2人のサラリーマンがランチを報告し合うだけ、だがそれがいい 同人誌『レイヤー会社員とカメラマンエンジニアのサラメシ交換日記』:元司書みさきの同人誌レビューノート
素性がほぼ謎なのもまたいいですね。
まだまだ寒さも感じる朝に家を出て、なんやかんやと立て込む予定をこなしたら、もうお昼の時間。ランチタイムに何を食べようか、そこを楽しみにしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。今回はお勤め人の昼食の様子を記録した同人誌です。
今回紹介する同人誌
『レイヤー会社員とカメラマンエンジニアのサラメシ交換日記』B5 24ページ 表紙本文カラー
著者:てらひで、七詩
サラリーマン2人のランチ報告
こちらのご本はお2人の作者さんによる、主にお仕事の合間に食べたお昼ごはんの記録です。ご本はおおむね1ページに1皿大きくお料理の写真が載り、それに短いコメントが3つほど付けられています。記録者のお2人はサラリーマンのお昼ご飯をテーマにしたテレビ番組とは全く関係なく、ただただ自主的にお仕事をされている中で各々が食べたものを報告し合っていたそうで、今回はそんな様子をフルカラーの同人誌としてまとめられています。
素性は謎。ゆるやかで華やかなランチを共有
前書きにはラーメン、メンチカツ、しゃぶしゃぶなどの写真を送り合っていたことから本にすることを思い付いた旨が書かれています。実際に報告されているのはおいしそうなカレーや揚げ物の定食など、実に立派な昼食です。
このメニューを召し上がっているご本人たちについてはITエンジニアと営業職であると紹介されています。しかし年齢、性別といった個人的なことはほとんど分からず、辛うじてお2人ともかなり外出や出張が多いのかしら? と伺えるくらいです。またお料理を提供しているお店についても、お店の名前は載っていますが、地図や価格が載っているようなガイドブック的なものではありません。
グルメ店巡りの本ではなく、どこの誰かも分からない方の昼食の記録……それでも読んでいるとほんわかしてきたのは、お二人の短いコメントが効いているからだと感じました。「すごくお雑炊が食べたくなってきました」「やっぱりナン最高ですよね〜」などのごく短く、食べている方はそのひと皿の魅力を伝え、受ける側はおいしそう! を共感するゆるくもあたたかな空気です。
またそれらをノートサイズのB5のご本の全面に配されたお写真で臨場感たっぷりに伝えているのもご本の印象的な点です。多くは語られないもののこの画面の力強さは、作り手の方がコスプレをされる方とカメラマンという、見せ方を日頃から意識されている方々だからではないでしょうか。
おいしい! を分け合うよろこび
実はご本に掲載された食事内容は必ずしも働いた日ばかりでなく、お2人の休日と思われる日も含まれています。ホテルのきらびやかなスイーツや、私的な旅先のお料理も登場します。それでも共通するのは「こんなの食べたよ!」と教えたくなるようなごはんという点でしょうか。おいしいな、特別だなと思ったことを報告し、それを受け止める間柄というのは、第三者の視点から見てもずいぶんと和むものなのですね。きらびやかなお料理とともに、おいしい気持ちを分け合うよろこびをおすそ分けしてもらうようなご本でした。
サークル情報
サークル名:寺見屋ラボ
次回参加予定イベント:COMITIA147 ち02b(出展確定、2月25日、東京ビッグサイト)、文学フリマ東京38(抽選待ち、5月19日、東京流通センター)
今週の余談
おいしいものを食べるときって、食べる前、食べているとき、そして食べた後もうれしいですね。おにぎりの具はこんぶを選びがちです。
みさき紹介文
公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。
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