「名探偵ピカチュウ」は2019年の「ブレードランナー」である “ポケモンと暮らす都市”が描くポケモンの本質とは

「名探偵ピカチュウ」は、これ以上ないほど「ポケットモンスター」の本質、原理にのっとった映画だった。

» 2019年05月13日 21時00分 公開
[hamatsuねとらぼ]

 ねとらぼ読者の皆さま、初めまして、hamatsuと申します。

 本日よりねとらぼさんにも寄稿させていただくことになりました。ゲーム系の記事を執筆することが多いかと思いますのでよろしくお願い致します。これまで他媒体だと電ファミニコゲーマーなどでゲーム系の記事の執筆を行ったりしてきましたが、ねとらぼさんでも同様にゲーム系の記事が多めになるかなと思います。


ライター:hamatsu

hamatsu プロフィール

某ゲーム会社勤務のゲーム開発者。ブログ「枯れた知識の水平思考」「色々水平思考」の執筆者。 ゲームというメディアにしかなしえない「面白さ」について日々考えてます。

Twitter:@hamatsu



 というわけで1発目のネタは「Nintendo LABO VR KIT」の予定だったのですが、先日フラッと映画名探偵ピカチュウを見てしまい、内容に大いに感銘を受けたため急きょ予定を変更して「名探偵ピカチュウ」について書いている次第です。ゲームネタじゃなくてすいません!

 予告編段階ではしわくちゃフサフサのピカチュウがネットでも話題を呼んでいた本作ですが、実際に見てびっくり、「ブレードランナー2019」とでも呼ぶべき映画になってるではありませんか!

 それも単なる上っ面の模倣にとどまらない本質的な「ブレードランナー」らしさを「名探偵ピカチュウ」という映画は内包しているのです。


社会インフラとしてのポケモン

 そもそも「ブレードランナー」の、特に都市の描写はなぜ優れていたのでしょうか。それは、単なる見た目の格好よさを超えて、その世界にある架空のテクノロジーや生活様式、インフラを極めてフレッシュな形で描いた点にあるといわれています。

 そして、「名探偵ピカチュウ」で主人公が訪れることになる街、「ライムシティ」の描写が優れている点もまた同様です。ポケモンとの共生をうたうこの街では、ポケモンは単なる人間のペットという立場ではなく、生活を共にするパートナーとして、都市を支える生活基盤、社会インフラとしての役割を果たしていることが映画の至るところで描写されます。


特別動画「What a Wonderful World」

hamatsu 名探偵ピカチュウ ポケモンが生活に溶け込んでいる街、ライムシティ(動画より)

 「ブレードランナー」のちょっとした広告や看板、飲食店の描写がその世界の奥行きを感じさせてくれるように、「名探偵ピカチュウ」のポケモンの描写からはその世界の奥行きが感じられるようになっているわけです。

 交通整理をするカイリキー、料理の手伝いをするヒトカゲ、スピーカーの代わりをするドゴームなどなど、都市の中に普通に存在し、人と共生するポケモンの細かい描写はこの映画の見ていて非常に楽しい部分になっていますし、この都市の描写をずっと見ていたいという気分にさせる点も「ブレードランナー」と共通する点だといえるでしょう(比較的最近の映画だと「ズートピア」の都市描写なんかも近いものがあるかもしれません)。


【公式】映画「名探偵ピカチュウ」ポケモンがいっぱい篇

hamatsu 名探偵ピカチュウ 交通整理をするカイリキー(動画より)

 ではなぜこの映画ではポケモンをそのようなものとして描いたのでしょうか。ポケモンを使って無理くり「ブレードランナー」をやりたかったのでしょうか。私は、それはむしろ逆で、そもそも「ブレードランナー」と「ポケットモンスター」はその根本で通じるものがある、相性の良いコンテンツだからだと考えます。パートナーとしての「ポケモン」、生活基盤、社会インフラとしての「ポケモン」、これらは「ポケットモンスター」というコンテンツに最初から内包されている要素だからです。


「ポケットモンスター」とは何か

 そもそも、「ポケットモンスター」とは何なのでしょうか。1996年に登場して以来、世界のエンターテインメントシーンのトップを走り続ける「ポケットモンスター」とはどのようなコンテンツなのでしょう?

