“new generation”の文字に偽りなし――新たな局面を迎える元祖マルチサイトアドベンチャー「EVE new generation」レビュー(1/2 ページ)

人気アドベンチャー「EVE」シリーズの最新作「EVE new generation」が登場した。これまでの流れをいったんリセットし、気鋭のゲームシナリオライター・打越鋼太郎氏を迎えた新生「EVE」は注目に値する。

» 2006年09月19日 15時17分 公開
[立花裕壱,ITmedia]

生まれ変わった「EVE」見参

 本作「EVE new generation」を語るうえで、紹介しておきたいゲームが2本ある。まず1本は美少女ゲームの革命家、菅野ひろゆき氏が手がけた「EVE burst error」。シリーズの原点に当たり、1995年にPC-9800用ソフトで発売された後、セガサターンに移植された名作アドベンチャーだ。

 魅力的なキャラクターと衝撃のラストで、多くのプレーヤーの心をつかみ、今でもマイベストゲームに推す人もいるほどの作品。その人気から「EVE The Lost One」、「ADAM THE DOUBLE FACTOR」、「EVE ZERO」、「EVE The Fatal Attraction」と、続編が数多く発売されたが、菅野氏が制作から離れたためか、初代に比べて今ひとつブレイクしていない印象があった。

 もう1本は、やや聞きなれないかもしれないが、2002年にプレイステーション 2で発売されたSFアドベンチャーの「EVER17」。2017年、海洋テーマパークに閉じ込められた7人の少年少女が脱出の道を探る……。見かけはいわゆるギャルゲーだが、制作者が仕掛けた壮大なトリックは多くのプレーヤーの度肝を抜いた。

 この「EVER17」のシナリオを担当したのが打越鋼太郎氏。「EVE new generation」は、シリーズの最新作であると同時に、その打越氏がシナリオを手がけている。すでに固まりつつある「EVE」の世界を打越氏がどう料理するのか、否が応でも期待が集まるわけだ。

簡単操作でサクサクプレイ

 ジャンルはコマンド選択式アドベンチャー。主人公の天城小次郎と法条まりなの2人の視点を切り替えて進める、マルチサイトシステムがシリーズの特徴だ。どちらか一方のシナリオをある程度攻略すると、どうしても先へ進めなくなる。そんな時は、もう一方のシナリオに移ることで状況を打開していく。本作は詰まる個所に、サイト変更を促す「マルチサイトマーク」が表示される。これが出たら小次郎からまりなへ、まりなから小次郎へと視点を変更する。これでサクサクとゲームが進むはずだ。

 また、操作体系がブラッシュアップされ、○ボタンに「考える」、△ボタンに「話す」、×ボタンに「調べる」が割り振ってある。これまでのように「調べる」→「机」と、コマンド入力することなく主人公の行動をスムーズに選べるのは快適だろう。

 犯人を指名したり、トリックを暴いたりなどの、推理クイズ的な謎解きはなく、どっしりした小説タイプの本作。ネタバレになるので詳しくは書けないが、哲学的なモチーフや、自我を問うテーマもあって、腰を据えて読まないと、作品の全容が見えてこないほど、深いシナリオが待っている。だからこそ、シンプルなシステムがちょうどいいのだ。

photo 謎めいた少女、乃依と小次郎の出会いからすべては始まる。“蜂”がキーワードとなる事件には驚きのトリックが仕掛けられていた……
photo 捜査時には、行動が○、×、△ボタン、捜査対象が十字キーに割り振られ、コマンドを選択しなくても直感的に操作できる
photo 一方のシナリオが行き詰まると右下に小さく「マルチサイトマーク」が出現。この状態になったらセレクトボタンでサイトを変えよう

グイグイ引き込むテンポのいいシナリオ

 港の倉庫に事務所を構える探偵の小次郎と内閣調査室の凄腕エージェントまりなは、一作目からの腐れ縁だ。今回はどんな巨悪に立ち向かうのか? シナリオのさわりを紹介していこう。

 ――“それ、拾ってくれたんだよな?”。夜の倉庫街で、小次郎はある少女に出会った。小次郎が落としたパッションフルーツを手に、ボーッと埠頭にたたずむ少女。だが、そこへ謎の男が現れ、少女を連れ去ってしまった。不意に元恋人で探偵の弥生から電話がかかる。“実はな、ひとを、探しているんだが……”。送られてきた画像は、まさしく少女のもの。立ち回りの末、小次郎は少女、乃依(のい)の身柄を確保した。“お怪我はありませんか? お姫様”。少女の手を取る小次郎。記憶がないという乃依が秘めた過去とは……。
 一方、まりなは荒れていた。“男なんて3分おきにやってくるんだから! 特急だって新幹線だって止まっちゃうんだから!”。今日も失恋して飲んだくれるまりな。だが、彼女の酔いは一瞬にして吹き飛んだ。ふと見上げた高層ビルの屋上のふちに青年が立っていたのだ。説得に向かったまりなだったが、彼は意外な言葉をつぶやき、飛び降りてしまう。“賭けをしたんだ。……ぼくが死ねば、すべての人類は救済される”。“BOJの……テロ……。人々は……灼熱の中で……あえぐことに……”。この最期の言葉に、まりなは不吉な予感を覚えた。

 夏の盛り、8月9日の夜から物語はスタートする。のっけから小次郎が謎の少女を救うため、銃まで持ち出す物騒な男たちと息もつかせぬ大立ち回り。一段落したのも束の間、今度は次の日、日銀で顔を合わせた小次郎とまりなが、車で突入したテロリストグループの襲撃に巻き込まれ、人質になってしまう。無事に事件は解決するが、犯人たちは口々に記憶がないと言い出す……。

 今回のシナリオは最初から展開が派手なうえシナリオの密度も濃くて、ついつい引き込まれてしまう。ひとつ解決してもまた謎がひとつ、そして加速度的に謎が謎を呼び、先が知りたくてしょうがなくなる。

 初代「EVE burst error」では、別々の事件がひとつに結びつき、顔も知らない2人が協力しあうクライマックスが見事だったが、今回は最初から共闘体制なので、次のような2人のかけ合いもいろいろと楽しめる。

まりな「それより小次郎はなにをしに……?」
小次郎「両替だよ。1万円札を5千円札に替えてもらおうと思ってな」
まりな「……は?」
小次郎「俺、樋口一葉のファンなんだ。あぁー、樋口とタケクラベしてぇー! ニゴリエりてぇー!」
まりな「なによ、やっぱり女好きなんじゃない」

 ……知的なんだかおバカなんだかよく分からない2人のコンビネーションは絶妙だ。恋愛関係ではないが、お互いの能力を認め合っているプロフェッショナルな絆も伝わってくるだろう。

photo 日銀を襲撃するテロリストグループをどう撃退するか? 作戦会議で息が合う2人。ところが意外な展開が……
photo 絶体絶命のピンチ、タンクローリーに潜んで語り合う小次郎とまりな。いつも強気のまりなだが、この事件では弱さも見せる……

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