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現代の箏演奏家の活動をマンガに 同人誌『箏曲演奏家のおしごと』が描く華やかな演奏の舞台裏元司書みさきの同人誌レビューノート

地道な営業活動が大事。

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同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 クリスマスが過ぎたころ、いつもお買い物をしているお店に入ると店内に流れる曲がガラリと変わっていました。箏や笛の音が印象的な和風の雰囲気です。きらびやかで、でも落ち着いた響きは、慌ただしさの中で新年に向かう晴れやかな気持ちを盛り上げてくれます。今回は、伝統楽器の箏についてのマンガです。

今回紹介する同人誌

『箏曲演奏家のおしごと 其ノ壱 〜料亭の演奏会編』A5 86ページ 表紙カラー、本文モノクロ

著者:水車竜子


同人誌『箏曲演奏家のおしごと 其ノ壱 〜料亭の演奏会編』
和楽器の演奏家さんってどんなお仕事ぶりなのでしょうか

現代の箏演奏家のある日の活動をマンガに

 こちらのご本は、現代の日本で箏や三味線を奏でる伝統楽器の演奏家さんの活動の一場面を描いたストーリーマンガです。作者さんご自身は「邦楽には疎かった」とのことですが、箏曲演奏家の方の活動を知り、体験をもとに描いておられるそうです。

 ある日、箏の演奏家である龍子さんに声を掛けられた主人公くんは、個人演奏会の裏方のお手伝いをすることになります。舞台は都内の大きな料亭。そこで開催される龍子さんの演奏会を主人公くんの目線から描きます。マンガでは、パンフレットをお客さんの席に置いたり、箏だけでなくいろいろな楽器を披露するため曲の間に楽器を取り換えたりなど、そういうことも演奏家側が手配しているんだ! と驚くような準備、演奏会の様子の他、和楽器の解説、そして料亭でいただいた料理までも、と一連の流れが描かれています。

同人誌『箏曲演奏家のおしごと 其ノ壱 〜料亭の演奏会編』同人誌『箏曲演奏家のおしごと 其ノ壱 〜料亭の演奏会編』 料亭での演奏会!

華やかな披露とこつこつ地続きを描く

 料亭で演奏会が開かれるなんて、わくわくする特別な出来事ではないでしょうか。そのスペシャルなひとときを作り上げるプロの演奏家さんに対し、主人公は界隈(かいわい)に疎い立場として参加しているので、気になったことや新鮮に感じたことをQ&Aのように問いかけ、読み手を自然に物語に入り込ませてくれます。例えば「(演奏会の)お客様ってどうやって集めたの?」と主人公が問いかければ、龍子さんはSNSの情報発信やビジネス交流会に参加したり活動をPRしたりしていることを教えてくれます。ニーズを見つける地道な営業活動! 華やかなひとときを披露するために、こつこつとした働きかけがあるのですね……。

 実は物語の中の龍子さんの働きかけだけでなく、ご本でも“こつこつ”なところがあるのを感じました。それは楽器について紹介している部分です。マンガの中では琴、三味線、胡弓について、各楽器の名称や弾き方などの解説がさらりと盛り込まれているのですが、説明ページを作るには対象について調べたり、間違いのないように描き起こしたり……なかなかに根気がいることではないでしょうか。それでもしっかり解説にスペースを割いているのは、ここを知ると面白いよ、奥深い世界があるんですよ、と華やかさを支える部分にまでスポットを当てているように思いました。

同人誌『箏曲演奏家のおしごと 其ノ壱 〜料亭の演奏会編』
お仕事を支えるこつこつ

聞いてみたいな、の気分にさせる雰囲気

 そしてこのマンガのもうひとつの見どころは、龍子さんのかわいらしさではないでしょうか。主人公が感じる演奏家の裏側の面白さ、楽器の知識に加えて、龍子さんの演奏するきらきらとした場面が印象的です。明るく、華やかで、そして清楚(せいそ)な音色が聞こえてきそうな描かれ方は、きっと龍子さんが演奏している空間がすてきなんだろうな、という特別な場を作り上げるプロの姿を感じさせてくれます。

 実は箏は長い形から龍をイメージされ、弦を支える部分を「龍角」と呼ぶなど、龍にちなんだ名前がついている部分がいろいろとあるのだそうです。そうしたことを知ると、やって来る辰年に耳にする音色がまたひときわ染みてきそうです。そして輝く晴れ舞台と、それを支える知識や裏方をほのぼのとかわいらしい雰囲気で読み終えると、年始だけでなく、もっと折々にその音を聞いてみたいなという気分になりました。

『箏曲演奏家のおしごと 其ノ壱 〜料亭の演奏会編』
その音色を聞きたくなります

サークル情報

サークル名:汀の社

Webサイト:https://migiwanoyashiro.com/

X(Twitter):@m_draco

次回イベント参加予定:COMITIA148(予定)


今週の余談

 2023年はどんな年だったでしょうか。2024年、みなさまに良いお年になりますように!

みさき紹介文

 公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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