 「ポケットモンスター」とは、ポケモンという生態系、ポケモンという社会インフラ、そして何よりポケモンという最良のパートナーを通じて、自分がまだ触れたことのない世界に触れるエンターテインメントだと私は考えます。

 初代「ポケットモンスター赤・緑」から一貫して、ポケモンを介することで、見たことの無い景色や、今まで見ていた景色の新しい側面を体験し、主人公が成長を遂げるという物語を提供してきました。

 それは、「ポケットモンスター赤・緑」が少年たちのひと夏の冒険と成長を描いた映画「スタンド・バイ・ミー」を強く意識した作りになっていることからも明らかです。「ポケットモンスター赤・緑」に他の場所と比較しても非常に異質な場所であるシオンタウンがなぜ存在するのかといえば、「スタンド・バイ・ミー」における、少年たちが探しにいく「死体」の存在と同様の位置付けのものだからです。ちなみにこの「死体」というキーワードが、「名探偵ピカチュウ」においても非常に重要だったりするのですが、ネタバレになるのでここでは詳細は割愛しておきましょう。


ポケットモンスター 赤・緑・青・ピカチュウ ダイジェスト映像

hamatsu 名探偵ピカチュウ バーチャルコンソール版紹介映像より、2:35あたりからちらっと映るシオンタウン(動画より)

 そして、「ポケットモンスター」というゲームが本当に素晴らしいのは、その物語と「ポケットモンスター」というゲームによって得られるゲーム体験が極めて高いレベルでシンクロしていたということです。

 ポケモンを介して新しい世界に触れるゲーム中の主人公と同様に、「ポケットモンスター」というゲームを介してゲームプレイヤーは、ゲームの外側の世界に触れることができます。たとえ常時インターネット接続がなされていなかったのだとしても、広大な世界に対して、ポケモンを介したコミュニケーションの可能性を見いだし、今まで見慣れていたはずの世界が変わって見えるようになります。「ポケットモンスター」とはそのように世界とのつながりを再構築し、世界の見え方を変えてしまうゲームなのです。

 「ポケモン GO」というゲームアプリがここ数年のエンターテインメントシーンの中でも最高レベルの話題をさらった理由は、スマートフォンでの展開という理由も当然あるのでしょうが、ただでさえ世界的人気が高い「ポケットモンスター」というコンテンツの持つ本質的な価値、ポケモンを介して世界とのつながりを再構築し、世界の見え方を変えてしまうということを、下手すれば本編以上に体現するものだったからではないでしょうか。


hamatsu 名探偵ピカチュウ 見慣れた街を「ポケモンがいる街」へと変えた「ポケモンGO」(公式サイトより)

 話を「名探偵ピカチュウ」に戻します。「名探偵ピカチュウ」という映画は、ここまで述べたような「ポケットモンスター」の本質、「ポケットモンスター」の原理にこれ以上ないほどにのっとった映画になっています。そこに私は一番感動しました。

 この映画の主人公は、ポケモン(この映画ではピカチュウ)を介して新しい世界に触れ、今まで見えていた世界、自分が思い込んでいた世界が別の見え方をし始めるさまざまなことを経験し、やがて彼なりの成長を遂げます。だから、主人公が迷い込む異界としての「ブレードランナー」的都市描写は、ポケモン的な主題を映像的に、映画的に表現する上では必然の選択なのです。

 そして新しい都市、新しい世界に迷い込んだ主人公が経験することの詳細についてはネタバレになってしまいますので、これ以上は書きません。ぜひとも劇場で見てください。

 ちなみに予告編段階ではなんか気持ち悪く見えていたフサフサだったりしわくちゃになったりするピカチュウはメチャクチャにかわいい! そして声をあてているライアン・レイノルズの、早口で軽口をまくしたてる様が、ほぼ「デッドプール」で最高!

 「ブレードランナー」×「デッドプール」って映画ファン的にも最高の組み合わせじゃないですか?

 そんなわけで「名探偵ピカチュウ」は映画ファンにもポケモンファンにもどっちにも推せるめちゃくちゃ面白い映画ですので、まだ見てないという方はぜひ!!


【公式】映画「名探偵ピカチュウ」WEB用プロモ映像

hamatsu 名探偵ピカチュウ ライアン・レイノルズのピカチュウ最高ですよね……(公式サイトより)

