プリキュアの“恋愛描写”は20年間でどう変わった? 「彼氏」すら表現できなかったプリキュアがわんぷりで「カップル誕生」を描けるまでに至った理由:サラリーマン、プリキュアを語る(2/2 ページ)
プリキュア21年の「恋愛描写」の歴史を振り返ります。
「きちんと告白して、きちんと振られる」
次に転機となったのは「HUGっと!プリキュア」(2018年)です。
この作品ではプリキュアの一人、輝木ほまれ(キュアエトワール)が妖精ハリハム・ハリーに失恋してしまいます。ここでは「きちんと告白して、きちんと振られる」という直接的な描写が描かれました。
また、野乃はな(キュアエール)と敵組織のボス、ジョージ・クライの恋愛的な関係性も描かれ、未来世界での野乃はなの出産シーンも大きな話題となりました。
このように、少しずつ「恋愛」に関するエピソードも淡いものから「直接的な表現」が用いられるようになっていきました。
また、「意識的に恋愛を描かなかった」シリーズもあります。
「トロピカル〜ジュ!プリキュア」(2021年)は、土田豊シリーズディレクターの意向であえて恋愛を描かなかったようです。
横谷 そもそも土田さんから、「恋愛要素は一切入れたくない」という話もあったんです。
村瀬 土田さんの「この作品で重視したいこと」といった最初のメモに「恋愛要素はなし、1話完結」とありましたね。
徳間書店『トロピカル〜ジュ!プリキュア』特別増刊号 アニメージュ2022年1月号増刊(P26)
そして「デリシャスパーティ・プリキュア(・はハートマーク)」(2022年)では、プリキュアと「ともに戦う男の子」としての品田拓海(ブラックペッパー)が登場しました。
彼は明らかに、幼馴染の和実ゆい(キュアプレシャス)を恋愛的に意識している描写が多々見られましたが、製作者側からは「ゆいと拓海の恋愛はスパイス程度」と言及されたように、メインでの恋路は描かれませんでした。
安見 そして女の子のピンチを「救う」のではなく、ともに戦う男の子にしたくて、ブラックペッパーは生まれました。いろんな立場の方が世界にいることを自然に含みながら、みんながごはんに対して真剣に戦っているという姿を描きたかったんです。ゆいと拓海の恋愛様は、ちょっとしたスパイスという感覚ですね。
Gakken『デリシャスパーティ・プリキュアオフィシャルコンプリートブック』(P93)
傾向としては、時代が進むごとにプリキュアの恋愛模様は「憧れの王子様」的な恋愛から「一緒に戦うパートナー」としての恋愛へといった変遷も見て取れます。
プロポーズされ結婚に至ったプリキュアも
さらに2023年に放送された、「Yes!プリキュア5」のスピンオフの続編「キボウボチカラ〜オトナプリキュア’23〜」の最終回では、パルミエ王国の王子ココが、ついに夢原のぞみにプロポーズ、結婚に至りました。
スピンオフ作品とはいえ、ついにプリキュアが結婚したのです。
(ちなみに、恋愛的なターニングポイントとなっている「ハピネスチャージプリキュア!」「キボウボチカラ〜オトナプリキュア’23〜」「わんだふるぷりきゅあ!」は成田さんがシリーズ構成を務めています)。
時代の変化に合わせて
2人の女の子が「手をつないで」変身することから始まったプリキュアシリーズ。
20年の歳月を経て、男女が恋愛的な意味で「手をつなぐ」にまでに至りました。
プリキュアにおいて「手をつなぐ」という行為には重要な意味がこめられ、「友情、信頼、あきらめない心」などの象徴として描かれ続けてきましたが、そこに「恋愛的な愛情」も加わったのです。
現実世界に目を向けても、かつてはアイドルや俳優さんに彼氏彼女がいるなんて言語道断の空気感だった時代もありましたが、2020年代では俳優さんやタレントさんが、恋人がいることを公言していたり、結婚してもアイドルを続けていくのも普通のことになってきました。
プリキュアでも、かつては「コクる」「彼氏」という言葉1つだけでも保護者から大ブーイングだった時代がありました。
しかし、時代の変化や保護者の価値観の変化に合わせて「告白」「デート」「結婚」といったことが描かれ、「彼氏がいるプリキュア」そして「結婚したプリキュア」も表現できる時代になりました。表現の幅が大きく広がってきています。
梅澤 実は大ブーイングでした。「コクる」「彼氏」というセリフも評判が悪かったです。中学生だから、必然性があるから、大丈夫というわけじゃない。両親が観せたくない作品になっては『プリキュア』じゃない、と痛感しました。
ぴあ『プリキュアぴあ』(P87)
プリキュアターゲット層の拡大
また、恋愛事情の描き方からプリキュアのターゲット層が変化も見て取れます。
今回の悟くんといろはちゃんの恋模様は、すでにプリキュアを離れつつある小学生女子の心をつかんだようです。
SNS上でも「うちの小学生の子どもが食い入るように悟くんの告白をみていた」「娘、プリキュアは卒業したはずなのに、キャーキャー言いながらわんぷりは毎週見ている」などの投稿も数多く見られました。
プリキュアのキッズコスメ玩具「PrettyHolic(プリティホリック)」の対象年齢も6歳以上となっているように、3〜5歳をターゲットとしてきたプリキュアシリーズが、ここ数年は小学生の女子を取り込む(というか、離れるのを防ぐ)傾向も見られ、そんな小学生女子やそれ以上の若い女性を新たな顧客として取り込むような展開をしています。
それらの世代に関心の高い「恋愛描写」は、この先のプリキュアでも色濃く描かれるのではないでしょうか。
変わり続けることがプリキュアの強さなのです。
(C)ABC-A・東映アニメーション
関連記事
- 「映画わんだふるぷりきゅあ!」で色濃く描かれた“ペットと飼い主の関係性”
- 売り上げ好調の「わんだふるぷりきゅあ!」、後半戦で急展開 “人間が絶滅させてしまった動物”にプリキュアはどう対峙するのか
- プリキュアが戦い続けてきた“表現の歴史” 過剰な自主規制を打ち破り進化を止めなかった20年
- 高2の娘と、「映画ヒーリングっどプリキュア」を見に行ったお話
- 「ハピプリ」10周年 名作映画「人形の国のバレリーナ」の挿入歌「勇気が生まれる場所」からのラストバトルをどうしても見てほしい
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.