女々しい野郎どもの詩を歌っている暇はない「ハイスコアガール」15話 ハルオ、「ときメモ」で女心を学ぶの巻(1/2 ページ)
好きとか嫌いとか、誰が言い出したんだよほんと。
ゲーセンで燃やした青春があった。ゲーセンで育kった恋があった。格ゲーが盛り上がっていた90年代を舞台に、少年少女の成長を描くジュブナイル「ハイスコアガール」(原作/アニメ)。ゲームを愛した2人の少女と1人の少年の、エモーショナルな恋の物語。アニメ15話が10月19日に放送されました。
15話は矢口春雄(ハルオ)が女の子の心を学ぶ回。人の気持ちはそう簡単にはわからぬもの、痛みとときめきを覚えて成長するしかない。
ハルオ、「ときメモ」で女心のお勉強
ハルオのまっすぐなところに惚れた、日高小春。しかし彼、まっすぐすぎてあまりにも女の子の心を考えない。先回の試合で、真剣勝負したのはよかったけれども、デリカシー皆無すぎました。
今回は大野の姉の真が押し付けてきた「ときめきメモリアル」で、女心を勉強することになります。いやまあやりたくてやってるわけじゃないんだけど、こういうところ彼は真面目で「大野のお姉さんのご厚意に応えねーとな…」と考えているらしい。
ハルオは色恋沙汰に感心が極端にない少年。にぶい云々どころか、そもそも恋愛の存在すら知らないんじゃないかってくらい、興味を持っていない。特に大野との関係は周りから見たら誰しもが気づいているにも関わらず、本人にはなんの自覚もありません。
「ときメモ」で恋愛を学ぶって無茶があるんですが、彼に必要なのは恋愛のテクニックではなく、ときめくという感情を受け入れることです。そういう意味では恋愛をシミュレーションする「ときメモ」は、まずは恋を意識する刺激としてありかもしれない。
ただ、真、小春、お母さんと、ハルオと大野の仲をうっすら勘付いている人間に囲まれての「ときメモ」は地獄すぎる。
「ときメモ」は1994年にPCエンジンSUPER CD-ROM2で発売された「恋愛シミュレーションゲーム」。最近「ギャルゲー」でくくるので、この言葉あんまり言わないかも。PS版は1995年発売です。当時は恋愛ゲーム自体がコンシューマーではほとんど発売されていなかった時期なので、非常に話題になりました。
ゲームとしての難易度はかなり高いです。ステータスを上げながら人間関係を深めつつ、バランスをとって育んでいかなければいけない。ここにハルオが気付いてのめりこめればばよかったんですが、彼はどうも「女の子の気持ちを考える」という思考ルーチン自体がなかったようで、全くといっていいほど攻略できていない。
真「女心は女の気持ちになって考えるのよ…わかる?」
右も左も分からない園児を導いているかのようだ。お母さんも彼の真心のなさにはご立腹。
彼が攻略を目指していたのは、藤崎詩織。このゲーム最難関、かつ「一緒に帰って友達と噂とかされると、恥ずかしいし…。」という、プレイヤーの心をバキバキに折る辛辣な言葉で知られるラスボス的なヒロイン。初プレイのハルオに手が届くはずもない。
藤崎詩織以外のヒロインが話しかけてきたとき、スルーするハルオ。それを見かねた小春が「あんまりそっけなくするのもどーかと思うよ」と、自分を重ねたかのような一言。ヘビーすぎる。
でも小春は怒っていいんです。だって彼女が貸したプレステで、大野の気持ちを知るために「ときメモ」で女心を勉強するなんて、あんまりにも残酷の極み。むしろよく我慢してるよ。そういうとこだぞ、女心をわかってないのは。
我慢し続けている(試合に負けたから強く言えないしね)小春にも、爆弾マークがつきました。これは『ときメモ』のネタで、ある程度みんなと交流を持っておかないと、嫉妬や嫌悪で不機嫌になってしまう寸前の状態をあらわすもの。爆弾が爆発すると、そのヒロインだけでなく周囲のみんなの評価が下がります(なおこれのおかげで『ボンバーガール』で藤崎詩織がプレイアブルキャラクターになりました)。
だからプレイとしては、ある程度みんなに気を配りながら、お目当てのヒロインを目指さなければいけません。
