深海にひっそりと暮らし、その姿をほとんど見せないゴブリンシャーク(ミツクリザメ)が、自然の生息環境で初めて撮影されました。約1億2500万年前から続く系統を持つことから“生きた化石”とも呼ばれる希少なサメです。

 この成果は、2026年5月19日付の学術誌『Journal of Fish Biology』に掲載されました。

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深海に潜む謎のサメを初めて生息地で確認 

 今回の研究を主導したのは、ハワイ大学マノア校の研究チームです。論文では、自然の生息環境にいるゴブリンシャークの観察例が2件報告されました。 

 1匹目が確認されたのは、2019年。太平洋遠隔諸島海洋国立記念物内のジャービス島北西にある海山付近でした。オーシャン・エクスプロレーション・トラストの探査船「E/Vノーチラス」が実施した調査中、遠隔操作型無人探査機(ROV)「ヘラクレス」のカメラがその姿を捉えていました。 

 2匹目は2024年、世界で2番目に深い海溝として知られるトンガ海溝の斜面で確認されました。こちらはインクフィッシュ外洋探査の一環として実施された調査で、海底着陸機に搭載された餌付きカメラによって撮影されています。 

 研究チームによると、これまで生きたゴブリンシャークの記録は、偶然釣り上げられた個体が中心でした。深海の自然な環境で活動する様子が撮影されたのは、今回が初めてとされます。

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“生きた化石”と呼ばれる理由 

 ゴブリンシャークは現存するミツクリザメ科唯一の種で、その系統は約1億2500万年前までさかのぼると考えられています。そのため、しばしば“生きた化石”と呼ばれます。 

 最大の特徴は、前方へ大きく突き出た長い吻(ふん)です。映像に記録された、暗い深海を泳ぐサメのシルエットからはわかりにくいですが、“魔女の鼻”のような細長い口先が伸びているのが確認できます。

画像はWikimedia.org(Credit: Dianne Bray / Museum Victoria)からの引用

 また、このサメはスリングショット式摂食と呼ばれる独特の捕食方法でも知られています。獲物が近づくと下顎を勢いよく前方へ射出し、一瞬で捕獲。 ゴブリンシャークの写真や映像で顎が大きく飛び出して見えることがありますが、あれは捕食時にだけ見られる特殊な動きです。 

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分布も生息深度も予想以上だった

 今回の発見は、ゴブリンシャークの生息域に関する従来の認識を大きく変えるものでもありました。

 これまで研究者たちは、この種が日本周辺やオーストラリア沿岸、米国西部の太平洋海域、さらに大西洋やインド洋の一部に限られて生息すると考えていました。しかし、今回の2例はいずれも中部太平洋で確認されており、既知の分布範囲を大きく広げる結果となりました。 

 さらにトンガ海溝で観察された個体は、これまでの記録より約700メートルも深い場所で発見されました。 

 論文筆頭著者でハワイ大学マノア校の博士課程学生アーロン・ジュダ氏は、「この種がこれほど深い場所で発見されたことに非常に驚きました」とコメント。今回の記録によって、ゴブリンシャークだけでなく、ホオジロザメやアオザメなどを含むマグロザメ目全体の深度記録にも影響を与える可能性があるとしています。

画像はWikipedia.org(Credit: Dianne Bray / Museum Victoria)からの引用
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わずか20秒がもたらした大きな発見

 共同研究者でミンデルー・UWA深海研究センター創設所長のアラン・ジェイミソン教授は、「ゴブリンシャークは、生きた姿を見ることはないだろうと思っていた深海生物の一つでした」と振り返ります。

 トンガ海溝の調査では、水深800メートルから1万800メートルの範囲で50日以上にわたる連続観測が行われました。しかし、ゴブリンシャークが映像に現れたのは20秒余りというわずかな時間でした。 

 それでも、その短い映像は大きな意味を持ちました。どこに生息し、どれほど深い海まで分布しているのか。その手がかりが初めて自然な状態で得られたからです。 

 ジュダ氏は今回の発見について、「それまでは、その場所にゴブリンシャークが生息していることさえ分かっていませんでした」と話しています。 

 深海を調べ続けた研究者たちでさえ、「まさか見られるとは思わなかった」というゴブリンシャーク。その姿が映ったのはほんの一瞬でしたが、長い吻を暗闇の中からのぞかせる様子は、深海生物ならではの強烈なインパクトを放っています。いまだ未知の世界が広がる海で、約1億2500万年前から続く“生きた化石”は、今なお研究者たちを驚かせ続けているようです。 

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