萌え4コマ作家の生態を描いた萌え4コマ『がんくつ荘の不夜城さん』 作者が語る「きらら」作品の魅力(1/4 ページ)
『まんがタイムきらら』で連載中の漫画家マンガ。作者の鴻巣覚先生に初のインタビューを実施しました。
「萌え4コマ」というジャンルを世の中に定着させた、芳文社の4コマ雑誌『まんがタイムきらら』。そのきららで今、漫画家が主人公のマンガ『がんくつ荘の不夜城さん』が連載中です。11月27日に単行本2巻が発売されたのを記念して、作者の鴻巣覚(こうのす・さとり)先生にインタビューを行いました。果たして、どこまでが作者の実体験で、どこまでがフィクションなのでしょうか……?
がんくつ荘の不夜城さん
とある雑誌で4コマを連載している漫画家・不夜城よどみ。圧倒的な美貌とスタイルの持ち主ですが、中身はかなりのぽんこつ。冷蔵庫にはエナジードリンクだけ。引きこもりすぎて声を出し方を忘れる。人付き合いが苦手なくせに寂しがりや。かくして今日も不夜城さんは、ほの暗い岩窟の中(単身用アパート)で、女の子たちが仲良くお喋りする明るい世界(萌え4コマ)を紡ぐのだった――。
取材する人は取材される人
――『がんくつ荘の不夜城さん』、2巻発売おめでとうございます。本作の主人公・不夜城さんもきらら系(※)萌え4コマ作家ということで、今回のインタビューではきららの雑誌全般のお話もしていけたらと思います。よろしくお願いいたします。
※作中では、「文芳社」の「まんがタイムきらり」で連載中という設定。
こちらこそよろしくお願いします。喋るのが苦手なので緊張します。
――それでは始めていきたいのですが……。鴻巣先生、メモを取る用意をされていますが、何かに使用されるご予定でも?
あ、はい。インタビューを受けるという貴重な機会をいただいたので、この体験も作中のネタに使えないかなと。実際に使うかどうかは分かりませんが。
――不夜城さんがインタビューされている話が読めるかも……? 楽しみにしています!
まさかの「セルフ2巻乙」未遂
――『がんくつ荘の不夜城さん』、雑誌でも毎月拝読しています。前作『やさしい新説死霊術』の西洋ファンタジーものから一転、今回は漫画家マンガと大胆に作風が変わっていますが、着想のきっかけから教えてください。
まず、その前作が正直なところ売れなかったので、前と同じことをするわけにはいかないという事情がありました。じゃあどんな話にしようかと考えていたときに、担当編集さんに「漫画家ものはどうでしょう」と言われたのがきっかけです。
――それは、鴻巣先生に漫画家ものの適性があると思われたから?
鴻巣さんは、一読者としてもきららの4コマをよく読まれていましたし、それも理由の一つではありますね。あとは、無趣味でネタが思いつかないと言うものだから、「だったら自分自身をネタにしたらいいんじゃないの?」と。
取りあえず、読み切りを1話だけ載せることになったんですが、読者さんからも今まで以上にご好評をいただけて、連載になったという流れです。
前作の売上の関係などもあり、まずは読み切りで様子を見てみるしかなくて……。今回はちゃんと人気ありますよ。最初に連載していたミラク(「まんがタイムきららミラク」)ではもちろん、きらら本誌に移籍してからもアンケートはずっと上位をキープしていますから。
――きららの系列誌で連載されている漫画家マンガといえば『こみっくがーるず』などもありますが、それらの作品との差別化は意識されましたか?
いえ、自分の作品を描くのにいっぱいいっぱいで、あまり考えられていませんね。逆に聞いてしまいますが、ちゃんと差別化できてますか?
――それはもちろん。「きらら4コマ」のメタ要素に特化した漫画家マンガは今までありませんでしたし、コロンブスの卵みたいな作品だった思います。だからこそきららの読者にも刺さって、現時点で鴻巣先生の最長連載作品になっているのかなと。
ありがたい反面、本当にびっくりしました。今回もまた2巻乙(※)だろうと思ってましたし、その前提で構成を考えていたので。
※2巻乙:マンガ作品が2巻で完結すること。きららの作品では特に多い。鴻巣先生のデビュー作『私がヒロインじゃない理由』、2作目『やさしい新説死霊術』も、いずれも2巻乙。
2巻に収録される分の最終話あたりで、3巻も出せますよと前から言っていたのに、すごい締めっぽい話を描こうとしていましたよね。セルフ2巻乙はやめてください。
――まさかのセルフ2巻乙(笑)。実際のところ、2巻で完結するかどうかは、どのタイミングで決まるものなのでしょうか?
単行本1巻を出した最初の1カ月の売上はかなり大事です。あとは、雑誌のアンケートや作品、雑誌の状況などを見て総合的に判断します。ただ、途中から一気に火がつく作品もありますし、その判断が難しいですね。
――2巻乙用のエピソードは、結局描かずじまいですか?