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2405/23/news139.jpg 真田広之の俳優息子、母・手塚理美と“超大物司会者”に対面 最新ショットに「ご立派な息子さん」「似てる雰囲気」
  2. /nl/articles/2405/22/news054.jpg 晩酌中、ふと机の下をのぞいたら…… 背筋が凍える光景に反響続々「皆様は覗かないようにしてくださいね」
  3. /nl/articles/2405/23/news055.jpg 「トップバリュを甘く見てた」 ジョブチューンで審査員大絶賛の“マストバイ商品5選”に反響 「買ってみよ」
  4. /nl/articles/2405/23/news213.jpg YUKI、大胆なスリット入った近影に驚きの声 「52歳なの意味わからんな」「ここまで変わらないって本当凄い」
  5. /nl/articles/2405/22/news186.jpg ステージ上のアイドルグループに投げかけられた言葉、運営が対応に本腰 「非常に不快であり、許されるものではありません」
  6. /nl/articles/2405/23/news156.jpg 「ミートパイ」なのに“畜肉”使わず…… ミスタードーナツ謝罪「誤解を招く表記」 実際は「大豆ミート」使用
  7. /nl/articles/2405/23/news025.jpg 「妻のスシロー&くら寿司の食べ方が天才すぎた」 420万再生突破“超意外なカスタマイズ”に「子供にいいですね」「私もやってみよ」の声
  8. /nl/articles/2405/23/news110.jpg 星野源さんめぐり拡散のSNS投稿、所属事務所は「そのような事実はない」「法的措置を検討」 星野さん、新垣さんも否定
  9. /nl/articles/2405/23/news174.jpg 北村匠海、誹謗中傷に心労か 「確かに僕らは殴りやすい でも人間であることに変わりはありません」
  10. /nl/articles/2405/23/news027.jpg 「さすがに激ヤバ過ぎ」 アイスの「ピノ」購入→とんでもない“神引き”に驚愕「強運すぎる」「すごい確率」
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「現場を知らなすぎ」 政府広報が投稿「令和の給食」写真に批判続出…… 識者が指摘した“学校給食の問題点”
  2. 「二度と酒飲まん」 酔った勢いで通販で購入 → 後日届いた“予想外”の商品に「これ売ってるんだwww」
  3. 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  4. 「なぜ今になって……」 TikTokで“15年前”の曲が大流行 すでに解散の人気バンド…… ファン驚き 「戸惑いが隠せない」
  5. どういう意味……? 高橋一生&飯豊まりえの結婚発表文、“まさかのタイトル”に「ジワる」「笑ってしまう」
  6. サーティワンが“よくばりフェス”の「カップの品切れ」謝罪…… 連日大人気で「予想を大幅に上回る販売」
  7. “世界一美しいザリガニ”を入手→開封して見ると…… 絶句を避けられない姿と異変に「びっくり」「草間彌生作のザリガニみたい」
  8. 「誰かと思った」 楽天・田中将大の“激変した風貌”にファン驚き…… 「一瞬わからなかった」
  9. 複数逮捕&服役の小向美奈子、“クスリ”に手を出した理由が壮絶すぎ……交際相手の暴力で逃亡も命の危機 「バレてバルコニー伝って入られて」
  10. 耐火金庫に“溶岩”を垂らしてみたら…… “衝撃の結果”に実験者も思わず「なんだって!!!」と驚愕【海外】
先月の総合アクセスTOP10
  1. 庭に植えて大後悔した“悪魔の木”を自称ポンコツ主婦が伐採したら…… 恐怖のラストに「ゾッとした」「驚愕すぎて笑っちゃいましたw」
  2. 小1娘、ペンギンの卵を楽しみに育ててみたら…… 期待を裏切る生き物の爆誕に「声出して笑ってしまったw」「反応がめちゃくちゃ可愛い」
  3. 生後2カ月の赤ちゃんにママが話しかけると、次の瞬間かわいすぎる反応が! 「天使」「なんか泣けてきた」と癒やされた人続出
  4. 「歩行も困難…言動もままならず」黒沢年雄、妻・街田リーヌの病状明かす 介護施設入所も「急激に壊れていく…」
  5. 車検に出した軽トラの荷台に乗っていた生後3日の子猫、保護して育てた3年後…… 驚きの現在に大反響「天使が女神に」「目眩が」
  6. 「虎に翼」、新キャラの俳優に注目が集まる 「綺麗な人だね」「まさか日本のドラマでお目にかかれるとは!」
  7. 釣りに行こうとしたら、海岸に子猫が打ち上げられていて…… 保護後、予想だにしない展開に「神様降臨」「涙が止まりません」
  8. 身長174センチの女性アイドルに「ここは女性専用車両です!!!」 電車内で突如怒られ「声か、、、」と嘆き 「理不尽すぎる」と反響の声
  9. 築152年の古民家にある、ジャングル化した水路を掃除したら…… 現れた驚きの光景に「腰が抜けました」「ビックリ!」「先代の方々が」
  10. 「葬送のフリーレン」ユーベルのコスプレがまるで実写版 「ジト目が完璧」と27万いいねの好評