ゲームの歴史そのものがストーリー――「SPACE INVADERS INFINITY GENE」ヒットの裏側(2/2 ページ)

» 2009年09月17日 14時12分 公開
[山田祐介,ITmedia]
前のページへ 1|2       

「“少しの違和感”が人を引きつける」

photo ビミョーな違和感が、人に印象を残す

 冒頭に挙げた石田氏の代表作には、インベーダーが登場すること以外にも共通点がある。「3作品のベースには“テクノテイスト”がある」と石田氏は説明する。特に鮮やかな色づかいが印象的な「トランスピンボール」には、SPACE INVADERS INFINITY GENEに通じる世界観が漂っている。

 テクノな世界観について、「ほぼ、趣味です(笑)」と語る石田氏だが、独特の色づかいや記号的なデザインが持つ“違和感”が、ユーザーを引きつけるフックになるとも考えている。ただ、「違和感を打ち出しすぎると、きらわれる原因にもなる」と、さじ加減の難しさにも触れた。

 さらに、記号的なデザインには、「ゲームそのものを楽しんでもらう」という狙いも影響しているようだ。「このゲームには、『侵略者から地球を守るために戦う』といった通常の物語性ではなく、“ゲームそのものの物語”を表現するデザインが必要だった」という。さらに「ドット絵むき出し」なスペースインベーダーの世界観を生かす狙いで、デジタルな雰囲気を画面にちりばめた。「なにはともあれ、クールなデザインにしたかった。見ているだけで楽しい、人に勧めたくなるようなビジュアルを目指した」(石田氏)


photo ほぼ完成系に近いデザインが初期に完成していたが、「物足りない」という声もあって、色の付いたデザインも考案した。色つきのデザインはゲームとして「落ち着く」一方、独特のスタイリッシュな雰囲気が消えてしまい、採用されなかった

 ゲームとしてのミニマムなデザインを追求する一方で、質感に関しては細かいこだわりも。「昔のモニタの走査線を描き込んでいる。画像を2コマで切り替えて、チラつきを再現している。グラフィックが2倍になるので大変な所もあったが、プログラマーに無理をいってお願いした」と、石田氏は説明する。

photo 走査線の表現を唯一使っていないのが、敵キャラの「ギガンティックUFO」。画面に収まりきらない巨大なキャラクターのためにグラフィックの負担が大きく、走査線の演出をあきらめたという
photophotophoto 「音楽的なステージ」をテーマに、4拍子の展開を意識したという(写真=左)。あからさまな安全地帯や、クリアしやすい武器を意図的に用意(写真=中央)。6ステージごとに不思議な“ブレイク”ステージを設け、進化を表現した(写真=右)

ディレクターと作曲担当が繰り広げた闘い

photo タイトーのサウンド制作チーム「ZUNTATA(ズンタタ)」のメンバー、小塩広和氏。名作シューティング「ダライアス」の挿入曲「キャプテン・ネオ」の生演奏からセッションが始まった

 「ゲームそのものを楽しむ」というコンセプトは、作品のサウンドでも貫かれている。同アプリの楽曲はiTunesでアルバムが緊急販売されるほどの評価を呼んだが、完成までの道のりは平坦ではなかったようだ。講演の後半にはサウンドを手掛けたタイトーの小塩広和氏が、ライブパフォーマンスを交えながら作曲の過程を語った。

 石田氏が小塩氏に求めたのは、感情や状況を連想させない楽曲。小塩氏が最初に制作した抑揚のあるメロディアスな楽曲は、石田氏からダメ出しを食らってしまう。その後も、シーンの盛り上がりを演出しようとする小塩氏と、ストイックに硬質な楽曲を求める石田氏の間で、熱い戦いが繰り広げられた。

 こうして、時に石田氏の考える“無機質なサウンド”を忠実に表現し、時に小塩氏の“ゆずれない抑揚”を盛り込みながら、互いの主張を練り合わせて生まれたのがSPACE INVADERS INFINITY GENEのサウンドだった。

 さらに、デジタルな質感を強調した音作りもポイントのようだ。「iPhoneはミュージックプレーヤーでもあるので、音がいい。そのため制作者としては“いい音”を使いたくなるが、スペースインベーダーにとってそれはどうなの? と考えた」(小塩氏)。そこで小塩氏は、制作の初期段階で使うFM音源の音をあえてそのまま活用し、「インベーダーのレトロ感」を演出したという。



 侵略者ではない、アイコンとしてのインベーダー。衝動だけをかき立てるゲーム音楽――「ゲームを楽しむためのゲーム」を目指した作品が、SPACE INVADERS INFINITY GENEだった。

前のページへ 1|2       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2405/14/news109.jpg サーティワンが“よくばりフェス”の「カップの品切れ」謝罪…… 連日大人気で「予想を大幅に上回る販売」
  2. /nl/articles/2405/14/news183.jpg 「誰かと思った」 楽天・田中将大の“激変した風貌”にファン驚き…… 「一瞬わからなかった」
  3. /nl/articles/2405/15/news133.jpg 複数逮捕&服役の小向美奈子、“クスリ”に手を出した理由が壮絶すぎ……交際相手の暴力で逃亡も命の危機 「バレてバルコニー伝って入られて」
  4. /nl/articles/2405/14/news022.jpg 岩場に潜む“握力1トンのカニ”を捕まえようとしたら…… 人間vs.カニの壮絶な結末に「普通に困惑した」「気になって眠れない」
  5. /nl/articles/2405/11/news054.jpg サーティワン、アイス最大10個で1270円に!? お得なキャンペーンに「これが大人のやり方だ」「壮観だな」と“大人買い”続々
  6. /nl/articles/2405/15/news107.jpg 「生まれたてのイケメン」 西城秀樹さんの20歳長男、亡父の名曲「ギャランドゥ」歌う姿に感動の声「なんかうるうる」
  7. /nl/articles/2405/13/news154.jpg 「俺はガンダムで行く」を結婚式の二次会でやった猛者に7.8万いいね 渾身のコスプレに「新郎新婦より目立ってどうする」「ワインはどうやって飲むんだ」
  8. /nl/articles/2405/15/news009.jpg 黄金に輝く魚を捕獲→その正体は……? 水路にいるさまざまな生き物との出会いに「リアル僕の夏休みみたい」
  9. /nl/articles/2402/04/news011.jpg 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
  10. /nl/articles/2405/15/news017.jpg “世界一美しいザリガニ”を入手→開封して見ると…… 絶句を避けられない姿と異変に「びっくり」「草間彌生作のザリガニみたい」
先週の総合アクセスTOP10
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評