暑いですねぇ! つい先日までしっとりな日々を送っていたとは思えないほど、ひと息に夏がやってきました。日差しの強い夏は、おうちで読書にいい季節でもありますよ。今回は室内に居ながらにしてお出かけ気分も楽しめそうな地図にちなんだ同人誌です。
今回紹介する同人誌
『地図ラー 1』A5 64ページ 表紙・本文カラー
地図を愛してやまない「地図ラー」から生まれた同人誌
こちらのご本は「地図ラー」の方々からの寄稿が載ったご本です。地図ラーとは? ご本によると「地図を愛してやまない人」とのこと。この第1巻では地図好き10人によるレポートや考察、調査の結果や旅行記などが掲載されています。例えば階段研究家さんによる「私と地図」では、地図との出会いからはじまり、住宅地図の階段表記の読み取り方など、親しみやすい導入から奥深いところにぐぐっと話が進みます。
記事は短いものでは2ページ、長いもので10ページほどで、主に文章と画像で構成されています。地図を愛してやまない地図ラーの方々らしい、細やかな事柄に注目した文章が続くこともありますが、カラーページの現地の写真や引用された図版に助けられ、ときにかわいいイラストにほっとしながらのんびりと読むことができました。
地名、地形、都市の発展…楽しむポイントはあらゆるところに
地形に注目した街歩きはテレビ番組の盛り上がりもあり、近年面白さに目覚めた方もいらっしゃるのではないでしょうか。このご本を読むと、そのきっかけがたくさんのところに隠れているのに驚きます。
「地図と地形と地名とわたし」「夜の通勤路」「大学の歴史地理学」……と、目次を見てもその多様さが分かります。地図にはこんなに面白ポイントがあるんですねぇ! 実は地図ってどこかに訪れるためだけのものではなく、眺めてよく観察し、調べることで、1枚の平面図をもとに、お部屋に居ながらにして世界に羽ばたける要素も持ち合わせているのですね。
そして、なぜか街角に置かれている「ノラ椅子」や、モロッコを訪れて気付いた地形と人の営みのつながり、道に祀られた神々についてなど、現地を訪れてこそ見えるものも、地図ラーさんの熱いまなざしでしっかりキャッチされています。
老年からの「オタク」デビュー。知識と熱意が還暦からいよいよ加速する!
地図の楽しみ方がさまざまに詰まったご本の中で、短くもひときわ印象深いエッセイがありました。それはこの地図ラーの会、会長さんによる「地図ラー誕生日秘話」です。
地図に引かれて、薄い紙に出会うと地図を写し取れるように紙の確保に努めた少年時代。写しとるだけでなく、そこから浮かび上がるさまざまな謎が心にたまっていったこと。会長さんは「地図のことになると人が変わったようにポジティプになる少年」と振り返っています。なんてすてきな地図とのお付き合いなのでしょうか。
しかし、そこから話はひといきにご自身でいうところの「老人の一歩手前まで」過ぎていきます。ある集まりでついに会長さんは自分が地図に興味があることを言葉にします。そのことを「そう、オタクであることが恥ずかしいことではなくなったという時代背景にも後押しされた」と書かれています。そして還暦を迎えたいまも「地図に関する知識と熱意はどんどん高まっている」とのこと。胸に温めた好きの思いがあふれ出したことで、地図好き同士がつながり、同人誌を発行し、力強く「地図が好き!」を満喫されていらっしゃるわくわく感が、ご本全体に満ちているような気がします。
『地図ラー』は現在3号まで続刊しています。地図の楽しみ加速中です!
今週の余談
ごく初期からコミケに参加された方のお話を聞く機会があったときに「かつてマンガを描くのは大人になると“マンガ家になる”か“描くのをやめる”か2択だった。いまは趣味として描き続けられる幸いがある」という趣旨のことをおっしゃっていたのがとても印象的でした。胸に秘める楽しみも、胸をひらくうれしさも、いつだってかなえられる今であってほしいと思います。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- 「10年後には朽ちるものを100年後に延ばす」 博物館の裏方描いた漫画が驚きの連続
『ただいま収蔵品整理中!Vol.1』『ただいま収蔵品整理中!金属保存編』をご紹介。 - アフリカで初音ミクのライブをやってみた 一人の教師が実現させた異国の”ミクライブ”
今回は初音ミク愛にあふれた『Miku in Africa』をご紹介。 - 決してひと事ではない? 同人誌『夜10時カギを忘れて家に入れず初めてカプセルホテルに泊まった話』
忘れたと確信したときのドキドキ感……。 - 全国各地の“恐竜像”を1冊に 220カ所ものスポットを紹介した「日本全国恐竜公園ガイド」にワクワクする
そんなところにもいるの!? - こんなの待ってた! アメコミの効果音を集めた辞書がマニアックすぎて心くすぐる
今週はサークル「FANDOMAIN」さんの同人誌「アメリカンコミックス効果音辞典 スーパーヒーロー誕生から70年代まで」をご紹介。 - 国体初のマスコット”未来くん”を小説に 同人誌『古都こと奇譚』は京都を舞台にしたキャラクターたちの物語
皆さんの町にも、人気を博したキャラクターがきっといるはず。 - 炎の揺らめきと溶けた金属 職人自ら撮影した鋳物製造の写真集『滴る金属』
こだわりが詰まってる。 - “お江戸のコミック”を現代語訳 同人誌『黄表紙のぞき』が江戸文化の扉を開く
難易度の高かった「くずし字」を読みやすく。 - これまで撮った「片手袋」の写真は4000枚超 築地に通って約20年、“片手袋研究家”による同人誌が奥深い
趣味、ここに極まれり。 - 理学部生だったあの頃の自分に伝えたい 作者の後悔から生まれた同人誌『理学部生を手伝うイモリ』
イラストはかわいいけど中身はマジ。 - “テレポートするナメクジ”を追った5年間 調査の内容をまとめたレポマンガに興奮を隠せない
104ページという力作。