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商業的に見たプリキュア20年史 隆盛と苦戦を繰り返しながら歩み続けた玩具戦略サラリーマン、プリキュアを語る(2/3 ページ)

プリキュアが20周年を迎えられたのも、ひとえに子どもたちが玩具を買ってくれたからなのです。

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プリキュア黄金期の到来

 「Yes!プリキュア5」の成功によりプリキュアシリーズは継続していきます。ミルキィローズが子どもたちに人気を博した続編「Yes!プリキュア5GoGo!」を経て、2009年の「フレッシュプリキュア!」では、敵キャラクター「イース」が追加プリキュアになるという「ドラマと玩具との連動性」が売り上げをさらに伸ばします。以降、追加プリキュアと連動した玩具展開もプリキュアの重要な柱の一つとなっていきます。

 この「フレッシュプリキュア!」(2009年)〜「スマイルプリキュア!」(2012年)までの4年間は、玩具業界誌におけるプリキュア関連の記事はポジティブなコメントが目立つようになっていきました。

 「初動170%」「ほとんどの商品が売り場から無くなった」と評されたフレッシュプリキュア!

プリキュア
「ほとんどの商品が売り場から消えた」「フレッシュプリキュア!」の玩具(全プリキュア展から。著者撮影)

また「フレッシュプリキュア!」はYes!プリキュア5と比較すると初動が170%と大幅に伸びており、好調なスタートを切った。
『月刊トイジャーナル2009年3月号』

2009〜2010年年末年始商戦総括
フレッシュプリキュア!も「シフォンお世話になります」を中心にほとんどの商品が売り場から無くなった
『月刊トイジャーナル2010年2月号』P52

 「プリキュアの好調さが目立つ」とコメントされ、事実プリキュアシリーズ過去最高の125億円を売り上げた2010年の「ハートキャッチプリキュア!」。

一方女児ではハートキャッチプリキュア!の好調さが目立つ。
『月刊トイジャーナル2010年5月号』P64

 翌年2011年の「スイートプリキュア♪」は震災の影響を受けましたが、安定した売り上げで不安な子どもたちに笑顔を届けました。

 そして「史上最高のスタートダッシュ」と評された2012年の「スマイルプリキュア!」では、「スマイルパクト絶好調で前作比270%」と、開始3カ月で20万個を売り上げたスマイルパクトの好調さが報じられます。

前作比で190%(販売5週累計販売額)、これまでのシリーズ9作品の中でも史上最高のスタートダッシュとなった「スマイルプリキュア!」
現在特に同作品の年間メインアイテムである「カラフル変身スマイルパクト」の絶好調ぷりが際立っており、前作のメインアイテム対比で270%
『月刊トイジャーナル2012年5月』P27

プリキュア
3カ月で20万個を売り上げた大ヒット玩具「スマイルパクト」(右)(全プリキュア展から。著者撮影)

 この時期、プリキュアシリーズはさまざまなライバルコンテンツと争いながらもバンダイが実施している「こどもアンケート」では、ずっと3〜5歳の女の子人気1位を獲得。

 多少の上下動はあるものの、バンダイの売り上げは右肩上がりで好調に推移、映画の興行収入も好調を維持。年間の玩具売り上げでも女の子部門で1位を取り続けます。

 テレビアニメが「全国放送」の強みもあり、アニメ制作会社、玩具メーカー、出版社、その他スポンサーの連携がうまく取れ、玩具、書籍、文具から食品まで隙のない商品展開で女の子向けNo.1を取り続けます。

 まさにプリキュアは「女の子向けコンテンツの黄金期」を迎えていたのです。

 しかし、絶好調だったプリキュアはアニメでもなく玩具でもない意外なところからライバルコンテンツの侵入を許し、再度苦境に立たされることとなるのです。

プリティーリズム、アイカツの脅威

 プリキュア2度目の苦戦。

 その発端となったのは2010年に稼働を開始した、タカラトミーとシンソフィアが共同開発した女の子向けアーケードカードゲーム「プリティーリズム」です。

 カードではなくハート形の宝石が出てくる斬新性、その楽曲の洗練さなどから主に小学生女子の人気を博し、2011年にアニメ「プリティーリズム オーロラドリーム」の放送が開始するころには、女の子の間で大人気コンテンツへとなっていました。

 そのブームはすさまじく、2012年の東京おもちゃショーでは「東京おもちゃショー始まって以来の驚きの光景」としてプリティーリズムを遊ぶ子どもの大行列を業界誌が報じるほどでした(『月刊トイジャーナル2012年7月号』P44)

プリキュア
プリティーリズムが当時の子どもに大人気に(出典:Amazon.co.jp

 もちろんバンダイもこの状況を黙ってみていたわけではありません。

 「プリティーリズム」から遅れること1年6カ月、2012年10月に女の子向けカードゲーム「アイカツ!」を投入します。アニメの放送もほぼ同時に開始し、一気に巻き返しを図ります。こちらもその完成度の高さから子どもたちの間で空前のブームを引き起こしていくのです。