はい、別の話に差し替えました。たとえ打ち切りだったとしても、きれいに終わらせるのが作者の責任だと思っているので、いつでもまとめられるようには準備しています。最初から終わりを意識しているというと、志が低いように聞こえるかもしれませんが。
――そのエピソードは、まだまだ先に取っておいていただきたいと思います。
不夜城さんの人気に、鴻巣先生が追い付いてきた
――主人公の不夜城さんに、鴻巣先生ご自身の性格はどのくらい反映されていますか?
多少は反映していますが、マンガ向けにだいぶマイルドなキャラクターにしています。自分はもっとひどいです。
――引きこもり気味だったり、来客に対して「何の用だ」と言ったり、不夜城さんも結構ひどい気がしますが、それ以上に……?
不夜城さんは一応ドアを開けますけど、自分は開けないで「何の用だ」って言いますからね。前に仮眠を邪魔されて腹が立ったことがあって、それ以来。
――人に会う前に発声練習をするというのは、フィクションですよね?
いえ、やりますよ。発声練習しても、出ないものは出ないんですが。たまに母親と電話するときも、「あんた声が聞こえないんだけど」ってよく言われます。
――多少どころか、ほとんど鴻巣先生そのままのような。
外に出るとしばらく行動できないとか、完全に鴻巣さんだなと思うネタがちょくちょくあります。
――そうなると、近所の人との交流もされていない?
全然。白仙ちゃんみたいな子がいたらいいんですけどね(笑)。
――前作の『やさしい新説死霊術』にも、あかりによく似たキャラクターが登場していましたが、同一人物なのでしょうか?
ほぼ同一人物ですが、ファンサービスというか、前作を知っている方がニヤリとしてくれたらいいかなくらいのお遊びです。『がんくつ荘の不夜城さん』がファンタジー路線になる予定は今のところありません。
――不夜城さんの担当編集である羊ヶ丘さんは、実際の担当さんがモデルと思っていいのでしょうか? もちろん見た目は別として……。
羊ヶ丘さんの性格は、ほぼオリジナルです。現実の担当さんはもっと優しいですよ。隣に本人がいるから言っているわけではなく、本当に。
たまに、自分が打ち合わせで喋った内容がそのまま描かれていることはありますね。炭酸水にはまっているとか、加圧式シャツを着ているとか。こういう題材のマンガなので、なるべくネタにしやすそうなことを喋るようには心掛けています。
いつもご協力ありがとうございます!
――不夜城さんは、デビュー作と2作目が打ち切り、現在連載中の3作目が比較的長く続いているなど、その点も鴻巣先生の経歴を反映されているのかなと思います。不夜城さんは、現実のきららの雑誌だとどのくらいの立ち位置なんでしょうか?
不夜城さんと鴻巣先生は、同じくらいの立ち位置だと自分は認識しています。トップレベルとまではいきませんが、アンケートも掲載順位も安定しているという。
むしろ初期のころは、不夜城さんのほうが上でした。不夜城さんの最新作が3巻まで出ているという設定を描いたとき、『がんくつ荘の不夜城さん』は2巻も出せるかどうか分からなかったので。自分も3巻まで出せたらといいなという希望も入っています。
――今はもう、不夜城さんに並んできたと。
そうだとうれしいですね。不夜城さんを追い越せるように頑張ります。
『まちカドまぞく』はいいぞ。
――不夜城さんは仕事の合間によくきららの4コマを読んでいますが、鴻巣先生も昔から読んでいたのですか?
フォワード(「まんがタイムきららフォワード」)でデビューするまでは、あまり追っていませんでした。ただ、高校生のころに読んだきゆづきさとこ先生の『棺担ぎのクロ。』には非常に感銘を受けました。4コマでこんなダークファンタジーが描けるんだ……って。
――現在連載中の作品で、特に注目しているものはありますか?
伊藤いづも先生の『まちカドまぞく』は、何ていうか完璧だなと思います。背景がびっしり描き込まれていて、キャラが可愛くて、話の構成がうまくて、毎回笑えて、それでいて1冊ごとにちゃんとまとまっている。ああいう作品を描けるようになりたいんですが、自分はまだまだ。
――いやいや。鴻巣先生の作品もかなり描き込まれていると思いますよ。
ありがとうございます。きゆづき先生にせよ伊藤いづも先生にせよ、背景の描き込み具合が半端じゃないので、自分もそこは妥協しないように意識しています。
――ざっくりした質問になってしまいますが、きららの4コマの魅力って何だと思いますか?
ひとくちに「きらら」といっても、すごく幅が広いんですよね。女の子がかわいいのは前提として、4コマという形こそ同じでも、作者それぞれの信念を感じられる作品が多いのかなと。そういう部分が自分は好きなんだと思います。
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