【ライター望月の駅弁膝栗毛】
「駅弁」食べ歩き20年・5000個の放送作家・ライター望月が、自分の足で現地へ足を運びながら名作・新作合わせて、「いま味わうべき駅弁」をご紹介します。
駅弁屋さんには、さまざまな「強み」があります。肉料理、魚料理、幕の内、ご飯などなど……。全国の各駅弁屋さんは、地域の食文化に根差した「強み」を生かした名物を作ることで、100年以上にわたって、その伝統をつないできました。敦賀駅弁・塩荘は、「すし」駅弁が、多くを占め、通信販売も展開している駅弁業者です。港町・敦賀で、なぜ「すし」にこだわった駅弁作りを続けているのか、トップに伺いました。
「駅弁屋さんの厨房ですよ!」第32弾・塩荘編(第5回/全6回)
北陸本線・敦賀駅と舞鶴線・東舞鶴駅(京都府)の間を若狭湾沿いに走るJR小浜線。令和4(2022)年12月で、全線開業100周年の節目を迎えます。長年、非電化のローカル線として地域輸送を担ってきましたが、平成15(2003)年、全線が直流電化されました。現在は、新快速でおなじみの223系電車をローカル用にアレンジした125系電車が主役。敦賀〜東舞鶴間の84kmあまりを、短編成の普通列車が約2時間で結んでいます。
非電化時代、小浜線の看板列車として運行されたのが急行「わかさ」です。運行区間は時代によって大きく変わっていますが、基本的には小浜線を全線走破する希少な優等列車でした。敦賀港赤レンガ倉庫の横には、かつて、「わかさ」としても活躍したことがある国鉄急行色のキハ28形気動車が、敦賀市によって「後世に伝えるべき鉄道遺産」として保存されています。
若狭の食材は、古くからいわゆる「鯖街道」などを通じて、京へ運ばれていました。また、小浜では、奈良・東大寺のお水取りに関連する「お水送り」の行事がいまでも行われるなど、畿内とは深いつながりのある地域でもあります。敦賀は越前国でしたが、小浜藩とされた時期もあり、若狭への玄関口となっていきました。そんな敦賀の駅弁を作って100年あまり、株式会社塩荘の刀根荘兵衛代表取締役が語る、すし駅弁へのこだわりです。
こだわりの「酢」で作られる、塩荘のすし駅弁!
―すし駅弁が多い塩荘、「酢」にはどんなこだわりがありますか?
刀根:もともとは、小浜の米酢を使用していました。これを弊社で、ざらめの砂糖などと合わせて寿し酢にしていましたが、低温で調理するので時間が経つと、中味が分離してしまう難点がありました。また、職人によっても品質にバラつきがあるのも課題でした。そこで、大手の酢のメーカーさんに、オリジナルのレシピで委託して、機械で合わせてもらうことで、安定した酢飯を提供できるようにしました。
―昨今、魚の仕入れには、きっとご苦労も多いでしょうね?
刀根:昔と比べて魚介類が獲れず、仕入れ値が高騰しているのは悩みの種です。とくに今シーズン、カニは厳しいですね。魚介類は長年の取引先から仕入れています。原料を安く仕入れるのは、そのときはいいですが、後々になってさまざまな影響が出てきます。なので、長年お付き合いさせていただいている取引先から、お客さまが安心できる食材を仕入れるようにしています。
デフレが及ぼした駅弁への影響とは?
―今後、使ってみたい食材はありますか?
刀根:日本海で獲れる「カレイ」を使ってみたいですね。あと、取り組みは始めていますが、焼鯖やのどぐろなどを、福井のご当地味噌・永平寺味噌などと組み合わせてみたいです。以前、地元産のフグで新作駅弁を作ったことがありますが、淡白な味なのと高価なこと、さらに皆さんが、「福井=フグ」だと、ピンと来ないので、正直、あまり売れませんでした。食材選びは、皆さんが「わかる(ブランド)もの」でないといけないので、難しさはあります。
―幕の内系の駅弁は、どうでしょうか?
