ねとらぼ読者のみなさん、こんにちは。虚構新聞の社主UKです。
以前本連載で取り上げた水あさと先生のマンガ「デンキ街の本屋さん」のアニメ化が決まり、早いところでは昨日(10月2日)から放送が始まりました。社主が紹介した作品では宮原るり先生の「僕らはみんな河合荘」に続き2作目のアニメ化ということで、「河合荘」同様「デンキ街」もアニメを通じて原作を楽しむ人が増えてほしいなと期待しています。

さて、話は変わり少し前に「しまむらマンガ」というちょっと意外なかたちでネットの注目を集め、ねとらぼでも記事になった吉元ますめ先生の「くまみこ」。実はこの作品も「デンキ街」と同じく月刊誌「コミックフラッパー」連載ということで、最近何かと話題の多い雑誌なのですが、これら2作に加えてもう1作、社主が何としてもおすすめしたいマンガが先日発売されたので、今回はこちらをご紹介したいと思います。
「エクストリーム通学マンガ」を銘打つ川崎直孝(ただたか)先生の「ちおちゃんの通学路」です。
ちおちゃんは遅刻せずに学校まで行けるのか?
主人公は見た目いたって普通、スクールカースト「中の下」を自認する地味メガネな女子高生・三谷裳(みやも)ちお。そんな彼女が「わあああっ、ヤバいよぉっ 遅刻遅刻っ」と通学路を駆けていく、何ともベタな登校シーンから始まる本作。しかし角を曲がった先に待ち構えていた「工事中」の看板が彼女の運命を大きく変えます。
「嫌いなことは目立つこと」という彼女にとって遅刻でさらし者という恥辱だけは何としても避けたい展開……。ダッシュで迂回すると思いきや、何を血迷ったか、あるいは前日徹夜でプレイしたアサシンでクリードなゲームの影響か、学校への最短ルートを取るため隣家の屋根に上り、屋根伝いに学校を目指そうと決心します。

さすがにゲームのようにトントン拍子で屋根に上れるわけではなく、ぜえぜえと息を切らし、必死でもがきながら隣家の屋根に到達するちおちゃん。すでにこの時点で普通の女子高生としてどうかしてるわけですが、それはさておき、いったん上ってしまえば、あとはテンポよくショートカットしながら学校を目指すだけ……、とイージーモードなはずもなく。
遅刻を回避するため学校に向かう彼女の目の前に迫るのは半裸で歯を磨くオッサンの口からほとばしる飛沫(しぶき)! そして当然のようにやってくる行き止まり! 変な目でじっと見つめてくる不審者! さらに待ち受ける数々の難関をかいくぐり、ちおちゃんは無事学校にたどり着けるのか! 続きはWebで!
……と何となく勢いで書いてしまいましたが、ありがたいことに、この第1話の続きは本当に「フラッパー」のウェブサイトからまるまる読むことができます。ただ学校に行くだけのことがなぜこんなに一大スペクタクルなイベントになってしまうのか。きれいなオチまでついた第1話、ぜひ読んでみてください。
→ フラッパー公式サイトの立ち読みページ(9月新刊ページより)
実はワナと危険だらけな「通学路」
さて、「エクストリーム通学マンガ」という看板に偽りなしだったこの怒涛(どとう)の展開に、社主は書店で吹きそうなるとともに、その瞬間「これは単行本が出たら連載で紹介したい!」と思ったのですが、その一方でこの種のインパクト重視のマンガというのは、往々にして出落ち気味のパワーダウンを起こすことが多いのも事実。普通に考えて、「通学」だけでそこまでネタが膨らんでいくとは想像しにくいわけですよ。そこで少し冷静になって「ま、まあ来月号を読んでから、もう一度考えよう」と落ち着きを取り戻しました。
かくして翌月。第2話は非リアのちおちゃんが、登校中リア充女子の細川さんに声をかけられて、一緒に登校することになるというお話でした。「あの細川さんが私ごときに声をかけてくれるはずがない」と思い込み、この後どういう行動を取るべきか、瞬間的に1〜4の四択が浮かぶほどにはゲーム脳の彼女。その後彼女が選んだまさかの「第5の選択肢」が功を奏したのかどうかはさておき、結果穏便に細川さんと一緒に学校に行くことになったのでした。

しかし、細川さんのリア充オーラにあてられ何とも居心地の悪いちおちゃん。細川さんからどうやって離れようか(←この思考自体どうなのか)考えた挙句、彼女が繰り出した「SWATターン!!」で社主は撃沈しました。薄れゆく意識の中で、「これは本物や……」と。
今回発売の第1巻には、これらのエピソードの他に、ひょんなことから通学路にいた暴走族にケンカを売ってしまったちおちゃん、通学路で男子と路地裏に入っていった細川さんをこっそりつけるちおちゃん、通学中尿意を催して必死になるちおちゃんを含む、こちらのツッコミが追いつかないほどハイテンションな全5話が収録。
よくよく考えてみると、いずれも「どうしてこうなった」な話ばかりなのですが、毎回毎回やってくる危機的状況と息を尽かせぬ展開、読み手の予想を必ずと言っていいほど裏切るちおちゃんの斜め上な行動、そして最後のきれいなオチの決まり方まで、全話にわたって本当にクオリティの高いシチュエーションコメディに仕上がっています。あらためて書いておきますが、これ、通学マンガです。
「10年後の評価にも耐えうる作品を厳選してお届けしたい」という思いから、本連載ではまだ第1巻しか出ていない連載作品を発売後速攻で取り上げることは少ないのですが、「ちおちゃんの通学路」については、第1巻にしてこの社主基準に達したと言っていいほど完成度が高いです。ここまであまり触れてきませんでしたが、これらのネタをしっかり生かしている高い画力と表現力にも脱帽したことをつけ加えておきます。
すでに学生時代を終えてしまった社主ですが、通学路がいかに危険と罠に満ちあふれているかを後世に伝えるためにも、現役の学生のみならず、元学生にも読んでいただきたいなと思いつつ、今日はこれにて筆を置きます。
今回も最後までお読みくださりありがとうございました。
(C)川崎直孝
おまけ
ちなみに川崎先生、「フラッパー」のあとがき内で予告した「くまみこでエロ同人」というマンガを自身のウェブサイトで公開しておられます。お、おう…、確かに「くまみこ」で「エロ同人」だ。「くまみこ」好きの方はこちらもぜひ!
ちおちゃんの通学路 1
川崎直孝
KADOKAWA メディアファクトリー刊
定価:本体552円(税別)
2014年9月23日発売
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