「ヨシ!」で守れる安全がある 指差呼称の歴史をまとめた同人誌『明日から使える指差呼称完全攻略BOOK』:元司書みさきの同人誌レビューノート
歴史から、その効果までをさまざまな文献をもとにまとめています。
今年は桜もチューリップもいつもより早く咲きました。新年度、新学期も始まり、初々しい姿の人たちを見掛ける一方、慣れた足取りのベテランの風格の方もいらしたり。こんな季節は不慣れ故のどきどきと、慣れすぎてしまった油断が交錯してうっかりミスが発生してしまったりしませんか。今回の同人誌は落ち着いて臨むための「ヨシ!」について書かれたご本です。
今回紹介する同人誌
『明日から使える指差呼称完全攻略BOOK』A5 20ページ 表紙カラー・本文モノクロ
著者:夏馬
「ヨシ!」って何? 指差呼称の歴史から実践までをコンパクトにまとめる
この同人誌がテーマにしているのは、指差呼称(しさこしょう)といわれる、声と動作による確認方法です。インターネットではよく、ヘルメットをかぶったネコさんが「ヨシ!」と躍動的なポーズをとっているのを見掛けます。注意喚起の方法だけに、短くてきりりとした呼びかけはインパクトがあり、たくさんの人の目に指差呼称の姿が触れられるようになりました。そこで、このご本の作者さんは、いい加減な指差呼称をまん延させたくない、指差呼称を理解してほしいという気持ちで同人誌を制作されたのだそうです。
ご本では指差呼称とは何か、いつごろから使われているのか、どんな効果があるのかといった内容が文章でまとめられています。
知って指させば効果UP!? 面白さにまじめに向き合う
コミカルで印象的なネコさんをきっかけに指差呼称を知ったものですから、どことなくユーモラスにその姿を眺めていました。けれど声に指さし動作がつけられたいきさつや、実践の方法を読んでいくと、これは漠然としぐさをまねするだけでなく、意識的に使いこなすととても便利なものなのが分かってきました。
ご本では図や多くの文献を挙げて根拠を示しつつ、指差呼称の研究が進められてきた点にも触れられています。作者さんは日常にも指差呼称を取り入れていらっしゃるそうですが、ご自身の職業や立ち位置を明らかにされていないため、こちらの同人誌を専門書と呼ぶのは難しく、このご本を現場に持ち込むとしたらあくまで参考の資料になると思います。しかし、情報元の紹介、その情報をどこから得たのかが丁寧に記載されており、素性は謎ながら誠実であろうとする姿勢を強く感じます。
知らせたいことを伝えるための工夫と実践
さて、そんな内容の堅実さとは裏腹に、表紙やイラストは華やかでぐっと目を引きます。丸っこさのあるヘルメットも愛らしいキャラクターによる指さしや、“なんだかわからんがとにかくヨシ!してしまう人のための”と親しみやすく訴えかけるキャッチフレーズ、本文に挟み込まれたちょっとしたクイズやコラムに肩の力を抜きながら読み進めると、あとがきにこのやわらかなムードの理由が書いてありました。
こちらのサークルさんはこれまでは“硬派な”表紙づくりをされていたのだそうですが、今回は一人でも多くの人に知ってほしいと表紙にカラーイラストを初採用されたとのこと。なるほど、まず入口に興味を持ってもらい、しっかり内容を伝える……ご本そのものが注意喚起の実践のようでもありますね。「ヨシ!」を攻略して、新たな季節を安全に出発進行したいです。
今週の余談
ご本にきっちり参考文献を掲載されているのと同時に、調査で京都鉄道博物館図書室さんを利用されたことを紹介されておられて、興味深い資料を所蔵されてるんだ! と私も行ってみたくなりましたよー。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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