©︎Salamander Pictures / Nippon Animation

 日本のアニメといえば、30分×1クール・約12話のテレビシリーズや、劇場上映されるような長編作品を思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし、それらより短いショートアニメも、ここ最近、海外の映画祭で着実に注目を集めています。

 例えば、東映アニメーションの短編アニメ『あめだま』は、2025年1月、第97回アカデミー賞の短編アニメーション部門にノミネートされました。同社は同年6月、新ブランド「ETERNA Animation」を立ち上げて、新人監督の作品を国際展開の足がかりにするなど、老舗スタジオが短編・アート系の作品で国際的な評価を目指す動きを見せはじめています。

 そして、今回取り上げる上映時間7分54秒の短編アニメ『20001年 地球の旅』(サラマンダー・ピクチャーズ×日本アニメーション)も、そんな挑戦を続ける1本です。

 同作は2026年7月18日、カナダ・モントリオールのファンタジア国際映画祭でワールドプレミア上映されたのに加え、スペインのシッチェス・カタロニア国際映画祭のコンペティション部門にも選出(※1)。老舗とも言えるアニメ会社と、Netflix出身者が立ち上げた新進気鋭のスタジオが手を組むという座組み自体も、『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』(シンエイ動画×亀山陽平氏)に象徴されるように、近年注目を集めている潮流です。

 そこで本連載では、サラマンダー・ピクチャーズの櫻井大樹氏、そして日本アニメーションの井上孝史氏と吉塚泰斗氏へのインタビューを実施。今回の協業や『20001年 地球の旅』誕生の経緯、そして今後のアニメ産業にかける思いなどを伺いました。

(※1)ファンタジア国際映画祭は1996年創設、モントリオールで毎年開催される北米最大級のジャンル映画祭。SF、ファンタジー、ホラー、アニメーションなどの独創性の高い作品を紹介してきた。シッチェス国際映画祭は1968年創設、スペイン・カタルーニャの保養地シッチェスで毎年10月に開催される、SF・ホラー・ファンタジーなどに特化した「世界三大ファンタスティック映画祭」の一つ。

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ライター:まつもとあつし

中学生のときに『王立宇宙軍 オネアミスの翼』をみてしまい、そこからアニメにのめり込む。そのまま大人になり、IT・出版・広告・アニメの会社などを経て、現在はジャーナリストとして取材・執筆をしながら、大学でアニメを中心としたメディア・コンテンツの教育・研究に取り組んでいる。ゲーム、特にJRPGやマンガも大好き。時間が足りない。
公式サイト:http://atsushi-matsumoto.jp/
X:@a_matsumoto


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それぞれのジレンマ、老舗×新進が手を組む「必然」

 『20001年 地球の旅』の企画・原作を務める、元Netflixディレクターの櫻井大樹氏は、Production I.Gで脚本家・プロデューサーとしてキャリアを積んだ後、2017年から2023年6月までNetflixのアニメクリエイティブチームでディレクターを務め、『バイオハザード:インフィニット ダークネス』『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』『サイバーパンク:エッジランナーズ』『グリム組曲』などをプロデュースしてきました。

櫻井大樹(さくらい・たいき)
Production I.Gにて、『攻殻機動隊』『新世紀エヴァンゲリオン』など有名作品の脚本家としてキャリアをスタート。『ジョバンニの島』をきっかけにプロデューサーとしても活動し、『ひるね姫 〜知らないワタシの物語〜』などのアニメをプロデュース。2017年にNetflixへ入社し、アニメ部門のチーフディレクターとして東京を拠点に、6年間に渡り、アニメクリエイティブチームを牽引。『バイオハザード:インフィニット ダークネス』『機動戦士ガンダム 復讐のレクイエム』そして『ポケモンコンシェルジュ』などのアニメをプロデュース。
2023年6月に株式会社サラマンダー(Salamander Pictures)を設立し、新たなアニメの企画開発に取り組む。

 そんな櫻井氏には、「キッズ向け」「コメディ」「かわいいキャラクター」で、子どもから大人まで楽しめる作品を企画したいという思いが強くありましたが、Netflixではやりたくてもできなかったそうです。背景にあったのは、配信ビジネス特有の「時間軸」の違いだったと櫻井氏は分析します。

櫻井氏:「映像作品、とりわけアニメは、企画から完成まで長い時間を要するジャンルです。しかしNetflixは、3カ月後、6カ月後にどんな結果が出ているかを問われる文化なんです。そうなると、ゼロから何かを立ち上げてじっくりやろうという発想には、どうしてもなりにくい。ただ、確実に当たる作品であれば、数を絞ってでも時間をかけてチャレンジしていこうという姿勢は一貫してありました。一方で、一番効果が高いのは、すでに出来上がっている作品を買って(調達して)配信することなんですよね。とはいえ、あくまで僕の印象ですが、最近は実写作品が好調なこともあり、アニメでも、時間がかかってもオリジナルでヒットを出したいという機運が高まっている気がします」

