寒さが和らぎ、待ち行く人々の姿が少しカラフルになってきたような気がします。厚いコートを脱いだ服装からのその人らしさを感じることがあります。今回の同人誌はおしゃれでかっこいい人物たちを描いたイラスト本なのですが、彼らには一つの共通点があって……。
今回紹介する同人誌
『Handbook of Orthodontics』B5 28ページ 表紙・本文カラー
著者:PHI、まりち
口元からキュートがあふれる。体験者が描く共通点は……
ご本は架空の「まりぴー歯科」からのごあいさつで始まります。そしてページをめくると雰囲気一転! 一癖ありそうなスタイルの人物イラストが登場します。彼ら、彼女たちは「まりぴー歯科」にやってきた患者さんという立ち位置です。洋服もアクセサリーもさまざまな彼らですが、実は共通点があるんです。それは歯にワイヤの矯正器具をはめていること。口元からちらっと、いやときに大胆に見せつける4人の姿が描かれます。
ご本づくりは作者のお二人がご自身でも歯列矯正を行っていることがきっかけだったそうです。イラストのご本で、歯列矯正の専門書や治療の方法について説明する内容ではありません。ごあいさつでも「これから矯正したいなと考えている方にとって恐らくまったく役に立つことはない本書でございます」なんて書かれています。しかしむしろその日常っぽさがぐっときました!
自分らしくへの道のりの途中も、もちろんかわいい! かっこいい! 愛おしい!
登場する4人はおのおのの「好き」を強力に追求している雰囲気を纏っています。髪形や身につけるもの、頭の先から爪の先まできっとこだわりの品々が身の回りにいっぱいあるに違いない、と思わされます。いや、そんなに気負って無いかしら。描かれるのはかっちりきまったポーズというより、肩の力が抜けたいつもの様子のように見えます。まずはこだわりありそうな彼らの、でも自然体な姿が魅力的なんです。そして、そこにさらなる追加アイテムとして歯へのワイヤがプラスされているんです。
歯列矯正をする理由は、健康や美容などいろいろな側面が思い浮かびます。それに向き合う間はどなたも日々の暮らしの中で治療中というステータス状態となり、ずっと一緒のツールだからこそ、きっと難しい側面も……と思いをはせます。ただ、紙面から発せられるのはキャラクターたちの「どう? これ良くない?」と話しかけてくるようなイカした姿勢。自分を魅力的に見せる彼らがより自分らしくを目指していく道のり、その途中の今も、既にかっこいい! かわいい! いい雰囲気だー! がひしひしと紙面からあふれます。
お互いのキャラデザを描いてみる交換のメッセージ
今回のご本はお二人で作られていて、まずキャラクターを作り、そのキャラをお相手がイラストとして仕上げる……という手順だったそうです。後半にはキャラクターデザインのページもあります。こういう、身につけているものの解説とか、癖や特徴、エピソードがちょっと分かるの……好きです。
彼らにどんな背景があるのかなと少し考え、「あっ、これ今回きっと描き手さん同士もこんな想像されたのでは?」と気付きました。一人のキャラクターが生まれ、それを解釈して描かれたイラストは、あらためて見直してみれば、作家さん同士の交換日記のような気がしてきました。そして、キャラクター表があることで、読者も自分なりに思いを巡らせることもできちゃう! クールもキュートも、イマジネーションもご本の中にありました。
サークル情報
PHI
サークル名:【BUBUR CHA-CHA】
Twitter:@KIM_YANGPHI
入手できる場所:BOOTH、BASE ※不定期オープンのため詳細は各Twitterでチェックを
Webサイト:https://kim-yangphi.tumblr.com
次回イベント参加予定:鳳翼転生展(2022年3月5日〜18日、東京・両国 ギャラリーバー108-トウハチ-)、関西コミティア64(2022年5月22日)
まりち
サークル名:【MRC】
Twitter:@mrc968
入手できる場所:BOOTH(3月9日までオープン中)
次回イベント参加予定:関西コミティア64(2022年5月22日)
今週の余談
今回のご本、即売会で購入した際には専用の「歯科っぽい封筒」に入れられていたのもお楽しみポイントでした!
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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イラストはかわいいけど中身はマジ。