小さなころ、自分の持ち物に自分で名前を書くのに胸がどきどきしました。もっと幼い子には、文字ではなくマークで自分の持ち物を示す方法もありますね。考えてみれば「自分の印」ってうんと小さなころから付き合ってきているのかもしれません。今回はその印が、ぐっと重厚になりそうな中世ヨーロッパの紋章についての同人誌です。
今回紹介する同人誌
『中世ヨーロッパの紋章のつくりかた』A4 28ページ
著者:鎧田、豊真
どの紋章をご注文に? あなたの紋章を素早くチョイス
冒頭はマンガから始まります。何げなく入ったお店はハンバーガーショップではなく、紋章屋さん!? メインのバーガーの代わりに「具象」を、トッピングのように「姿勢」を、サイドメニューの「色彩」「模様」「図形」も……と、まるでバーガーセットを選ぶみたいにカジュアルに紋章をおすすめされます。読んでいる私もマンガと同じように目を白黒させていたのですが、畳みかけるようなテンポの良さに思わず紋章を注文してみたくなってきました。そんなマンガを描かれたのは『神奈川に住んでるエルフ』を連載しているマンガ家の鎧田さん。勢いにのってさくさくと紋章の世界へといざなってくれます。
眺めても悩んでも楽しい色、形、模様が次々と
マンガのあとはもう一人の著者、豊真さんが文章と図柄を示しながら紋章を解説していきます。ページごとにどーんと図柄が掲載されていて、豊富な模様に圧倒されそうなくらいです。けれど、そこに説明がタイミングよく差し挟まれることで「しっぽを表す模様なんてあるんだ」「ドラゴンやサラマンダーの幻獣の図形ってかっこいい」と、興味深く紋章を眺めることができました。
色も、形も、図形も本当にさまざま。単純に見るだけでも華やかで楽しいのに、モチーフの意味や、バリエーションの細やかさを知っていくと、ついつい「私なら色はこれかな」「植物の図形にしたいなぁ」と、気付けば紋章の注文体制に入っているような気持ちで読み進めてしまいました。知らず知らずにその気になって、オーダーの準備が整ってしまうなんて、おそるべし!
「見て考える」メニューブック方式で紋章がぐっと身近に
充実したご本を読んでいると、模様の持つ意味、紋章の中に物語があるように思えてきます。これまでは漠然としたイメージで、紋章は家柄を示すもの……という程度の認識だったのですが、その中身は自分で選んだり、職業と関連付けたり、さまざまな人の意思が込められているのが感じられてきました。さらにA4の大きなサイズで細やかな図柄も見やすく、厚めの紙にカラーで印刷された本文は安定感が抜群。このメニューブックのような装丁のおかげで、読むのが一層楽しくなるんです。
自分ならどんな注文で紋章を作ろうかな? と、自分で考案するわくわくの気持ちと、そこに込められた複雑な文様の読み解きから、中世ヨーロッパの時代へも興味をひかれるようで、紋章がぐっと身近になるご本です。
今週の余談
紋章のモチーフやバリエーションがたくさんあるのも楽しいですし、それをどう分類するのかもおもしろいポイントですね!
みさき紹介文
図書館司書。公共図書館などを経て、現在は専門図書館に勤務。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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