 この「時間軸」の違いは、キッズ向けアニメという領域そのものにも表れていました。この領域において「かわいらしいキャラクター」「子ども向けのコメディ」「ショートフォーマット」は、いずれも実現が難しかったといいます。

櫻井氏:「Netflixには、子ども向けアニメを専門にやるチームが本国・アメリカにはあったんですが、日本にはなかったんです。お金にならないから任せてもらえなかったわけじゃなくて、単純にチームが細かく分業されてしまっていたんですよね。そういうものにチャレンジしてみたかったという思いが、ずっとくすぶっていました」

 2023年6月に櫻井氏は独立。自身のスタジオであるサラマンダー・ピクチャーズを立ち上げます。自社の名前の由来は「普段はのんびりしていて、のそのそしているんですけど、狩りの時だけは電光石火のように速い」という、2400万年前からほとんど姿を変えずに生き延びてきたとされる、オオサンショウウオ(Japanese Giant Salamander)だそうです。

櫻井氏:「人間なんてせいぜい6万年ぐらいの歴史なのに、(オオサンショウウオは)それだけ長く生き延びている。僕らも一見のらりくらりしているようで、ちゃっかり生き延びている、そんな会社でありたいなと思って名付けたんです」

 そんな同社が今回、手を組んだのが、『ちびまる子ちゃん』や『世界名作劇場』シリーズなど、キッズ・ファミリー向けアニメを1975年の創業から50年以上にわたって作り続けてきた老舗・日本アニメーションです。

 「日本アニメーションさんは、10年というスパンで、子どもの頃に見ていた人が大人になってもファンでいる、というくらいの時間軸で考えていらっしゃる。良い悪いではなく、Netflixとは根本的に文化が違うんです」と櫻井氏。同社の看板である長編テレビシリーズは、50年かけて海外展開のノウハウを積み上げてきた領域でもあります。

 実は日本アニメーションの側にも、解決しなければならない課題がありました。少子高齢化が進む日本では子どもの数が減り続けており、キッズアニメの放送枠が減り、玩具メーカーとの商談も年々厳しくなっている――そう明かしてくれたのは、日本アニメーションでプロデューサーを務める井上孝史氏です。

井上孝史(いのうえ・たかし)
1991年、中央大学文学部を卒業。株式会社読売広告社に入社し、その後、1996年に株式会社ギャガ・コミュニケーションズ(現:ギャガ株式会社)入社。宣伝プロデューサー、アメリカ映画の買付け担当を経て、2004年に株式会社ネルケプランニング入社。コンテンツ開発業務に携わり、アニメミュージカル製作、邦画製作、アニメ製作、キャラクター開発などに携わる。2011年に株式会社ブレインズアンドハーツへ入社。ライブコンテンツの企画開発に携わる。2013年、現在の日本アニメーション株式会社に入社。国際部にてアニメーションの海外販売および共同制作、その後はメディア部にて、日本国内および海外に通用するファミリー向けアニメーション作品を中心に企画開発業務に携わっている。

井上氏:「今、キッズアニメって減ってきていますし、キッズ向けの商品、おもちゃとかも、どこの玩具メーカーさんと話してもきついという状況です。本当に厳しい状態だと感じています」

 それでも、と井上氏は続けます。

井上氏:「今、これだけ大人になってもアニメが好きな人が多いのは、子どもの頃からアニメをたくさん見て育ってきたから。だから日本アニメーションとしては、どんなに苦しい環境であっても、キッズものはまずやり続けたいし、作り続けたい。そういう使命があると感じています」

 子ども向け作品を、時間をかけて届け続けてきた積み重ねがあったからこそ、いま海外の大人たちも含めたアニメ人気が成立している――そんな思いを、井上氏は言葉の端々ににじませていました。

 そんな日本アニメーションに、短編アニメで国際映画祭に挑まないか、という提案を櫻井氏が持ち込みました。Netflixでは実現できなかった思いと、老舗が積み重ねてきた海外展開の実績。この2つが重なり生まれたのが、『20001年 地球の旅』です。

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「2万1年後に、宇宙人に笑われますよ」

 櫻井氏がNetflixで問われ続けた「3カ月後、6カ月後の結果」とは対照的に、彼が今回描いたのは、2万年という気の遠くなるような時間軸の物語でした。コミカルなキャラクターや世界観とは裏腹に、企画そのものは、実はいたって真摯な思いから生まれています。