刀根:現状、寿し駅弁にほぼ特化しているのは、幕の内駅弁があまり売れないからです。敦賀から特急に乗ると大阪まで1時間20分あまり、米原まで約30分ですので、多くのお客さまは、コンビニのおにぎりなどをお求めになる程度です。寿し駅弁も車内ではなく、ご自宅への土産としてお求めになる方がほとんどです。地方都市ではデフレが進んで、1000円を超える幕の内系の弁当は、あまり売れなくなってしまいました。
原発停止とコロナ禍を乗り切れ!
―経済的な点で言えば、敦賀周辺は、原子力発電所の稼働停止によって、この10年、大きな影響が続いていますね?
刀根:大打撃でした。人口も減りました。顕著な例では、呑み屋さんが流行らなくなって、中心部は灯が消えたようになりました。この地域の公園では数年前、住民から「暗いので街灯を設置するよう」要望が出ました。それまでは街のネオンで十分に明るかったんです。塩荘でも、原子力発電所の定期点検が行われている期間中は、何百人という作業員の皆さんの昼食をご用意していました。
―そこへ「コロナ禍」……本当に大変ですね。
刀根:コロナ禍は、完全に追い打ちをかけました。敦賀へ鉄道でお越しになるお客さまもいらっしゃいませんでしたし、特急「サンダーバード」なども減便されました。このままでは、とてもやっていけません。そこで、令和3(2021)年の春に、冷凍用の機械を入れて、もともとやっていた通信販売を拡充する格好で、寿司駅弁の冷凍販売を始めました。まだまだ認知度が低いので、これからです!
平成9(1997)年、いまの5代目・刀根荘兵衛社長が就任後に手掛けた、自らの名前を冠した「荘兵衛さん」シリーズの寿し駅弁。約20年前に登場し、いまでは敦賀駅弁の1つのブランドとなりました。なかでも「荘兵衛さんの鯖街道さばずし」は代表的な存在です。土産に買うならレギュラー版10カン(1700円)。旅の途中でいただくなら、笹皮に包まれた半分の5カン入り・食べきりサイズ(950円)がお薦めです。
【おしながき】
- 鯖寿司(酢飯:福井県産米コシヒカリ+ハナエチゼン、〆鯖、昆布)
- ガリ
- 醤油
もともと、鯖の棒寿司などを手掛けていたという塩荘。「荘兵衛さんの鯖街道さばずし」で、いちばんこだわったのは、原材料の鯖だと言います。国産の肉厚の大きな鯖、それも日本近海で獲れた新鮮で生臭さがないものを仕入れているそうです。それゆえ、安定して駅弁を販売できる量を確保するのは厳しく、値も張ってしまうのが悩みの種だそう。でも、脂がのった鯖のうま味と酢飯のサッパリ感が口のなかに広がると、至福のひとときなんですよね!
塩荘・刀根社長によると、いまの特急「サンダーバード」や「しらさぎ」を観察していると、残念ながら車内で駅弁の折を開いている方をほとんど見たことがないと言います。そんな特急列車が走る北陸本線に沿って建設が進んでいるのが、北陸新幹線。2年後には金沢〜敦賀間の開業が予定され、いまの敦賀は多くの工事関係者が溢れています。次回は新幹線開業に向けて、老舗駅弁屋さんはいま、何を考えているのか、伺っていきます。
(初出:2022年2月2日)
連載情報
ライター望月の駅弁膝栗毛
「駅弁」食べ歩き15年の放送作家が「1日1駅弁」ひたすら紹介!
著者:望月崇史
昭和50(1975)年、静岡県生まれ。早稲田大学在学中から、放送作家に。ラジオ番組をきっかけに始めた全国の駅弁食べ歩きは15年以上、およそ5000個!放送の合間に、ひたすら鉄道に乗り、駅弁を食して温泉に入る生活を送る。ニッポン放送「ライター望月の駅弁膝栗毛」における1日1駅弁のウェブサイト連載をはじめ、「鉄道のある旅」をテーマとした記事の連載を行っている。日本旅のペンクラブ理事。
駅弁ブログ・ライター望月の駅弁いい気分 https://ameblo.jp/ekiben-e-kibun/
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