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医師から見たコロナ禍 「当時何が起こっていたか」を記録した、手書きでつづられた200ページの同人誌元司書みさきの同人誌レビューノート

いつかまた振り返るときのために。

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同人誌 本棚 図書館 司書 コミケ

 つい先日、雪が降ったように思うのですが、もうみぞれ混じりの雨になりました。天候は少しずつ春に向かっているようです。季節は移り変わっていきますが、近年を振り返ったとき、ここ数年はどなたにとってもとりわけ強い印象を残しているのではないでしょうか。今回の同人誌はコロナ禍について記録したご本です。

今回紹介する同人誌

『令和医療手技図譜コロナウイルス編』A5 200ページ 表紙カラー 本文モノクロ

著者:森皆ねじ子


同人誌『令和医療手技図譜コロナウイルス編』
イラストを交えたコロナ禍の記録

あのとき現場は? 4年前から振り返る

 ご本は2020年の早春の頃の医療現場からはじまります。新型コロナの第一波がやってきた2月頃、病院では急激な変化にどのように対応していたのか……その様子を文章とイラストで描いています。

 作者さんは医師として病院に勤務しつつマンガやコラムを書かれている方で、2020年春から2022年5月にかけてを振り返り、数度に分けて同人誌などで発表されていた内容に描き下ろしを加えてまとめられたのがこの1冊です。

同人誌『令和医療手技図譜コロナウイルス編』
代用をする、自作する……努力と工夫で対応する様子

手書き文章とイラストは200ページの大ボリューム

 このご本は、当時の病院での対応をまとめたものです。しかし、それを踏まえて読んでも「もう知っていることばかりだな」という風には、私はなりませんでした。「ああ、こんなことあったな」と思い出したり、「医療現場ではこういう風にされていたんだ」と今になって分かったり、あらめて知ることのなんて多いことでしょう。

 書き下ろしの解説なども含めて、全200ページの大ボリュームのご本です。それなのに本編の多くは文字まで手書きで、しかもそれが邪魔にならない誌面になっています。タイトルに「図譜(ずふ)」と付けられた通り、図や絵が折々にちりばめられていたり、文字の大きさ、太さを自由自在に使い分けていたりと、手書きの自由さを見事に使いこなしていらっしゃいます。手書きの文字は気付かないうちに書き手の癖が読みにくさにつながる場合もありますが、本書では文字もイラストも自在に操られる書き手の技で、この厚さでも気にならずに読み進められました。

同人誌『令和医療手技図譜コロナウイルス編』
かわいらしくもすっきりした線のイラストと文字が親しみやすい

何が起こっていたかを同人誌で書き残す意味

 中には病院などの医療現場だけでなく、街の様子やご自身で感じられたことも書かれています。ページをめくると、当時あんなにも衝撃を受けた日々だったのに、今となっては薄れてしまっていた記憶がよみがえります。またそれと同時に、きっと「自分とは違う」と感じられる方もおられるのではないでしょうか。この「違い」がとても大切なところだと思っています。

 作者さんも、こちらのご本は万人に正しさを伝える医学的な教科書とは立ち位置が違う旨を明記されています。書かれているのは過去のことであり、1人の方の視点から見た記録です。けれど、現場の方が当時の様子を細やかに書き残すことで、きっとまた振り返ることがあるでしょうし、これからも病や突然の出来事に向き合い続けていかなければならない暮らしの中で、参考になることもあるのではないか。そう思ったご本です。

『令和医療手技図譜コロナウイルス編』
予防をどうするのか、街でもさまざまな対応が試みられたことを記録しています

サークル情報

サークル名:ねじ子アマ

入手先:メロンブックス(リアル店舗+通販)

次回参加予定イベント:コミックマーケット

Webサイト:http://www.nejiko.net/

X(Twitter):@nejiko_net

Amazon:著者ページ


今週の余談

 時が過ぎるのはあっという間で、過去が日常に紛れていくのは、ある意味いいことでもあり……でもやっぱり、振り返りって大切なことだと思っています。

みさき紹介文

 公共図書館、専門図書館に勤務していた元司書。自身でも同人誌を作り、サークル活動歴は「人生の半分を越えたあたりで数えるのをやめました」と語る。

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