新元号に採用? 『古事記』と『日本書紀』、それぞれの共通点と相違点(1/2 ページ)
受験知識だけではもったいない。
新元号案の話題がにぎやかになってきました。時事通信によると、3月14日に識者への委嘱を行ったとのことです。
幸い、わたしは委嘱されていませんが、もしも14日に突然「新元号を考えろ。締め切りは1週間」とか言われたら、「無茶ぶり過ぎじゃね?」と叫びそうです。
ところで、今回の元号策定にあたっては、日本の古典籍が出典として採用される可能性も取り沙汰されています。その中でも、『古事記』『日本書紀』が有力視されています。本記事では、もしかしたら新元号に採用されるかもしれない、『古事記』と『日本書紀』について解説します。
植田麦
明治大学政治経済学部准教授。研究の専門は古代を中心とした日本文学と日本語学。
どちらも700年代初頭の成立
日本史でも古典でも、最初に出てくる書物が、『古事記』と『日本書紀』です。『古事記』は712年、『日本書紀』は720年にできました。2つの書物を簡単にまとめると、こんなふうになります。
『古事記』には序文があって、和銅5年(西暦712年)に太安万侶(おおのやすまろ)と稗田阿礼(ひえだのあれ)によって完成されたことが明らかです。ただし、この序文自体が後の時代になって付け加えられたとする説もあります。とはいえ、その書きぶりから考えて、『古事記』上巻から下巻が奈良時代の相当に古い時代にできたものであることは確かです。
『日本書紀』には、それ自体に完成した時期は書かれていません。しかしながら、『日本書紀』のあとにできた『続日本紀(しょくにほんぎ)』の中に、養老4年(西暦720年)の記事として、舎人親王が『日本書紀』を完成させたことが記されています。
共通点と相違点(1) 漢字で書かれている書物
このように、ほぼ同時期にできた『古事記』と『日本書紀』、多くの共通点をもつとともに、異なるところもまた、多々あります。
そのひとつが、「どちらも漢字で書かれていること」です。この当時、日本列島に住むひとびとが「文字を書く」ことは、「漢字で書く」ことと同義でした。漢字はもちろん、中国大陸から輸入されたものです。しかし、彼らにとって「漢字で書く」ことは、必ずしも「中国語で書く」ことを意味しません。その典型が、『古事記』と『日本書紀』です。
『日本書紀』は、古代の中国人が読んでも、その内容をおおむね理解できるようなものになっています。つまり、古代の中国語文=正格漢文を主とした書き方です。一方、『古事記』は日本人が独自にアレンジした用法で書くところが多くあります。このようなものをクレオールと呼ぶことがあります。
実は『古事記』の書き方については研究者によっても異なる見方があって、中国語の書き方の範疇(はんちゅう)にすぎないと考えるひとから、積極的に日本語として書くことを目指したと考えるひとまで、さまざまです。
ともあれ、ここでは、『古事記』と『日本書紀』が、同じく漢字で書かれているものの、その書き方は全く異なるものである、とご理解ください。
共通点と相違点(2) 神話と歴史の書物
おそらく、多くの方が、『古事記』や『日本書紀』というと、「神話や歴史の書かれた古典」と考えていると思います。また、「内容もほとんど同じ」と思っていらっしゃるのではないでしょうか。
どちらも、その通りです。つまり、2つの書物の共通点です。しかし、これにもやはり相違点があります。
ひとつは、神話の扱いです。『古事記』の神話は上巻に集中していて、そのまま中巻から下巻へと時間が連続しています。内容を簡単にまとめると、上巻の神話的世界では世界ができたあと、天皇の祖先にあたる神がその世界で活躍します。そして、中巻以降の歴史的世界で、天皇の治世が語られます。
つまり、神話と歴史が一直線につながった世界観です。
『日本書紀』も似てはいるものの、神話的世界の扱いが異なります。やはり世界の誕生が語られ、そして天皇の祖先神たちの活躍が描かれるのですが、本編のストーリーに対して「別の書物によると、異なったこんな話がある」と、サブストーリーのようなエピソードが語られるのです。そして、サブストーリーは行き止まりになっています。
簡単にいえば、『古事記』がストーリー分岐のないロールプレイングゲームだとしたら、『日本書紀』はストーリー分岐のあるノベルゲーム(バッドエンドあり)です。なお、『日本書紀』のこの性質は神話を語る巻第一と巻第二だけです。巻第三以降は、基本的に一本道です。
また、『日本書紀』の神話のメインストーリーをたどっても、『古事記』とは同じになりません。たとえば、『古事記』ではイザナミが死にますが、『日本書紀』では死にません(サブストーリーでは死にます)。
また、分量も大きくちがっていて、『古事記』に比べて『日本書紀』は神話の比率が低めです。つまり、『日本書紀』は歴史書としての性質がより強い、といえます。
さらに、『日本書紀』は中国の典籍の利用箇所が多く、その意味で中国的です。
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