鳴っているか分からないぐらいでいい―― 名曲を生み出してきた下村陽子がアニメ「ハイスコアガール」で目指した意外な曲作り(2/2 ページ)
カプコンからスクウェア、そしてフリーランスへ
―― カプコン時代のお話が出たので、ここからは少し下村さんのこれまでを振り返っていきたいと思います。カプコンにいたころは、どうやって作曲されていたんですか?
下村 当時はMSXを使っていたんですけど、作曲データをセーブするときはMSXにカセットを挿して書き込んでいました。カセットを再生するときの音ってFAXの「ピーヒョロロ」という音と同じなんですね。だからいまだにFAXの音を聞くと、前日にセーブしたのに読み込めなくて曲がパーになった記憶がよみがえります(笑)。消えるのが怖いので3回ぐらいセーブしてから帰るんですけど、3回とも読み込まなかったりして、データを読み込むときはさっき言った「ピーヒョロロ」って音が鳴ってそれが止まるとデータが立ち上がるんですけど、「ピーヒョロロ……ピー」って鳴ると、「あー、これ読み込めないやつー!」って(笑)。
―― ドラクエのセーブデータが消えたときみたいな絶望感だ……。いまはどんな機材で作曲されているのでしょうか。
下村 PCはMacで、シーケンスソフトがデジタルパフォーマー、それに電子ピアノとソフトウェア音源を幾つか使って作曲しています。あんまり高価な機材は使っていないですね。
―― 個人的に気になっていたのですが、ストIIのステージ曲ってほぼ全て下村さんが手掛けられていますけど、サガットステージ(他、システムBGM2曲)は阿部功さんの曲ですよね。これってなぜなんですか?
下村 なんてことはないんですけど、当時カプコンでは新入社員は誰かのサブで付いて何曲か担当することになっていたんです。作曲方法や企画の人とのやりとりを覚えてもらって、独り立ちするみたいな。それで私は阿部くんと組んだというわけです。やり方を教えながら何曲か書いてもらって、企画の人にOKをもらったのが、その3曲でした。そのあと発表した「ザ・キングオブドラゴンズ」も同じで、新人だったころの里村(由紀)さん(現在は岩井由紀)と西垣(俊)くんと私の3人で作りました。
―― カプコン時代には「ALPH LYLA」(アルフ ライラ)というサウンドチームに所属していた下村さんですが、そのころって他のゲーム会社も自社内でゲーム音楽バンドを組むところが多かったと思います。横のつながりってあったりしましたか?
下村 あまりなかったですね。ネットやメールも全然普及してなかったので、お会いしたあとにやりとりすることもなく、年に1回コンサート(※編注:1990年から1995年にかけて毎年夏に開催された「ゲームミュージックフェスティバル」)があって、そのときに会って打ち上げでお話をするぐらいでした。今になって元「コナミ矩形波倶楽部」の古川(元亮)さんや元「S.S.T.BAND」の光吉(猛修)さんに会ったりして、いまの方が横のつながりがありますね(笑)。
―― 1993年にはカプコンを退社し、スクウェアに転職されます。理由はRPGの曲を作りたかったからだとか。
下村 そのころはアーケードを担当していたんですけど、アーケードでRPGってまずないじゃないですか。コンシューマーに戻るのもあれだし、もともとクラシック出身なので、ドラクエみたいな……っていったら作曲したすぎやまこういち先生に大恐縮なんですけど、やっぱりクラシカルなものをベースにしたいろんなシチュエーションの曲を作りたいというのが、ずっとどこかにあって、間違いなくRPGの曲を作らせてくれるところに行くしかないなと。
―― そしてスクウェアで最初に手掛けたのが、いまもファンの多い名作RPG「LIVE・A・LIVE」(1994年)と。
下村 王道の中世RPGみたいな曲を作りたかったんですけど、スクウェアに行ってからもなんだか違う感じのタイトルばかり担当していました。もちろんそれが悪いわけではないですけど、「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」(1999年)を手掛けるまでは本当に一癖も二癖もある作品ばかりで(笑)。
―― 「LIVE・A・LIVE」「スーパーマリオRPG」と、ジャンル上ではRPGですが、王道と呼ぶにはチャレンジングな作品ばかりですね。カプコンとスクウェアでは、制作環境も違いましたか?
