富士山に夏が来た! 静岡・富士宮口から登るならこの駅弁〜富士駅弁・富陽軒:新富士駅「巻狩べんとう」(1200円)
毎日1品、全国各地の名物駅弁を紹介! きょうは新富士駅の駅弁「巻狩べんとう」です。
【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
7月10日、富士山の静岡県側で山開きが行われ、富士山の本格的な夏山シーズンが始まりました。静岡県側で最も登山者が多い富士宮口は、全国の浅間神社の総本宮・富士山本宮浅間大社に参拝して登山できることでも有名。そんな富士山がよく見える駅、東海道新幹線・新富士駅の駅弁を製造する「富陽軒」が先日、創業100年を迎えました。今回は、名物駅弁の1つ「巻狩べんとう」の盛り付けを見せていただきました。
駅弁屋さんの厨房ですよ! 第27弾・富陽軒編(第1回/全6回)
雲一つない青空の下、雪のない真夏の富士山が姿を見せてくれました。その前を最新鋭N700S新幹線電車の「のぞみ」号が走り抜けて行きます。東海道新幹線の三島〜新富士間は新幹線随一の絶景区間。このために山側を予約する方も多いですね。「のぞみ」は一気に駆け抜けますが、各停の「こだま」号は富士山が見えると新富士に停車。新富士駅は、昭和63(1988)年3月に開業した、「こだま」のみが停まる新幹線単独駅です。
新富士駅の開業よりはるか前、大正時代から東海道本線・富士駅の駅弁を手掛けてきたのが、静岡県富士市を拠点に駅弁を製造する「富陽軒」です。富陽軒は、今年(2021年)6月22日で、創業100周年を迎えました。富陽軒の本社・工場は、富士駅から徒歩15分ほど、富士駅と分岐する身延線・柚木(ゆのき)駅とのほぼ中間にあります。天候に恵まれると、社屋からはもちろん富士山を望むことができます。
新富士駅が開業した年の夏、昭和63(1988)年8月から販売されているのが、「巻狩べんとう」(1200円)です。JR発足直後、東海道新幹線の各駅で1000円の駅弁として販売された「新幹線グルメ」の1つとしても駅弁好きには知られています。巻狩(まきがり)とは、鎌倉時代初期、源頼朝が御家人たちを集めて富士山麓で行ったとされる大演習のこと。この故事にちなんだ駅弁の製造風景を見せていただきました。
まずは1つずつ重さを量りながらご飯が詰められ、ゆかりが振られていきます。巻狩べんとうの白いご飯は私も大好き! コロナ禍前は機械による盛り付けも行われていましたが、いまは丁寧に手作業とのこと。
富陽軒では「冷めても美味しい」駅弁を実現するために、日本全国の米をブレンドして使っていると言います。その年その年によって、米の出来が変わるため、米屋さんと相談しながら、米選びには力を入れているそうです。
ご飯に続いて、笹の葉を敷いておかずの盛り付けが始まります。「巻狩べんとう」は、おかずがたっぷり10種類以上入った幕の内系駅弁。焼魚には鮭の照り焼き、生姜の風味が効いて食欲がそそられる牛肉煮や鶏の雉焼きも入って、肉と魚が両方楽しめる駅弁です。
富陽軒によると、健康ブームにのって一時、ボリュームを減らしたところ、お客さまからお叱りの声をいただいたこともあるのだそう。職人さんの手で、手際よくきれいに盛り付けが行われて、気が付けば、あっという間にお品書きを挟んでふたが載せられました。
「巻狩べんとう」は、掛け紙を紐で綴じる、昔ながらの伝統を受け継いだ駅弁です。掛け紙には、御家人たちを引き連れ、富士の裾野を勇壮に駆ける源頼朝が描かれています。
富陽軒でも、新作には、折を厚紙に挟み込むスリーブ式包装の駅弁が増えていますが、職人さんが掛け紙をかけて紐で結んでいく駅弁がしっかり残されているのは嬉しいもの。おしまいにロゴが入った割り箸を挟みこんで、「巻狩べんとう」の完成です!
【おしながき】
- ゆかり御飯 梅干し
- 鮭の照り焼き
- 笹がき信田巻き
- 牛肉、猪もどきしょうが煮
- 玉子焼き
- 鶏の雉焼き
- ちぎりこんにゃく煎り煮
- 筍の古武士煮
- しめじ茸旨煮
- ふきの青煮
- 茎山葵漬け
- 漬物 酢取りしょうが
ふたを開けると、ご飯のいい香りと一緒にぎっしり詰まったおかずが現れました。鮭や玉子焼きが目を引きますが、こだわりは「煮物」! 富陽軒では“煮物の味が店の評価を決める”最も重要な調理技術と位置付けているのだそう。ときに優しく、ときにはパンチを効かせ、食材の個性に合わせた煮物にしていると言います。牛肉の生姜煮、筍の古武士煮、ピリ辛のちぎりこんにゃくの煎り煮など、じっくり味わいたい、こだわりの煮物がいっぱいです。
2年ぶりに始まった夏の富士登山。東海道新幹線・新富士駅からも、富士宮口五合目へ登山バス(路線バス)が運行されています。コロナ禍のため例年より本数は少なめですが、五合目までの所要時間は約2時間。一部の便は富士山本宮浅間大社での参拝時間が設けられています。登ってよし、眺めてよしの日本一の山・富士山。その麓で駅弁を作り続けて100年を迎えた富陽軒の石井大介代表取締役に次回、お話を伺ってまいります。
(初出:2021年7月23日)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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