在! 少し色がくすんだり、植物が生えたりといった変化をまのあたりにして、再会を果たしたことを奇跡のよう、と喜びながら作者さんは「こうして長い時間をかけて再び土に還っていくのも、また地上にあるものの宿命なのかもしれない」と書かれています。
一方で、偶然に見掛けた地層をすかさずチェックされたのは千葉県富里市でした。ほかの観光地に向かう最中にたまたま出会い「まるで今切り出したかのようなフレッシュな断面が美しい」と機を逃さず鑑賞されています。
気の遠くなるような長い長いときをかけて形成されたその痕跡をたどりながら、それと同時に変わっていく部分やほんのひとときに見せた面をも愛でる壮大な楽しみ方がご本の中に織り込まれ、地層の世界へと連れて行かれました。
雨降って地固まるということわざに近しいものに、雨の後は上天気、というのもあるそうですね。地層の重なりから思えば、2020年の雨が明けるまでなんて一瞬かもしれませんね。いつかお出かけしたとき、悠久の地層はどんな顔を見せてくれるかしらと、雨上がりを待つ時間までもが楽しくなってきました。
今週の余談
ひんやりと降る雨の音をのんびり聞いていると、強い雨、弱い雨……音の波がありますよね。雨音に包まれながら本のページを捲ると、つい没頭してしまいますね。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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104ページという力作。