下村 全然違いましたね。スクウェアは作曲家の作業スペースが個室でしたし、裁量労働制で極端な話をすればいつ来てもいいという環境でした。あと、カプコンのときはグラフィック担当の人たちが抜けてからサウンド担当が入るという流れで、グラフィックの人とはほぼ交流がなかったですが、スクウェアでは、1つのチームでグラフィックもサウンドも最初から最後まで一緒に制作していました。あと、やたら飲み会の多い会社でした(笑)。
―― その後、2003年にフリーランスに転向しています。
下村 そのころに子どもを出産したんです。これが大きな理由ではあったんですけど、「キングダム ハーツ」の仕事が終わって、そこそこ大きなタイトルもやったし自分もずっと走り続けてきたように思ったので、この辺で1回自分の人生を見つめ直してみようと思ったんです。だからやめるときはフリーランスになるつもりはなくて、作曲家の仕事も完全に辞めてしまうつもりもなかったので、もしこんな私にもお仕事の話をいただけるならフリーランスという道もあるかな、というぐらいの本当に緩い感じだったんです。
―― 同じ年に任天堂から「マリオ&ルイージRPG」が発売されていますね。
下村 ちょうど辞めようかなと思っていたときに、「スーパーマリオRPG」で一緒に仕事をしていた人から、今度こういうゲームを作るんだけどって声を掛けてもらいまして。フリーランスになってからもお仕事はあるなと(笑)。
―― フリーになってからはゲーム音楽以外にも、宝塚歌劇団「天は赤い河のほとり」(2018年)に楽曲を提供したり、アニメ映画「ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜」(2017年)の楽曲を手掛けたりと幅広く活動されている印象です。フリーに転向したのには、活動領域を広げたいみたいな欲求もあったのでしょうか。
下村 ぶっちゃけ、曲を書けるんだったらどこでもいいと思っているんです。私の曲が欲しいとおっしゃってくださるところには、やったことのないジャンルでもやりますという感じで。
―― これまでの実績を考えると、今後も新たなフィールドで下村さんの音楽を聞ける機会が増えていきそうです。領域を広げる中で、フリーだからこその苦労もたくさん経験したのではないかと思いますが……。
下村 それまでは外部との接触でも会社というクッションがあったので、依頼などもフィルターを通して必要なものだけ私のところへきていたんです。いまは外部からの連絡にも全て自分で対応しなければならないし、誰かに外注したとしたら支払いなど事務的な作業もありますし、会社にいることで曲を作ることに集中できていたんだなって感じますね。
―― 2月にはJASRACに加入されています。
下村 著名な作曲家の方ってほとんどの方がJASRACさんに入られているので、私も入ったら著名になれるのかなって(笑)。それだけではないですけど、でもやっぱりJASRACさんに入って一人前なのかなと思う部分はありました。フリーランスをやっていて入っていないと、「なんで入っていないの?」って言われることがすごく多いので、どこか入っていて当たり前みたいな。それからは、結構いろんな人からついに入会されたんですね、おめでとうございますとか言われたりして、あ、やっぱりおめでとうって言われることなのかって。一つのクリアすべきハードルなんだと思います。
アニメとゲームにおける音楽の役割
―― 過去のインタビューで、アニメの音楽は、ゲーム音楽と違ってループしないのが大きなポイントだと語られていました。
下村 曲がループせずに終わるのは大きいですよね。ただ以前ほど終わりを作らなきゃと悩みはしなかったです。「極上生徒会」のときは、曲を終わらせなきゃみたいな使命感があったんですけど、ふわっと終われば大丈夫かなって、自然に曲が終わりに向かっていくように作れました。
―― 最後になりますが、ゲームとアニメについて、下村さんはそれぞれの音楽の役割をどう考えていますか?
