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自分とまわりに向き合うエッセイ 同人誌『それが私にとってなんだというのでしょう』が向ける生き方へのまなざし司書みさきの同人誌レビューノート

内容は友達との会話やネット観察などさまざま。

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 活字離れ、なんて言葉が折につけもう何年も繰り返し登場しているような気がします。でもSNSや文章が投稿できる各種プラットホームの豊富さを見ても、それは決して“文章離れ”ではないと思うこのごろ、今回のご本は表紙以外は全て文章の同人誌です。

今回紹介する同人誌

『それが私にとってなんだというのでしょう』A5 46ページ 表紙カラー・本文モノクロ

著者:noi、たほ

表紙:駒込



伸びやかに! 実はさまざまに要素が詰まった表紙です

友達との会話もネット観察も。自分とまわりに向き合うエッセイ

 目次には「女友達の新しい彼氏との馴れ初めを聞きに行ったら死ぬほど文学だったから文学書きました」「お気持ちがバズって考えたこと」「なんで彼氏がいるのに他の男と食事したりするの?」と、タイトルが並びます。こちらのご本は、作者お二人のエッセイ本です。

 冒頭の1つめから“文学を書きました”とぱりっとしたタイトルで始まりますが、文学とは何か、を投げかけるような堅苦しさはありません。「女友達の〜」「なんで彼氏が〜」のような異性とのお付き合いに端を発するもの、「お気持ちが〜」ではインターネットで文章を公開したらで爆発的な反応があった件……と、どれもお二人のまわりで起こった日常の出来事が語るような文章でつづられています。

 実は作者さんたちのプロフィールはご本のどこにも載っていません。ただ、読み進めるうちに、お二人はきらびやかな街のオープンカフェで“テニプリのドリーム小説”のような、通じる人にだけ通じる言葉を遠慮なく口にできる間柄なのが伺えます。しかし、それでいて考え方までおそろいな訳ではなく、何を感じたのか、どう考えたのか、各々の“私”の内側へと潜っていくさまが表されていきます。

同人誌『それが私にとってなんだというのでしょう』
「女友達の新しい彼氏との馴れ初めを聞きに行ったら死ぬほど文学だったから文学書きました」(noi)より

なじませて読ませる、小気味よい文章の力

 ご本の中盤に「さっちゃんの幸せ」という作品があります。そこには、Twitterでたまたま見掛けただけの、リアルで出会ったこともない“さっちゃん”が気になり、彼女の様子を見守り続けた一部始終が書かれています。誰にも知られることなく始まり、終わったネット上の出来事は謎めいて、まるで小説のようなドラマチックさなんです。でもその文から浮かび上がるのは、さっちゃんの様子をことさら暴き立てるのではなく、見ず知らずの彼女が社会のなかでどう生きていくのか、作者さんが心を寄せている姿です。

 また、“さっちゃん”作品をまんなかに挟んで冒頭と巻末に配置されている作品は、異性と付き合うことについてを、投げかけと回答のようにお2人の視点がそれぞれに書かれます。

 ともすれば面白ネットウォッチングや、自己主張だけになってしまいかねない事象も、どのエッセイもいつもの暮らしと地続きであることと、肩ひじ張らない読みやすさによって小気味よく読み進めることができました。

同人誌『それが私にとってなんだというのでしょう』
「吾輩は魔女である」(noi)より

誠実であろうとする痛みはきっと誰かの星になる

 そうして、決して堅苦しくなりすぎないように語られながら、でも、ご本の根底に共通するものがあると、読みながらずっと感じていました。ご本の一文から抜き出すなら「それでも私は、出来る限り、よい『流れ』へ向かいたいし、自分の周りの人たちがよい『流れ』を掴む手助けができればいいと、祈りにも近い気持ちで、わりと本気で思っている」に見られるような、自分と、まわりに向けられる、生き方へのまなざしです。

 生き方へのまなざしなんていうと、大げさすぎるかもしれません。けれど、おしゃれなカフェで語り合いながら、ネットの海を漂う日常を過ごしながら、引っ掛かりを覚えた出来事をなんとなく押し流してしまわずに拾い上げて、どうやったら私たちがもっと楽に呼吸ができるのか、それを探ってくれている誠実さがあると思いました。自分と、そして取り巻く社会と人々に対して向き合おうとする姿勢が、文章から滲んでいるようです。

 本を閉じてみれば、表紙の彼女たちのなんて生き生きしていることでしょうか。淡い青を背景にしたデザインとそこに書かれたタイトルから、児童向けの文庫シリーズの装丁を思わせます。子どものころからの好きなものをベースにし、成長した彼女たちが飛び跳ねる夜の街は輝いています。彼女たちと、その文章を受け取る人々が、まさに表紙の絵のように、自分がいいなと思うものに囲まれて、のびのびと好きな時間帯に好きな服を着て、そこを笑顔で歩けるようにあってほしい、としみじみと思いました。そしてそれを実現するために、自分の内面や社会と人々に向き合っていこうとしているその姿勢を文章にしてくれたことを、表紙で言うならば、きらきらと天に輝く星のようだとも思います。

 自分の考えを発表することは、“私”を離れた瞬間に、他の人からも観測できる対象になります。そしてそれは、きっと“誰か”にとっては見上げ、きらめきに思いを重ねる対象になったり、時に心を支える輝きになったりするのではないでしょうか。

同人誌『それが私にとってなんだというのでしょう』
「なんで彼氏がいるのに他の男と食事したりするの?」(たほ)より

サークル情報

Twitter:noi(@noi_chu

Instagram:駒込(表紙提供)(@mi_koyanagi

ブログ:noi(http://525600.hatenablog.jp

次回イベント参加予定:コミティア142


今週の余談

 “テニプリのドリーム小説”とは、“「テニスの王子様」のキャラクターと自身が恋愛をする夢のような二次創作小説”と解釈しています。夢を夢として書き、発表できる豊かさも、またいいものだなぁと思うんですよ。

みさき紹介文

 図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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