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台湾に行けないから関西圏のホテルに泊まってきた 1年半のホテル巡りが同人誌になるまで司書みさきの同人誌レビューノート

机の使いやすさに目線を向け、40件を自腹レビュー。

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同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 春の訪れと時を同じくするように、あちこちの観光地の話題も耳にするようになってきました。感染症が流行しはじめてから月日がたち、暮らしも、楽しみも、まだまだ手探りながら、少しずつ前へ進み始めているように感じるこの頃です。こちらの同人誌の表紙には大きく「台湾」の文字が。あら! もう国外に遠征のご本が? と思ったら、そのあとに「に行けないから近所のホテルに泊まって同人誌を作ってました」と続いています。今回のご本は関西圏のホテルに泊まり続けたレビュー本です。

今回紹介する同人誌

『台湾に行けないから近所のホテルに泊まって同人誌作ってました。』A5 115ページ 表紙・本文カラー

著者:tamazo


同人誌の表紙
黄色とやわらかな水色が明るく目を引きます

大事なポイントは机の使いやすさ。関西圏ホテルレビュー40件

 宿泊記録は2020年9月からはじまります。度々訪れていた台湾に行くことができず、空いた時間でこれまで撮りためた写真を生かしてご本を作ることを決意されたのが、40件ものホテル巡りをされるきっかけだったそうです。「集中できない自宅から退避し、ゆっくりパソコン作業をしよう」というのがホテル宿泊の理由だけあって、特別に大切にされているのが机の使いやすさです。部屋の快適さやお風呂の快適さなど10項目が数値化されている中で、「机の使いやすさ」項目が堂々の冒頭に配置されて、作者さんの作業するぞ! という意気込みが伝わります。

 見開き1ページにつき1つのホテルが紹介され、独自の項目で使用しやすさを判定したもの、お部屋の写真、利用した感想がまとめられ、評価基準が分かりやすいのと同時に、文章部分でも、朝食にたこ焼きが出て「熱々でおいしくてびっくり」なんていう、その土地ならではの空気が伝わってきます。

同人誌の表紙
どんな部屋なのか一目で分かりやすい!

自分も楽しみ、読み手も楽しませるしかけがいっぱい

 本文が110ページもあるたっぷり情報の詰まったご本、これを楽しい! と読んでしまう秘訣(ひけつ)は、独自の視点とすてきなデザインではないでしょうか。

 作業しやすさに重点を置くのをはじめとして、“隣のビルを見下ろす建築好きの視点”“タオルの分厚さに喜ぶアメニティーチェックの目”など、文章、情報にはさまざまなホテルに泊まり、比べることで浮き上がる面白さが詰まっています。例えば、数々のホテルを見ていくうちに「最高のワークデスクが出現!」と、机の使いやすさ項目で満点を獲得するホテルが現れます。しかし総合点で見ると別のホテルが高得点をたたき出しており……と、評価だけ見てもドラマチック! 単独の項目だけにこだわりすぎないことで、宿泊先のさまざまな魅力が見えてくるようです。

 さらにその良さが、ご本のデザインで拍車が掛かります。ホテルの名称、所在地区、宿泊したお部屋の禁煙・喫煙の状態といったベーシックな情報から、ご近所のおいしそうなお店まで、実はすごい情報量がページに詰まっているのですが、驚きの見やすさなんです。何の違和感もなく読み、本の楽しさにするっと入っていけ、しかも過度ではないおしゃれ感。うーん、強いて言うなら文字がもう少し大きいと個人的には好みかなぁ……いやいや、この膝に置いて邪魔にならないサイズだからこその良さが……と考えてしまうのはもはや贅沢な悩みというくらいに、企画、構成、情報、文章、デザインに隙がないのに、かしこまらずにさらっと読める心地よさ、すごいです。

同人誌の表紙
目次もかわいくデザイン

足掛け16カ月、ホテルレビューに日々の気持ちがにじみ出る

 ホテルの掲載順は作者さんが宿泊された順番になっています。2020年の秋から2022年の年明けまで、時には続けて泊まったり、ホテルのハシゴをされたり、40というその数にはただただ驚きますが、順を追って読むと「(予定していた遠方の宿を)泣く泣くキャンセル」といった悲しさから行動を起こしたり、「遂に底値になったので満を持して予約」「底値と思われる域に突入したので予約してみた」などのお得情報を見逃さないように気になるホテルをチェックし続ける姿勢など、作者さんに流れている時間も一緒に見えてきました。

 最初は以前の旅の様子をまとめるためだった宿泊記録ですが、ある日の一文に「いよいよ私のホテル行脚の記録を1冊にすることを決心」と登場した時にはおもわず読んでいながら「おお……ここにつながった!」と、はっとしました。旅という楽しい栄養分が途切れてしょんぼりしたときに、自分でできる範囲でわくわくをちょっとずつ探し出して摂取する、その積み重ねをアウトプットに結び付ける流れを、読んでいるこちら側もいつの間にか自然に体験していたのですね。気になるホテルから読むのも、小さな非日常の日々のスタートからゴールまでを追って読むのも、どちらも楽しいご本ですよ。

同人誌の表紙
どんな机がお好みですか? 机コレクションなど、テーマにそってまとめたコーナーも

サークル情報

サークル名:鉄窓花書房

Twitter:@tamazo919build2

入手できる場所:はちみせ(通販のみ)、シカク(大阪市此花区)、フォルモサ書院(大阪市北区)、1003(神戸市中央区)、風文庫(兵庫県芦屋市)、本屋プラグ(和歌山市)、甘夏書店(東京都墨田区)、弥生坂 緑の本棚(東京都文京区)、広島蔦屋書店(広島市西区)、本のお店スタントン内「モルタル書房」(大阪市東住吉区)、ぽんつく堂(@hanpenspy、枚方市)

次回イベント参加予定:マニアフェスタ(「ビジネスホテルいろいろマニア」2022年4月30日10時〜17時、幕張メッセ)、おもバザハンズ松山(2022年4月29日〜5月5日)


今週の余談

 感染症の流行とともに旅への考え方もがらりと変わりました。どんな風に旅し、帰ってくるのか、まだまだ探りながらなのを感じています。無理せず、日々に楽しさをプラスするためにいろんな方向を知ることができるってうれしいです。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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