体験版とはまるで別物――「N3」をサンユン・リーが語るGame Developers Conference 2006

現地時間の3月22日、「GDC 2006」でのセッション「Ninety-Nine Nightsのすべて: 次世代キャラクターデザイン」も好評だった「NINETY-NINE NIGHTS」ディレクター、ファンタグラムのサンユン・リー氏に個別でインタビューを行った。

» 2006年03月23日 19時45分 公開
[加藤亘,ITmedia]
「NINETY-NINE NIGHTS」ディレクター:ファンタグラムのサンユン・リー氏。「開発が終わったからここに来れたんですよ」と語る。開発期間中は確かな手ごたえがなかったものの、こうして終わってみると満足しているのだとか

 アメリカ・カリフォルニア州サンノゼのSan Jose McEnery Convention Centerで開催されてるゲームクリエイター対象のカンファレンスイベント「Game Developers Conference 2006」(GDC 20061)に「Ninety-Nine Nightsのすべて: 次世代キャラクターデザイン」と題して、キューエンタテインメントの水口 哲也氏とともにセッションに登壇したファンタグラムのサンユン・リー氏に現地でインタビューを敢行した。

 今回GDC初出席となるサンユン・リー氏は、4月20日に発売を予定しているXbox 360用ソフト「NINETY-NINE NIGHTS」(以下、N3)の開発を終えたばかり。ここまでこぎ着けたことに、今はただ安堵していると語る。それでも何もないところからの新ハードでの開発や、技術の蓄積、時間との戦いなど、さまざまな要因が重なり発売延期という苦渋もなめた。

 先日、韓国でも発売が開始されたXbox 360についてサンユン・リー氏は、韓国のゲーム文化事情を引き合いに出し、一言「よくない」と総括する。とはいえ、考えていたものよりも結果的には多く販売されているらしい。Xbox 360との同時発売タイトルが7つに留まったことも大きな要因と言えるが、韓国でのオンラインゲーム市場の成熟が、家庭用ゲーム機を圧迫しているのだと分析する。子供に対する教育意識が高く、家庭用ゲーム機とPCでは比較的勉学に役立つであろうと判断した親は、家庭用ゲーム機のためにはおこづかいは与えず、PCを買い与えるのが常なのだとか。インフラが整ったこととあいまって、こうしてオンラインゲームは爆発的に広がったとサンユン・リー氏は推測する。

 そうした厳しい状況でもN3がひとつの起爆剤となることを彼は期待している。事実、韓国国内の開発会社が始めて作ったタイトルであることで注目されており、日本でも多くの人に注目してもらいたいと希望しているのだ。とはいえ、企画立案から約16カ月という短い開発期間では、当初予定していたものすべてを反映することは到底できなかったと悔しがる。オンライン対応も視野に入れていたが、残念ながら本作では断念。10体のプレーヤーキャラが予定されていたのも7体となった。もっとスペクタクルなアクションであったはずだった……と、挙げればキリがないほど困難があったのだとか。

 本作は、プロデューサーでもあるキューエンタテインメントの水口哲也氏との日韓共同プロジェクトとなっている。経験豊かな先達としての水口氏との仕事にサンユン・リーは経験多き人だからこそぶち当たる局面も正直あったと語る。水口氏は技術的な部分はさておき、感覚的に作品を語る時があり、それを具体的に表現するのに時折差異が生じたというのだ。とはいえ、プレーヤーがどこに興味を持ち心引かれるのかを学ばせてもらった点は大きな意義があったと振り返る。

 Xbox 360は、GPUがパワフルでグラフィックもクオリティーも問題ないハードとサンユン・リー氏は考えている。特に今作のような大軍戦を表現するのには、困ることはなかった。1画面に2000体を表現できるのが、他では考えられなかったからだ。しかし、開発機材も揃わない初期段階では、なにもできない状態で大変苦労したと苦笑する。このへんの遅れが発売延期のすべての理由というわけではないが、後々大きく響いたことは間違いないとも明かす。ギリギリまで詰め込もうと開発に従事した結果、現在配布されている体験版にはまったくタッチできないという事態にもなった。配布1週間前に渡されたものをやってみたものの、すでにまったく違ったものになっていることに驚いたのだとか。製品版ではすべてにおいて圧倒的スピードとクオリティーを誇ると自信をのぞかせる。