現実に置き換えると、相当器用な生き方だと思います。でもハルオはそういう人間じゃないです。ド正直のド直球な生き方しかしていません。今回もヒロインを藤崎詩織と決めたからには、藤崎詩織以外に全く目を向けない。
一途なんです。ひいてはこれは、大野以外に思考がいかない彼らしい部分の反映でもあります。
正直、こういう男の方が愛される気がする。「ときめき」は覚えたほうがいいけど、「恋愛テクニック」は彼の場合、そんなに勉強しなくてもいいのかもしれない。ソニックブームのようにまっすぐ生きているから、ハルオはいろいろな人に信頼されているんでしょう。
「おおのけクエスト」
ハルオが大野のためのプレゼントとして考えたのが、「RPGツクール SUPER DANTE」で制作した世界で一つしかないゲームでした。タイトルは「おおのけクエスト」。
「RPGツクール SUPER DANTE」のスーパーファミコン版は1995年発売。自分で完全オリジナルなRPGが作れる自由度が人気を博し、今でもシリーズは人気です。スーパーファミコン版はPC版に比べると限界がありましたが、ハルオと大野はゲーム性に思いを馳せるタイプ。そのへんは十分伝わっています。
先程は「ハルオは女心が分かっていない」と書きましたが、大野の喜ぶものはちゃんと分かっている。ゲームが作った絆があまりにも強い。
大野の家の境遇を考え、一緒にゲームをやりたいという思いを伝え、待ってるぞと思いを滑り込ませる。彼からの告白のようなものです。恋愛とは別の、もっとシンプルで強い思い。
萌美先生と大野の関係が決裂したとき、彼女はハルオの元を訪れました。ハルオはそのとき、萌美先生に大野をどう思っているか告げます。
ハルオ「尊敬できる女で…一緒に遊びてぇなぁ〜って思わせて…」「俺が支えになれたらいいなぁ〜とか思ったりして…」
四角四面な萌美先生ですら気づいたハルオの大野への気持ち。でもハルオは気づいていない。
彼が女心より先に学ぶべきは、自分の心。これは『ときメモ』では学べない、難題だ。でもハルオは高校に入ってから『ときメモ』のステータス上げのように、自分を磨くことにも熱心でした。このページを見ると分かるように、彼は極めて真面目にアルバイトをしています。そのお金を家に入れ、ゲームはお金を節約するため遠くの50円ゲーセンまで行ってプレイ。高校入学前に、大野と同じ学校に行くため猛勉強したあたりから、彼の誠実さはしっかり磨かれ続けています。
今度は二人で
萌美先生の厳しさが揺らぎ(ここで以前お母さんが貸した傘が生きるのがあまりにもうまい)、2人でAOUショー(アーケードゲームの展示会)に行くことになったハルオと大野。突然の急接近です。電車の中ではどちらかというと大野視点で表現が進みます。
もう大野の方は、ハルオに対してのはにかみが止まらないわけですよ。大野が電車で倒れ込んだとき、ハルオの手を握りしめます。彼に対しての絶対的信頼感があふれているシーンです。ハルオはまだ「一緒に遊びてぇ」「支えになれたらいいな」なのかもしれませんが、ちゃんと彼女の手を握り返している。
彼に入ったクリティカルヒットは、帰りの電車で見せられた、景品の指輪。小学生のころ変なゲーセンで取り、海外に行ったときに大野に手渡した思い出の品。ハルオの顔を見ると、しっかり覚えているようです。
この寸前までそこまで真剣に考えていなかった大野の思いに、はっきり気づいた瞬間でした。
ハルオ「…今度 二人で行こうぜ ここ…」
今までの会話の選択肢で絶対選ばなかったであろう発言を、ついにハルオが言った。大野を女の子だときちんと受け止め、女心を考えたシーンです。「ときメモ」が効果あるとは!
今回は、真の言った発言が非常に印象的です。「ゲームってスゴイね ただ遊ぶだけじゃなくって… これだけ人との関係値が出来ちゃうんだもの」
20世紀に「ゲームなんて」「たかがゲーム」と言われた人はかなり多いと思います。確かにただの娯楽なのは間違いない。でも人間関係を築くことはあるし、真剣にやったとき芽生える思いもたくさんある。『ハイスコアガール』はゲームを愛した人たちの思いを、肯定してくれます。
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