太陽系のいちばん外側に、まるで「雪だるま」のような形をした不思議な天体があります。名前は「アロコス(Arrokoth)」。2019年、NASAの探査機ニュー・ホライズンズが接近・撮影し、その奇妙で愛らしい姿が世界から注目を集めました。
なぜ宇宙に、こんな形の天体が存在するのでしょうか? アメリカ・ミシガン州立大学の研究チームが、その長年の謎に一歩近づきました。
40億年前の“タイムカプセル”――「アロコス」
アロコスは、海王星のさらに外側に広がるカイパーベルトにあります。ここは氷の天体や小さな岩石が無数に集まる、いわば太陽系の化石保存庫。約40億年前、太陽系が誕生したころの姿を今もほとんどそのまま残していると考えられています。
アロコスの最大の特徴は、2つの丸い塊がくっついた形です。細い“くびれ”でつながった姿は、まさに宇宙の「雪だるま」。NASAのサイトでは「アロコス」を動かして、さまざまな角度から観察することもできます。
こうした形は「接触連星」と呼ばれ、カイパーベルトにある天体の約10%に見られると推定されています。
しかし問題は、その作られ方でした。どうすれば、2つの天体が壊れず、しかも自然にピタリとくっつくのでしょうか。
カギは「重力崩壊」だった
研究チームはコンピューターシミュレーションを使い、太陽系が生まれたばかりの時代を再現しました。当時はガスやちり、小石ほどの粒子が円盤状に広がり、ゆっくり回転していたと考えられています。
その中で起きたのが「重力崩壊」です。粒子の雲が自分自身の重力で内側へ一気に縮み、塊へとまとまる現象です。シミュレーションでは、回転する粒子の雲が2つの塊に分かれて互いのまわりを回る、“双子”のような天体が生まれる様子が再現されました。
やがてこの2つは、らせんを描くように少しずつ距離を縮め、毎秒およそ5メートル以下という非常にゆっくりした速度で接触。衝撃で壊れることなく、そのまま合体します。こうして、丸い形を保ったまま寄り添う「雪だるま型」が誕生したのです。
これまでのモデルでは、衝突した天体は液体のように扱われ、最終的に1つの球体になってしまっていました。今回の研究では、天体の“強度”まで考慮したことで、初めて現実に近い形を再現できたといいます。
なぜ今もその形を保っているのか?
ですが、どうしてアロコスはその形のまま、壊れずに残っているのでしょうか? 細い部分でつながった構造は、見るからに壊れやすそうです。
その答えは、カイパーベルトという環境にあります。この領域は天体同士の距離がとても遠く、衝突の機会がほとんどありません。太陽系の内側のような激しい衝突が起きにくいため、誕生当時の姿をそのまま保てたのです。実際、アロコスの表面には大きなクレーターがほとんど見られません。
研究チームの成果は、これまで有力視されながら完全には証明されていなかった「重力崩壊説」を強く後押しするものとなりました。
一方で、観測ではより高い割合で雪だるま型天体が見つかっているという指摘もあり、今後さらに精密なシミュレーションが求められています。
宇宙の果てで静かに漂う、40億年前の雪だるま。その姿は偶然の産物ではなく、太陽系誕生のドラマが生んだ自然な結果だったのかもしれません。太陽系がどのように生まれ、惑星が形づくられていったのか。その謎を解く大きな手がかりとして、アロコスの研究はこれからも続いていくことでしょう。
なお、この研究は2026年2月19日付の『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』誌に掲載されました。
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