画面の向こうの推しに会いに行く ラッコに会うため海外を旅した人の旅行記が愛にあふれすぎていた:元司書みさきの同人誌レビューノート
同人誌『アメリカ・カナダ ラコラコラッコツアー2023』をご紹介します。
気が付いたらカレンダーや手帳の話題とともに、来年の干支は……なんて話題が聞こえてくるようになりました。今回のご本は十二支には入っていませんが、その愛らしさ、いきいきとした魅力を存分に伝える同人誌です。
今回紹介する同人誌
『アメリカ・カナダ ラコラコラッコツアー2023』A5 86ページ 表紙カラー、本文モノクロ
著者:今茶(著)、NA2(イラスト)
コロナ禍に画面の向こうから癒やし続けてくれたラッコのために海を渡る
こちらのご本は大変かわいいラッコに会いに旅をする様子をつづった旅行記です。作者さんがラッコの魅力に「秒で落ちていた」という状態になったのは2020年夏。テレワークをしていた折にふと出会った水族館のライブ配信がきっかけで、「これからの人生に彩りを添えまくってくれるという確信しかなかった」と思うほどに心をつかまれたそうです。ご家族のなかでも盛り上がり、ずっと生配信を見守っていた作者さん。しかし、2022年11月になんと配信は終了……。それなら「現地、行くか!」と水族館のあるカナダへと旅立ちます。
会いに行くうきうきが旅をきらめかせる! 足取りの軽い旅行記が楽しい
カナダの水族館を目指しつつ、アメリカの他の水族館や海沿いも視野に入れた旅行のあれこれは主に文章で紹介されます。長時間の飛行機の乗り心地や現地の気温、移動や食事のことなど、道中のちょっとした驚きや楽しみを文章に盛り込んでおり、旅っていいよね、という気分が高まってきます。
そんな楽しい旅路のなかでも、ふいに港で出会う野生ラッコからはじまり、水族館巡りをして出会うラッコへのテンションの高さはやはり群を抜いています。そしてずっと画面の向こうにいたラッコと出会うときのどきどき感と言ったら……。
水族館に行っても客から見られる水槽に居るかどうかは現場についてみないと分からない、一種の賭けのような状況と知り、いつのまにかはらはらしながら読み進めていた身としては、ラッコとの対面シーンではほっとして、こちらまでうれしくなりました。
しかし、そのときの状況を作者さんは「会ったら泣くかもしれんと言っていたが、そんな場合では無い。ひたすら興奮! 目に焼き付けろ!!!」と書きます。愛ですね。生き物を大事に見守りたい、力強い愛情がどばどはに文章からあふれている気がします。
SF小説もミニ英会話もラッコにつながる
ご本は旅行記が中心ですが、ゲストさんによるラッコのイラストやラッコマンガもあり、その愛らしさを全面に感じられる作品たちからは「ラッコかわいいね、ラッコを見るとうれしいね」という声が聞こえてきそうです。また、作者さんご自身もラッコをテーマにした小説や、ラッコを見るときに使うかもしれないミニ英会話コーナーなど、多彩なアプローチをされています。
ずっと見ていた対象のために、海を飛び越えて現地に行かれてうれしさを満喫されるその姿には、画面の前で対象を見守っていた月日や、きっとのその間にいろいろと調べたりされたのではないかと思わせる、これまでの積み重ねを感じます。生物という成長し、変わり、揺らぎある対象を受け入れ、そこへの道のりや関連することもあわせて好きを楽しむことが、ラッコの愛らしさとともに伝わるご本でした。
今週の余談
ラッコの愛らしさをたくさん浴びました。なぜかとても満たされた気持ちになりました……。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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