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実在の温泉から小説内の温泉まで オリジナルの浴衣の柄をデザインした同人誌『妄想温泉浴衣』司書みさきの同人誌レビューノート

本自体のデザインもすてきです。

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 とても暑い日差しが陰り、夕暮れに少し涼しい風が吹き始めた頃、浴衣でそぞろ歩くのが似合う季節ですね。夏祭りや花火大会に着ていくのも楽しみですが、今回はさっぱりとした着心地が最大級に恋しくなりそうな、温泉地の浴衣に注目した同人誌です。

今回紹介する同人誌

『妄想温泉浴衣』A5変形 16P 表紙・本文カラー

著者:スタジオクゥ:ひよさ&うにさ


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“ラッピングペーパーブック”という副題も気になります

実在の温泉も、架空の“亀の湯”も。妄想の温泉浴衣6選

 こちらのご本には温泉地で使われていそうな浴衣の柄が載っています。作者さんは『温泉浴衣をめぐる旅』というコミックエッセイを商業誌で出されているお二人で、全国の温泉地とそこで使われている浴衣についてたっぷりの思い入れと、見識がある方たちです。そんな作者さんたちが『温泉浴衣をめぐる旅』のスピンオフのようなおつもりで、このご同人誌では「あったらいいな」の思いを膨らませ、温泉地のイメージをもとに空想の温泉浴衣の柄をデザインされたそうです。

 土地ごとにさまざまな魅力のある中で何にスポットを当てたのかは、ごく短いのにするりと事情が飲み込めるエッセイと、お二人がきゃっきゃと楽しむ様子がかわいく描かれたイラストでつづられており、さらに、開いてあっと声が出てしまうような、浴衣の柄を見せる折込みのページで、6つの妄想浴衣を見ることができます。

 例えば熊本県の人吉市では、全国で唯一その形が残された歴史あるカルタ「ウンスンカルタ」をモチーフにして、七福神の福禄寿が剣持つ姿などがかっこよく描かれているように、実在の温泉地をはじめとし、あるときは日本を飛び出してチェコのスパへと思いをはせ、またあるときは現実世界を飛び出して横溝正史の『悪魔の手毬唄』に登場する亀の湯にまで行きつき、妄想ならどこまでも行ける幅広さを楽しませてくれます。

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折込みを開くと浴衣の柄が

かわいさと渋みの同居が光る装丁

 さて、浴衣の柄を見せるこのご本、オリジナルの柄ももちろんのこと、本の作りそのものもまたとってもすてきなんです。

 厚手の黒い紙の表紙に対して、本文はごく薄い紙が使われ、さらさらつるつるした手触りに触れただけで、なんだかこれから楽しいことが始まりそうだぞ、と指が伝えてきます。とても細い線まで金色で刷られたかっこよさに驚きながらじっと見たら、実は描かれているのは作者さんたちが浴衣をまとって卓球をしていたりするという、おかしみのある表紙にぐっと心をつかまれ、さらに表紙と本文、浴衣の柄ページはそれぞれ紙の横幅が違っていて、本文を読んだあと、折り畳まれた紙をそーっと広げると浴衣の柄がどーんと楽しめるように、ちょっとした仕掛けがあるのもわくわくします。カラフルなのに抑えた色味なのも、肩の力を抜いて楽しむ温泉地の浴衣らしくてすてきです。

 副題に“ラッピングペーパーブック”とあるように、浴衣柄紹介のページは包装紙をイメージされたとのこと。すてきなお菓子の箱や包装紙を大切にとっておいたときのようなきらきらした気持ちと、細やかな印刷、考えられた装丁に「こりゃいいねぇ!」とじっくり作りを味わいたい渋みが一冊に同居しています。

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もしもチェコのスパに温泉浴衣があったらこんな柄? 温泉水を飲むカップの繊細な模様も、カラフルな色身もかわいい!

妄想旅の思い出とお土産が一冊に

 内容、造本ともに完成度の高いご本をゆっくりと眺めているのは、温泉地で過ごす時間に似ているように感じました。お湯につかってほかほかの体とゆるゆるの気持ちで、この土地はどんないわれがあるのだろうとのんびりと旅館のお部屋備え付けのパンフレットをめくってみるような、やわらかなひとときです。温泉地を楽しむだけですてきな時間なのに、妄想という、好きなものを好きなように考え抜いた味付けがそこに足されているのですから、読んでいるうち、ますますその土地や、緩やかな時間への愛しさが湧いてきます。

 旅への期待、訪れる楽しさ、思い出、そして手仕事感の詰まったお土産を持って帰るうれしさまでが一冊に詰め込まれているようです。

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愛らしさと渋さの同居、手に取ってめくる楽しさがあります

サークル情報

サークル名:スタジオクゥ:ひよさ&うにさ

入手できる場所:中野活版印刷店

次回イベント参加予定:大和屋履物店(東京都千代田区神保町)でイベントを予定(2021年8月27〜29日)


今週の余談

 スタジオクゥさんはこの夏に実店舗での催しを予定されているとのことですが、これまでに作られた手ぬぐいなどがいますぐ大和屋履物店さんのサイトで見ることができるのもうれしいですね。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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