プリキュア
女の子に一大ブームを巻き起こした「アイカツ!」(出典:Amazon.co.jp

アイカツ!がプリキュアの売り上げを超える

 そしてその「アイカツ!」の大ブームこそが、同じバンダイの「プリキュア」をも苦しめることとなったのです。

 「アイカツ!」は小学生をメインターゲットとしていましたがブームの拡大につれ小学生低学年、未就学児にもその余波が広がり、プリキュアのターゲット層の一部が奪われてしまいました。それが2012年〜2014年までのプリキュアの売り上げ低下へとつながってしまったのです。

 2013年3月期には「アイカツ!」はグループ全体売り上げが159億円。同時期105億円のプリキュアを大きく超えることとなりました。

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 さらに、ずっとプリキュアが1位を守り続けてきた「女の子向けおもちゃの年間売り上げ1位」の座もアイカツの電子玩具「アイカツフォンスマート」に譲ることになるなど、2013年は「アイカツ!」が大旋風(せんぷう)を起こした年となったのです。

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年間ランキング(女の子向け)2013年は「アイカツフォンスマート」が1位に。2013年、2015年のみプリキュア玩具が1位を逃すなど、この時期のプリキュアは苦戦が続いていました

 さらにプリキュアにとって不利な状況は続きます。2014年には「妖怪ウォッチ」「アナと雪の女王」の大ブームが女の子玩具市場にも影響を与え始め、コンテンツの分散化が進んでいくのです。

 この時代、もはや女の子向け市場は「プリキュア1強」の時代ではなくなっていったのです。

「アナと雪の女王」に関してはすでに「リカちゃん」や「プリキュア」といった定番ブランドと競合し影響が出ているとの指摘もある。
『月刊トイジャーナル2014年10月号』

 この時期の玩具業界誌でのプリキュアのコメントは「前年同月比で2ケタの減」「昨年度より数字を落としている」「反省すべき部分が多い」などダウントレンドの文言が目立つようになっていきます。

2月に番組と商品展開がスタートした「ハピネスチャージプリキュア!」は3月に入ってからメインアイテムを中心に動きが鈍った。売り場によっては前年同月比で2ケタの減となっているとの声も。
『月刊トイジャーナル2014年4月号』P61

プリキュア
アイカツ!、アナ雪、妖怪ウォッチなどの影響により苦戦した「ハピネスチャージプリキュア!」の玩具(全プリキュア展から。著者撮影)

バンダイ:トイ戦略ゼネラルマネージャー渡辺伸吾氏
ガールズに関しては本当に反省すべき部分は多いと思っています。
特に「プリキュア」は完全に「妖怪ウォッチ」と「アナと雪の女王」に取られた形です。
『月刊トイジャーナル2015年2月号』P43

 バンダイのトイホビー売り上げも2014年度は65億円。前年度の66.3%まで落ち込むこととなりました。

鉄板の「お姫様」モチーフでも回復しない

 アイカツ、プリティーリズム、アナ雪、妖怪ウォッチなどの影響により苦戦を強いられることとなったプリキュア。

 「1強」から「1つの選択肢」へとコンテンツが変遷していく中、プリキュアは「魔法」「スイーツ」「子育て」といった「モチーフの明確化」により挽回を試みます。「今年のプリキュアは、こんなことをしているのだな」と言うことを子どもとその保護者に分かりやすく示したのです。

 その第1弾として、プリキュア生みの親である鷲尾さんが現場に復帰し、女の子に鉄板人気の「お姫様」をモチーフとした2015年「Go!プリンセスプリキュア」がスタートします。

プリキュア
「お姫様」をモチーフとした「Go!プリンセスプリキュア」の玩具(全プリキュア展から。著者撮影)

 しかし、それほど市場は甘くありませんでした。

 「お姫様」という鉄板モチーフをもってしても、プリキュアの売り上げは回復することはなく、むしろ状況は悪い方向へと進みます。

 玩具業界誌でも「昨年の半分しか取れていない」「プリキュアの苦戦が鮮明」といった言葉も見られ、マイナスムードが払拭しきれません。

1月末から商品が売り場に並び2月1日からTVアニメがスタートした「Go!プリンセスプリキュア」は年間を通して苦戦した前作のダウントレンドを引きずりスロースタートに。
『月刊トイジャーナル2015年3月』P50

女児に関しては「プリキュア」の苦戦が鮮明。前作と比較しても半分しか取れていないという法人も。
『月刊トイジャーナル2015年4月』P70

キャラクターで大きなシェアを誇る「プリキュア」が前年の半分程度との声も上がるほどの苦戦となったが、〜
『月刊トイジャーナル2015年6月号』P38

 ダウントレンドの中、さらにその半分程度まで落ち込んでしまったプリキュア。鉄板の「お姫様」を擁しても売り上げは回復しない。このままでは再度シリーズ存続の危機につながりかねません。

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