冷たい北風が吹く季節、街角にある自動販売機であったか〜い飲み物を手にしたときほっとしたことはありませんか。いつもは強く意識することはなくても、ふとした折に頼もしい存在の自動販売機。今回は秋葉原の自動販売機の動向を追う同人誌です。
今回紹介する同人誌
『秋葉原自販機全記録 2023年下半期』37ページ 表紙・本文モノクロ
著者:鈍雲
秋葉原の自動販売機の総数は? 毎月の動向を足で追う
こちらは2023年7〜11月の自動販売機について調べた本です。調査場所は東京都千代田区の秋葉原。JR秋葉原駅の西側の地域を3つに分けて調査対象とされています。作者さんは毎月の最後の日に対象地域のすべての自動販売機をまわり撮影、それをもとに記録を作成しているそうです。
この調査のきっかけになったのは、2年前にご友人と深夜の散歩をしていたところ、設置されている自動販売機の多さや価格の違いが目に付いたこと。そこから記録を始めたとのことで、このご本では直近の2023年下半期分がまとめられています。
価格、種類の推移と細やかな変化に着目
ご本では、
7月の自販機(一丁目、三丁目、四丁目)
8月の自販機(一丁目、三丁目、四丁目)
9月の自販機(一丁目、三丁目、四丁目)
……とひたすらに各地域の様子が記載されます。内容は「水」「お茶」といった区分けで最安値や平均を示した表をメインに、各場所の特色や変化が説明されています。冒頭にクイズなどがありつつも、基本的には表、説明、図で構成された落ち着いた雰囲気ですが、とにかく書かれている内容がずっと自動販売機とそこで取り扱われる商品についてなのです。
いえ、自動販売機の本ですから当たり前と言えば当たり前なのですが、どこの自動販売機がお買い得か? 新しくお目見えした限定味のもの、姿を消したもの……自動販売機に目を向けるだけでこんなに語ることがあるなんて! と淡々と見える紙面からじわじわとにじむ熱に圧倒されます。
この語る言葉の多さ、それは通りすがりではなく、定点で観測しているからならではの情報の蓄積の厚さから来ているのではないでしょうか。毎月、街中をくまなく見て回り記録するという、驚異的に地道な活動に感嘆です。
さりげなく感じる季節感と街の色
前回と同じところ、変わったところなどを読んでいく中で、自動販売機は季節感の強いターゲットであることに気付かされました。少しずつ温かいドリンクに入れ替わる商品、冬はゆず・レモン味が多くなることなど、あらためて細やかに示されることで、都会の中の季節の移ろいに思いをはせます。
また、秋葉原という街ならではの特色に着目されているのもポイントです。有名なおでん缶や、鉄道関連のお店のそばにある自動販売機には電車を模したプリントがされていることなど、調査対象“らしさ”にも目くばりされていて、にぎやかな空気が伝わってくるようです。
街にたたずむ自動販売機から受け取り、違いを見つけて語るのは、物言わぬ街との対話のようだとも感じました。ともすればあっという間に過ぎ、変わっていく場所を、もう一度ゆっくり眺めたくなる……読み終え、そんな気持ちにもなりました。
今週の余談
暑い夏の冷たい飲み物、夜にぽっかりと浮かぶ明かり……自動販売機に助けられたこと、たくさんあります。今回のご本を読みつつ、手にするドリンクのおいしさとともに、運ばれる品々や入れ替えなど、そこにまつわる人たちの姿も思い浮かべたりです。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- クイズ番組の答えになることが最も少ない都道府県はどこ? 12番組を1年間調査した同人誌が趣味の塊
きっかけは「数えてみたくなった」から。 - もし動物たちが文明を持ったら 独自の進化を遂げた“空想上のビーバー”を描く同人誌『ビーバー建築史』
妄想がはかどる。 - “推し”との別れ、どうやって乗り越えましたか? 気持ちを整理したいあなたに寄り添う同人誌『R・I・P』
お別れの、その先のお話。 - マンガ家が描く“秀吉愛” 同人誌『あつまれ!太閤の沼』を読んで秀吉の魅力に沈みたい
豊臣秀吉で卒論まで書いてしまうほどの秀吉愛。 - “テレポートするナメクジ”を追った5年間 調査の内容をまとめたレポマンガに興奮を隠せない
104ページという力作。 - 「10年後には朽ちるものを100年後に延ばす」 博物館の裏方描いた漫画が驚きの連続
『ただいま収蔵品整理中!Vol.1』『ただいま収蔵品整理中!金属保存編』をご紹介。 - アフリカで初音ミクのライブをやってみた 一人の教師が実現させた異国の”ミクライブ”
今回は初音ミク愛にあふれた『Miku in Africa』をご紹介。 - 決してひと事ではない? 同人誌『夜10時カギを忘れて家に入れず初めてカプセルホテルに泊まった話』
忘れたと確信したときのドキドキ感……。 - 全国各地の“恐竜像”を1冊に 220カ所ものスポットを紹介した「日本全国恐竜公園ガイド」にワクワクする
そんなところにもいるの!? - こんなの待ってた! アメコミの効果音を集めた辞書がマニアックすぎて心くすぐる
今週はサークル「FANDOMAIN」さんの同人誌「アメリカンコミックス効果音辞典 スーパーヒーロー誕生から70年代まで」をご紹介。 - 国体初のマスコット”未来くん”を小説に 同人誌『古都こと奇譚』は京都を舞台にしたキャラクターたちの物語
皆さんの町にも、人気を博したキャラクターがきっといるはず。 - 炎の揺らめきと溶けた金属 職人自ら撮影した鋳物製造の写真集『滴る金属』
こだわりが詰まってる。 - “お江戸のコミック”を現代語訳 同人誌『黄表紙のぞき』が江戸文化の扉を開く
難易度の高かった「くずし字」を読みやすく。 - これまで撮った「片手袋」の写真は4000枚超 築地に通って約20年、“片手袋研究家”による同人誌が奥深い
趣味、ここに極まれり。 - 理学部生だったあの頃の自分に伝えたい 作者の後悔から生まれた同人誌『理学部生を手伝うイモリ』
イラストはかわいいけど中身はマジ。