下村 曲を作っている側のスタンスとしてはどちらも同じです。アニメだったらアニメに合う、ゲームだったらゲームに合う、作品がもともと持っている雰囲気や絵の世界観というのを壊してはいけないし、邪魔してはいけないというのは同じで、あとは作品に合っていればいいという考えなので、大きな違いはありません。
ゲームに関していえば、ボスが変身すると曲が変わったり、何かが近づいてくると怖い音楽が鳴ったりといった、双方向のインタラクティブがあります。自分がアクションを起こすことで曲が変わっていくというのは、ゲーム音楽の一つの大きな魅力だと思います。
―― アニメはどうでしょう。
アニメはその逆で、流れる時間が決まっているわけです。こちらは受けるだけといったら変ですけど、基本的に一方通行なんですよね。決まった時間で、決まった一つの音楽で、決まった世界観を作るというのはアニメの大きな魅力だと思っています。「ひるね姫」では絵に合わせて後から曲を作っていきましたけど、「ハイスコアガール」のようなテレビアニメだと幾つか作った曲の中から、音響監督さんが場面にあわせて音楽を貼っていきます。それはそれで出来上がったものを見ると意外な発見があったりして、こういうところでこの曲が使われるんだって、面白いし勉強にもなります。
逆に自分がゲーム音楽を作るときに、このシーンだったらこういう曲だってどこか思い込んでいるところがあるんですけど、そういう経験をすると、こういうシーンだけど、ああいう曲当てたら面白いんじゃないかみたいに視野が広がるっていうんですかね、新しい世界が見えるんです。
「ハイスコアガール」キャスト&スタッフ
キャスト(敬称略)
矢口春雄:天崎滉平 ※崎はたつさき
大野晶:鈴代紗弓
日高小春:広瀬ゆうき
宮尾光太郎:興津和幸
土井玄太:山下大輝
鬼塚ちひろ:御堂ダリア
矢口なみえ:新井里美
業田萌美:伊藤静
じいや:チョー
大野真:赤崎千夏 ※崎はたつさき
小学校の担任:杉田智和
沼田先生:中村悠一
遠野先生:植田佳奈
小春の父:武虎
ナレーション:大塚芳忠
ガイルさん:安元洋貴
スタッフ(敬称略)
原作:押切蓮介(掲載 月刊『ビッグガンガン』スクウェア・エニックス刊)
監督:山川吉樹
シリーズ構成:浦畑達彦
キャラクターデザイン:桑波田満(SMDE)
CGディレクター:鈴木勇介(SMDE)
音楽:下村陽子
OPテーマ:sora tob sakana「New Stranger」
EDテーマ:やくしまるえつこ「放課後ディストラクション」
CGIプロデューサー:榊原智康(SMDE)
CGI:SMDE
アニメーション制作統括:松倉友二
アニメーション制作:J.C.STAFF
放送情報
TOKYO MX 7月13日(金)24時30〜
MBS 7月13日(金)26時55〜
BS11 7月13日(金)24時30〜
ATV 7月23日(月)25時28〜
Netflix 7月22日(日)から配信開始
Blu-ray/DVD情報
テレビアニメ「ハイスコガール」Blu-ray/DVD STAGE1<初回仕様版>
12月19日発売予定/ROUND1〜4収録/1万2800円(税別)
■初回仕様特典
- 下村陽子作曲 オリジナル・サウンドトラックCD
- ハイスコアガール〜ウル技大技林〜Vol.1
■商品仕様
- アニメ描き下ろしイラストジャケット
- 映像特典
― 実録!ハイスコアガールゲームプレイ動画集(スタッフ解説付き)その1
― メイキング番組「プロジェクトH〜密着!アニメ制作の裏舞台〜」完全版
― ゲームコラボCM #1〜4
― プロゲーマー梅原大吾、板橋ザンギエフによる応援ビデオメッセージ
― ノンテロップOP&ED
■音声特典
・豪華キャスト陣によるオーディオコメンタリー
詳細はこちらから
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