開催中のGDC2006でも現地時間の22日、水口哲也氏とともにセッションが行われ大盛況だった。異なる視点、正義と悪が逆転する物語を描きたかったことや、キャラクター設定における葛藤など、起こりうる問題を開発者に向けて語られた。ここだけの映像も流され拍手が贈られていた

 本作は、光と闇の葛藤を描くヒューマンドラマと、大軍勢相手に繰り広げる爽快アクションを一体とした、独特な空気感を演出した完全オリジナルファンタジー世界を舞台としたファンタジーアクションである。デザインも斬新なキャラクターと、それらを存在させる圧倒的なグラフィックス、さらに5.1chによる音響効果など、Xbox 360期待のこの春一押しのタイトルとなっている。

 最終的にはプレーヤーキャラが7人と発表されているが、ゲーム当初は1人でのプレイとなる。行動選択によって物語は分岐。話を進めていくことで、使用できるキャラも増えていくという。本作はすべてを破壊可能とうたっている。それは背景であっても同様だ。プレーヤーは押し寄せる大軍相手に武器を振るい、すべてを刻んでいくことになる。最終的には2つのエンディングが待ちかまえていると言う。

 ちなみに、現在シークレットとされている7人目のキャラクターは“人間ではないもの”とヒントをくれた。それも物語を始めると序盤ですぐに判明するはずだとも教えてくれた。

自信の最高コンボ数は2000人だが、理論上5000人以上は普通に倒せるはずだと説明する。しかも7000人コンボで倒すことができれば、隠れアイテムが与えられるとのこと。もちろん隠しアイテムはそれ以外にも存在する。ランク取得や背景を破壊することで得られるアイテムもあり、その種類は豊富

 サンユン・リー氏にとってXbox 360は、当初どうやっていいのかも手探りで苦労させられたものの、今となっては技術もノウハウも蓄積され、やりやすい機材になっているそうだ。短い開発期間だったが、それを終えて今思うのは、どんな困難にぶつかってもいずれは終えることができるということ。短い期間でも素晴らしいプロジェクトができるという自信につながったと飄々と語った。

 今後はもちろんXbox 360の開発も引き続き行うが、PS3やレボリューションにもサンユン・リー氏は興味をのぞかせる。PS3はそれほどXbox 360の開発のように違和感なく取り組めると思うし、レボリューションは特殊なコントローラの面白い使い方を思いつき次第挑んでみたいそうだ。

 N3が一息ついたらすぐに、サンユン・リー氏はXbox 360版の新作開発に取りかかることになっている。日本での発売も視野に入っているという。個人的考えてとして、今後のタイトルはマルチプラットフォームでの開発を推奨したいのだとか。Xbox 360はその開発の入口としては、実は“作りやすい”らしい。

 韓国では家庭用ゲーム機専用ソフトの開発者が極めて少ないという。さらに携帯ゲーム機の開発を政府が奨励していることもあり、据え置き機だけに携わる人間は多くない。前途したオンラインゲーム隆盛という背景も手伝い、家庭用ゲーム機の劣勢はなかなか覆せないとため息を漏らす。とはいえ、ゲーム年齢も広がりを見せ、自力で家庭用ゲーム機を購入できる年代が増えることで、需要は増えてきていると今後に期待をのぞかせる。

 まったく新しいフィールドアクションゲームで、今までになかったものを提供できる自信があるのに、思うようにハードの販売台数が伸びない現状にサンユン・リー氏は歯がゆい思いをしている。「ダイナミックでエキサイティングな本作を、より多くの人に楽しんでほしい」――これを機会に購入してもらいたいと、ハードの需要不足を嘆く。

「NINETY-NINE NIGHTS」
対応機種Xbox 360
発売マイクロソフト
開発キューエンタテインメント/ファンタグラム
ジャンルファンタジーアクション
発売予定日2006年4月20日
価格7140円(税込)
(C)2006 Microsoft Corporation. All Rights reserved.


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