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「ヅカロー」はハイローらしさと宝塚のプライドが交錯する良作である 宝塚初観劇のハイローファンが異文明をぶつけられ良さが“理解”ってしまった話(1/3 ページ)

ドラマ版ファンを熱くさせる前日譚。

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 現在、東京宝塚劇場で上演中の舞台「HiGH&LOW THE PREQUEL」「Capricciosa!! 〜心のままに〜」。ハイローと宝塚の奇跡のコラボレーションが上演前から話題になり、11月20日13時30分からはライブ中継も行われるこの舞台の魅力と衝撃を、ハイローファンで宝塚初観劇のライターがつづります。

HiGH&LOW THE PREQUEL ポスター
「HiGH&LOW THE PREQUEL」とは何だったのか?(公式サイトより引用)

「“宝塚のハイロー”って大丈夫?」そんなふうに考えていた時期がおれにもありました

 先日、宝塚大劇場にて「HiGH&LOW THE PREQUEL」、そして同時に「Capricciosa!! 〜心のままに〜」を見てしまった。鑑賞から時間が経過した今でも、あれは一体なんだったんだろう……とぼんやり考えてしまう日々を送っている。

 「HiGH&LOW」は、EXILEなどの事務所であるLDHが、2015年から作り続けている総合エンターテイメントプロジェクトである。5つの勢力に分かれた不良たちの抗争&巨悪との戦いを、大量の予算とキレのあるアイデア、いい男を長年撮り続けることで培われた技術、演者の身体能力とド根性によって描いた作品だ。なんだかんだでもう7年ほど作っているので作品数も多く、全貌を把握しようとするとマーベルのスーパーヒーロー映画並みの労力を必要とするが、その価値はある作品だとおれは思っている。

HiGH&LOW ドラマ版ビジュアル
2015年から現在も続くエンターテイメントプロジェクト「HiGH&LOW」(公式サイトより引用)

 通称・ヅカローこと「HiGH&LOW THE PREQUEL」は、このハイローシリーズの前日譚を描いた作品である。ハイローは基本的に作品が作られた順番で作中の時間が進むので、時系列的に一番古いのは2015〜2016年にかけて放映されたドラマ版「HiGH&LOW 〜THE STORY OF S.W.O.R.D.〜」。なので「THE PREQUEL」は、このドラマ版よりもさらに少し前の話ということになる。「スター・ウォーズ」でいえばさしずめ「ローグ・ワン」である。

 とは言っても、舞台にするのがあの宝塚だ。おれには宝塚に関する知識はほとんどないが、さすがに「演者が全員女性のミュージカルである」という程度のことは知っている。あんなに男ばっかり出てくるハイローを、全員女性でやるの? しかも作中で歌うの? ジェシーとか、豹豹言ってる変な人になっちゃわない? あ、時系列的にジェシーは出てこないからいいのか……。そんな謎の舞台のチケットを、色々あって1枚融通してもらえることになってしまった。人生初の宝塚歌劇、それも宝塚大劇場での観劇である。どうなっちゃうんだろう……。

 ということで、微妙に不安と緊張も抱えつつ到着した宝塚駅。全く知らなかったが、宝塚駅から大劇場までは「花のみち」という遊歩道で直通になっており、花のみちの左右に建つ建物はなんとなく雰囲気のあるレンガっぽいタイル&南仏風の瓦屋根で固められている。建物に入っているテナントもイタリアンのレストランなどだ。つまり、大劇場はたどり着く前のアプローチからすでに観客の気分を盛り上げにきており、ここを歩けば浮世のばっちいものを視界に入れずに劇場までたどり着ける仕組みなのだ。そして大劇場のすぐ向かいに聳え立つ、小林一三先生の像! そっか〜、そりゃ阪急の巨大施設なんだから銅像くらい立ってるよな……。

花のみち
宝塚大劇場までまっすぐに続く「花のみち」
宝塚大劇場
テーマパークのような門がまえの宝塚大劇場の入り口

 劇場内もバチバチにエレガント。単に入り口でチケットをもぎって中に入って、それ以外にはちょっと売店とかがある程度なのかなと思っていたのだけど、正面ゲートの中に入るとまず「くすのき広場」というそれなりに広いスペースがある。レストランや喫茶店も7つくらい入ってるし、「宝塚歌劇の殿堂」という博物館っぽい施設もある。そして全体的に調度が上品&エレガント。おれのようなガサツなおっさんにも理解できる「あ、ここは上品にしとらんとあかんとこなんやね」というタイプの上品さだ。ちなみに、劇場内の売店ではEXILEのTETSUYAさんがプロデュースするAMAZING COFFEEのコーヒーバッグも売っていた。気が利いている……!

 チケットをもぎってもらって劇場内へ。舞台だから当たり前と言えば当たり前だけど、なんか思っていたより狭い。デカいIMAXの映画館みたいなのを想像してたんだけど、よく考えたら舞台に出てくるのは生身の人間である。あんまり巨大な劇場にしても後ろから見れば米粒以下になっちゃうわけで、そりゃそうだよね……と思いつつ着席。チケットはS席なのでかなり前方なのだが、舞台前にはオーケストラピットがあるのでいまいち距離感がわからない。どうなっちゃうんだこれ……というおれの緊張を尻目に、いよいよヅカローが始まったのである。

ド頭から感涙……なぜなら5人のリーダーはもう全員そろわないので……

 開始直後、舞台に出てきたのは真風涼帆さん演じるコブラ。「あれ!? コブラにしては身長があるな!?」と思ったが早いが、「俺たちはただ……この街を守りたかっただけだ!」のセリフが! そして拳によって割れる鏡! オアー! ドラマ版のやつ! それに続き、寿つかささんによるナレーション。やっぱハイローといえば冒頭のナレーションだよな……。ちゃんとナレーション内に「かえってその一帯は統率がとれていた」も挟まってるあたり、これはマジで初期ハイローをやろうとしているなと確信。鏡破壊といい冒頭ナレーションの内容といい、7年間の間に散々擦りまくられた要素をちゃんと一歩一歩踏んでくるあたりから、そこはかとない本気感が漂っている。

 続いて、それぞれチームのモットーを歌いながらデカい階段を降りてくる各チームの皆さん。あ、そうか、これミュージカルだから全員歌ってコミュニケーションを取るのか。ハイローは各チームが活躍しているとそのシーンのBGMとしてイメソンが流れる仕組みだが、演者が直接歌うことはなかったのでかなり新鮮に感じた。演奏もオーケストラによる生音なので、全体的に上品である。

 衣装が各チームおよび各キャラクターをうまく捉えているので、演者が知らないタカラジェンヌであっても「なるほど今回のROCKYはああいうアレンジなのか」という感じで受け止められる。宝塚を知らなくても、ハイローを知っていれば「誰が誰だかわかんねえな」ということにはならないのだ。これはハイローのキャラの異常な立ち方、そしてそれを崩さずに歌劇に持ち込んだ宝塚側のノウハウあってのことだろう。

 ということで、初期ハイローの5チームのリーダーたちとその仲間が舞台上にそろったところでもう感涙である。なんせ彼らリーダーのうち何人かは「劇中で死んだ」「劇中で学校を卒業した」「中の人が芸能界を引退した」といった諸事情により、今後は全員そろった絵面をまず見られないのだ。それが、舞台の上に全員集合して並んでいる……! この絵面を見られただけでも、ここにきた価値があったと思う。ありがとう阪急電鉄。今後、阪神間の移動は全部阪急に乗ります。

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