第8回 Oculus Rift×「進撃の巨人」――情報や作品を「体験」に変えるデバイス:“ウェアラブル”の今(1/2 ページ)
ヘッドマウントディスプレイの「Oculus Rift」は、バーチャルリアリティに特化したウェアラブルデバイスだ。腕時計型やメガネ型とはまた異なる可能性を持つこのデバイスを、「進撃の巨人」展で体験してきた。
巨人に襲われそうになって、鳥肌が立つ。そこを、ミカサに助けてもらう。そんな、マンガやアニメで見た世界の“中の登場人物”が体験できる5分間に、じんわりと手に汗を握り、終わって現実世界に戻ってきた際、不思議な達成感に酔いしれる。
東京・上野の森美術館で開かれている「進撃の巨人展」で、ヘッドマウントディスプレイOculus Riftを装着して楽しむ事ができる「360°体感シアター “哮”」(こう)。進撃の巨人の世界に入り込むことができる、新しい体験を得ることができた、というのが率直な感想だった。身に付けるヘッドマウントディスプレイが作り出す世界の可能性を感じられる、面白い例だ。
Oculus Riftとは
Oculus Riftは、Oculus VRが開発したヘッドマウント型ディスプレイだ。ゴーグル型で完全に視界を遮り、目の前の視界のほぼ全体で映像を楽しめる仕組み。加速度センサーが入っているため、上下左右どちらを向いても、作られた3D空間の中の「その方向」が映し出される。
つまり、3D空間の中を実際に歩いたり、あたりを見回したりすることができるようになる、仮想空間の中に入れるようになるウェアラブルデバイス、と位置づけることができる。
「進撃の巨人展」で使われた仕組みは、Oculus Riftの位置をトラッキングするカメラがテーブルに備え付けてあり、空間の中で物体をのぞき込むような動きをセンシングすることができる。例えば、正面にいる人を避け、回り込むようにして見ることもできる点で、より生々しい空間の中での視線を実現しているのだ。Google Glassは実際の空間に画面を浮かせる仕組みだが、Oculus Riftでは完全に現実世界の視界がなくなる。そのため、歩きながら、あるいは公共空間の場で使用する可能性はきわめて低いデバイスだ。
その代わり、自分の真上から足下まで、あるいは背後までも見渡すことができる、コンテンツが作り出した空間への没入感を体験することができるのだ。
ちなみに、Oculus VRはFacebookに買収されている。筆者がこのデバイスを体験したのは、Facebookが2014年春に開催した開発者イベントF8の会場だった。10分間の体験は、正直なところ、酔った。体験として新しすぎるせいか、まだ体が対応できていない、そんな印象を受ける。
空間ごと、五感ごと作り上げる、コンテンツを作る自由さ
今回のOculus Riftを使ったコンテンツは、進撃の巨人の世界の中で展開されるで5分間のストーリーだ。巨人に奪われた土地を人間が奪還する作戦が展開されており、Oculus Riftを装着する観客らは、自分もその作戦に参加している一員として、立体起動のワイヤーアクションや巨人の退治を行う。
このコンテンツの制作に当たったDot by Dotの関賢一氏は、「作り手としては面白い道具」と説明する。
「作り方としては、街のデータはアニメの空間をそのまま使い、データを最適化しました。またキャラクターの3D CGは、ゼロから起こし、モーションキャプチャーで動きをつけました。過去にチームでJRAと進撃の巨人のコラボ作品を手がけた経験があり、原作やアニメをよく頭に入れていたため、原作世界を壊さず制作できました」(関氏)
関氏が属するチームはもともと、3D CGやOculus Riftを専門とするプロダクションではない。同社は新しいテクノロジーを活用した広告やコンテンツを得意としており、カンヌ国際広告祭の常連だ。今回は関氏がプロデューサーとして入り、クリエイティブディレクターの谷口恭介氏を中心として制作が行われたという。
「Web制作を手がけていたチームで、ヤフーのジェットコースターを使ったトレンドコースターを手がけたのがきっかけで、今回のOculus Riftを活用したコンテンツの制作を行いました。トレンドコースターは、検索のトレンド数の推移のグラフがジェットコースターのコースとなるもので、傾斜角30度まで傾くジェットコースターをチェコで買い付けて、作りました」(関氏)
仮想空間の中で人が動くことを再現する際に、Oculus Riftの視覚だけでも、相当な体験を行うことができる。実際、筆者が初めてOculus Riftを体験した際、視覚だけの体験でも酔うほどだった。
しかしここに、実際の画面の中の動きに合わせて、座っているコースターが上下動したり、扇風機で作り出された風が顔に当たると、その視覚の体験が強化される。それにしても30度傾くと、相当怖いように感じるだろう。
進撃の巨人のコンテンツを再現する際にも、視覚以外のこだわりとして「音」があった。ここも非常に苦労した点だったという。3D空間の制作はUnityを利用したが、音やセリフを空間のどこから鳴らすか、という調整が大変だったそうだ。
また、例えば地面に着地する、剣を抜く、立体機動のワイヤーを発射する、といったOculusRiftを装着している本人の動作に関わる音は、本来小さくても、作品の中では大きく強調しなければ埋もれてしまい、動作が体験者に伝わらなくなる。こうしたチューニングにも気を配っている。何で音を聴くか、という点にもこだわりがあった。
「Oculus Riftを装着してからヘッドフォンをかけるのですが、このヘッドフォンを何にするか、という点も悩みました。当初、音場の再現が豊かなものも検討しましたが、巨人と対峙する際の音は、やはり迫力のある低音が重要。そこで、重低音が鳴る際に、ヘッドフォンそのものも振動するScull Candyの製品を選択しました」(関氏)
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