晩夏から一息に秋の気配になってきました。初秋の季語のひとつに「煙草の花」という語があるんですって。ほかにも、煙草の栽培、収穫に関する言葉が秋の季語にはあるようです。今回は、煙草が日本各地で生産されてきた証を垣間見るような、煙草の神社についての同人誌です。
今回紹介する同人誌
『日本の煙草と神社』15×15センチ 表紙カラー・本文モノクロ
著者:平岡爵誌
行けたらいいな、を先にまとめておく! 日本各地のたばこ神社など7カ所を紹介
作者さんはこれまでに、物語に登場する煙草の分析などをテーマにして同人誌を作られている方です。ですが今回のこのご本に掲載されているのは物語ではなく、日本各地の実際の神社の情報です。
ふとした折に煙草に関する神事があることを知った作者さんは、「近所に煙草関係のお祭りとかないのか?」と思ったのをきっかけに調査し、全国7カ所の様子をまとめられました。
ご本は見開き1ページに1、2カ所をまとめ、簡単な場所と名前、由来などが書かれています。詳細な地図や行き方ガイドはありませんが、添えられたかわいいイラストや、正方形の小さめな装丁と相まって、のんびり気軽に楽しむ気分になります。もともと作者さんの発想は「自由に旅行ができるようになった時のためにざっくりまとめた」というものだったそうで、どんな場所かな? とのぞいてみるような雰囲気が感じられます。
しかし、そんな穏やかなご本の中でもきらりと光るのは煙草の同人誌を作ってこられた方の目線。お線香の代わりに煙草を供える風習では、燃焼について考察し、もしかして紙巻き煙草が流通し始めた近代以降に発生したのかも? といった、知識をもとにしたコメントがあちこちに見られます。
現地を訪れてじっくりレポートしたガイドが、旅や調査に役立つのはもちろんのことなのですが、時にはこんな風にかろやかに行ってみたいところをまとめてみるのもすてきですね。
作物としての煙草。豊作を願った人々の姿を見る
読み進めるうち、紹介文でたびたび煙草の生産に触れられているのに気付きました。たばこ神社の存在する土地は古くからの煙草の生産地であることがほとんどだそうです。そこで行われる祭事は、煙草農家による豊作・病害よけの祈願が主になっている、とも解説されています。
煙草というものをイメージするときに、やっぱり煙をくゆらす姿を想像してしまうのですが、神社に注目することで、そこには栽培する人々がおり、祈ったり感謝をささげ、心を寄せる生産の現場でもあることに思い当たりました。
時代と共に変わってゆく……商品が生まれる地を思う
かつては成人男性の80%以上が喫煙していたというデータ(成人喫煙率(JT全国喫煙者率調査))があるほど、メジャーな存在だった煙草も、年々その数値は減ってきました。
個別の神社の紹介ページでは、祭事に使われている“巨大きせる”は高級きせるメーカーだった「村田きせる」が社をたたむ際の最後の仕事であったことや、現存が分からなくなってしまったたばこ神社のことなど、衰退が伺い知れるエピソードが載っています。たばこ神社の存在は、時代の移り変わりを知るひとつの姿ではないでしょうか。
煙草のこと、神社のこと、土地のこと、その土地に住む人のこと……コンパクトに分かりやすくまとめられているからこそ、さまざまに思いをはせるご本でした。
今週の余談
私は煙草を吸いませんが、誌面で見るのは好きです。煙草を吸う方と、煙草に近づきたくない方との住みわけは年々上手になっているように思います。煙草があるから生まれる仕草、表現……これからどう変わっていくのか、興味深いです。
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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