「太陽の黙示録」アニメ化――かわぐちかいじ氏は“不安に立ち向かう日本人”を描く
かわぐちかいじ氏が未曾有の危機を迎えた日本の未来を描く「太陽の黙示録」が、WOWOW開局15周年記念番組として放映される。かわぐち氏へのインタビューを交えて、本作の魅力を語る。
WOWOW開局15周年記念としてアニメ化
8月31日、WOWOW開局15周年記念番組として製作された「太陽の黙示録」の試写会が行われ、原作者であるかわぐちかいじ氏、製作総指揮をとったマッドハウス・丸山正雄プロデューサーの舞台挨拶の他、三国志を熱心に読んでいるという眞鍋かをりさんをスペシャルゲストとして迎え、本作の魅力が語られた。
「太陽の黙示録」は2003年から小学館のビッグコミックに連載されているかわぐちかいじ氏の最新作で、第51回小学館漫画賞を受賞している大震災後の日本の姿を描いた骨太なエンターテインメント作品。
日本各地に同時多発的に起こった大震災により、日本列島が琵琶湖でまっぷたつに割れるという衝撃的な幕開けではじまる。首都東京も地震と富士山爆発で壊滅、大阪も津波で水没しており、自力での復興を諦めた日本政府はアメリカと中国というまったく異なる政策を掲げる2大国の援助という名の占領にあい、分割統治を余儀なくされてしまう。海外に避難した日本人も難民となり、避難先で過酷な扱いを受けてしまう……。日本を取り巻く社会環境を背景に、近未来の日本をリアルにシミュレーションし、「日本人とは何なのか? 日本人はこの先どこへ行くのか?」を問いかける興味深い内容となっている。登場人物が三国志のキャラクターになぞらえているところから、かわぐち版三国志とも言われている。
今回、WOWOWでは9月17日と18日の両日午後10時から、現在コミックスで12巻まで発売されている本作の第1〜4巻・地震発生から台湾編までを前後編2話「太陽の黙示録 前編 海峡」、「太陽の黙示録 後編 国境」にまとめて放送される。
それに先駆け、9月1日〜3日には小学館原作作品史上初のネット試写会もWOWOW主催で開催され、前編の冒頭は約45分間を先行配信するという試みも行われている。1万人規模のネットイベントは、WOWOWでも珍しく今後もさまざまな作品で同様のサービスを行うことを予定しているという。
試写会では舞台挨拶も
試写会ではまず、かわぐち氏と丸山氏との舞台挨拶が行われ、本作執筆の理由について聞かれるとその日の夕方にあった地震を引き合いに出し(神奈川で震度4)、「僕はすごく臆病なんです。それで地震学者の方に、大きい地震が3つ一緒にきたらどうなるか聞いたときに、ひょっとしたら琵琶湖あたりで日本が割れるかもしれませんよ、という話を聞きまして。そうなったらどうしようとぞっとしたんですが、逆にこれは漫画になるぞ、と思いました。そこから、未曾有の災害が起きたときに日本人がどういう境遇に陥るかということに興味をもった」と、ドラマを構成していきたいという思いに至った経緯を説明した。本作は地震と災害の話と三国志をどう結びつけるかが課題だったとも。
原作を読んだ丸山氏は「前々からかわぐち先生の作品を映像化したかったのですが、一番重い作品が来てしまいました。うれしいやら、悲しいやらですね。日ごろ軟弱な作品をやっているので、なかなか慣れなくて苦労しました。この作品は剛速球な表現が多いですね。これほどストレートな感情表現をする原作には久しぶりにお目にかかりました。原作を読むと泣けちゃうんですけど、映像がそこまで迫られたかどうか、今とっても不安でこのまま逃げて帰りたい」と、肩をすぼめる。現在は、放送に向けて後編部分の作業中とのこと。
かわぐち氏は子供の頃から映画が大好きで、実は映画監督になりたかったそうだ。しかし、映画監督になるのは大変だという話を聞き、漫画だと1人で描けると漫画家への道を選んだとか。「漫画を書くときには、映画を作るような気持ちで描いています。20ページの漫画だったら、1本の映画を作るような。だから自然にコマ割とか映画のシーンをイメージしています。読者の人が読むと、映画を観ているような気持ちにさせられたら成功かな、と思います」と、映画的手法を駆使している様子。丸山氏も原作のコマをつなげればそのまま映画になると感想を述べる。音楽や声優さんなどのおかげで渋い作品になったと出来上がりに満足しているとのこと。
かわぐち氏は漫画と映像の大きな違いとして、“音”というところに注目しており、どんな動きや音が加わるのか楽しみにしていると期待を寄せた。
また、スペシャルゲストの眞鍋かをりさんは、現在ネットオークションで三国志を全巻落札したほどの三国志ファン。三国志になぞらえたキャラクターに触れ、「張飛ファンなので、『太陽の黙示録』だと張が好き。力が強いところも好きなんですけど、頭が良すぎなくて、ちょっと感情的なところ、人間ぽいところがいい」と眞鍋さんが答えると、かわぐち氏も張は感情のままに描けるので楽しいと明かす。
「三国志を時代劇として描くことも考えたんですが、それを現代に置き換えて描くのは難しいんです。それぞれのキャラクターを現代の人物として描くのは、面白くもあるんですが、大変でした。3人の『太陽の黙示録』のキャラクターが、三国志にあてはまる、といってもらえるよう努力してます」とかわぐち氏。
かわぐちかいじ氏に聞いてみた
試写会後、かわぐち氏にお話をうかがう機会をいただいた。かわぐち氏はアニメに関してやはり“音”がよかったと、キャラクターと声優が思いのほか合っていて安心したと感想を述べる。
現在、連載中の「太陽の黙示録」はさらに混迷を深め、先行き不安の状態にある。そんな原作のラストはどのようなものになるのかを聞くと、すでにイメージはできていると明言。しかし、途中、いろいろ枝葉に分かれて肉付けされていくので、今はそこを楽しんでいるのだそうだ。想定していたラストにまっすぐ行くものは面白くないものが多いので、そういう意味でも本作は成功していると自信を見せてくれた。
ちなみに、登場人物を三国志になぞらえていることもあり、内容的にも三国志的な展開が色濃く反映されているところも随所に見られるが、ラストまで同じようになるとは限らないと言う。「それだったら面白くない。あくまでも三国志のキャラクターを反映しているだけ」と笑うが、今後も読者が期待しているエピソードなどは可能な限り取り入れたいとしている。
かわぐち氏的には、いろいろ考慮に考慮を重ねている宗方よりも、感情的に動く柳のほうが描きやすいと語る。だからこそ、2人の掛け合いが面白いのだそうだ。現状、劉備(柳)と曹操(宗方)を交互に描いているが、今後は孫権サイドも描いていきたいと意欲を見せる。現状は、本当の意味での3つの勢力を描くための布石を打っているところで、今は諸葛孔明となり得る人物を、どう登場させるかが目標と楽しそうに語ってくれた。かわぐち版三顧の礼があるのか、そしてどんなキャラクターが登場するのかを期待したい。
かわぐち氏が漫画を描く際のモチーフに“不安感”というものを挙げる。日本人はパニックに弱いとは思うが、その中で順応していくのに強い民族との持論のもと、それに立ち向かう“人間の意思”を描いていきたいと説明する。常に日本人の中にも漠然とした“不安”を抱えて生活している。そうした不安が現実のものとなった時の瞬間的な判断をドラマとして展開していくと語ってくれた。
かわぐち氏が描く日本の未来――本作を見て“不安”に立ち向かうヒントを探してみてはいかがだろうか?
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