櫻井氏:「ウクライナやイランなど、世界情勢がかつてないほど不安定になっている中で、なぜこんなに争わなければならないんだろうと、もどかしさを感じることがすごく多くて。そのモヤモヤを、あまりシリアスにではなく、コメディとして問題提起したい。こんなことをしていると2万1年後に宇宙人に笑われますよ、というのが発想の原点でした」

©︎Salamander Pictures / Nippon Animation

 こうして生まれたのが、人類が絶滅してから2万年後の地球に3人の宇宙人が降り立ち、ブランコを祭壇、傘を通信装置と勘違いしながらも人類の遺物を調査しながら、人類の本質に迫る――というSFブラックコメディです。

 櫻井氏は、5〜6本の企画を日本アニメーションにプレゼンすることになります。1つでも採用されればと考えていたところ、結果は3作品同時採用というまさかの展開でした。『20001年 地球の旅』に加え、日伊フュージョンレストランを舞台にした『TAVERNA!!!』、そして『もう1人のアリス』というサラマンダー社内の別プロデューサー発の企画も含めた3作品が、まとめて協業スタートとなったのです。

 日本アニメーションの井上氏も「3作品同時というのは、うちとしても異例中の異例です」とのこと。その時の判断基準について、井上氏はこう説明します。

井上氏:「日本アニメーションには、暴力的な表現や性的な要素はやらない、という暗黙のルールがあります。3作品それぞれが、その社風・クリエイティブの方向性と合っていて、企画が面白いことが決め手でした」

 ちなみに『20001年 地球の旅』については「かわいいキャラクターは商品化でも売れ行きがいい。このかわいい宇宙人にチャレンジしてみたい、というのもありました」とも明かしてくれました。

 普段は短期的な成果を求められがちな業界の中で、「3作品くらいを一緒にやってみないと分からないんじゃないか、というくらいの気持ちで付き合ってくれました」と櫻井氏。「付き合うと決めたんなら、とことん付き合いましょう、という懐の深さは、まさに老舗ならではだと思いました」と語ります。

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パイロット版と映画祭出品、2つを兼ねたアイデア

 実は『20001年 地球の旅』は、もともと5分×24話のシリーズとして構想されていた企画でした。そのうち3話分をまとめ、単独の作品として再構成し、7〜8分の短編アニメ映画に仕立てるというアイデアを提案したのも、櫻井氏でした。

櫻井氏:「パイロット版として、お金を集めたりパートナーを募ったりといった営業活動ができると同時に、単独の短編作品として映画祭にも出品できる。受賞やノミネートやパブリシティがあれば、それも全て海外での認知度アップにつながります」

 営業と、映画祭出品と、作品としての完成度、いくつもの思いを同時にかたちにする発想でした。井上氏も「まさに渡りに船のようなアイデアだった」と振り返ります。

 とはいえ、2025年10月に企画採用が決定してから、企画発表を予定していたアヌシー国際アニメーション映画祭(※2)の応募締切(2026年2月14日)まで残り3カ月半。実制作期間にいたっては12月・1月の実質2カ月というタイトなスケジュールでした。

櫻井氏:「ここで『1年後の次の映画祭を目指しましょう』というのはないなと思って。ここでやり切らなかったら、制作会社(サラマンダー)を立ち上げた意味がないと思ったので、もう死に物狂いで作りました」

 ちなみに本作のクレジットでは、サラマンダーが日本アニメーションより先に表記されています。業界の慣習を知る立場からすると、これはなかなかインパクトのあることだったと櫻井氏は振り返ります。

櫻井氏:「僕らが主張したわけじゃなく、日本アニメーションさんの方から『サラマンダーさん、先に出てください』と言ってくださったんです。Netflix時代は契約を巡って、熾烈な条件交渉をするような世界だったので(笑)、こんなに紳士的な人たちがアニメ業界にいるのかと、ちょっと涙が出そうになりました」

(※2)アヌシー国際アニメーション映画祭は、フランス・アヌシーで毎年6月に開催される世界最大規模のアニメーション専門映画祭。1960年創設で、アニメーション業界における権威ある登竜門のひとつとされる。

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商品化とIP育成、それぞれが見る「これから」

 「行くたびに違う商品が受付に並んでいる」――。

 櫻井氏が日本アニメーションを頼りにした理由の一つは、その商品化力でした。同社は創業間もない頃から『世界名作劇場』シリーズがヨーロッパで、『ちびまる子ちゃん』がアジア圏で、映像・商品化ともに大きな成功を収めてきた実績がありました。ドイツとの共同制作作品『みつばちマーヤの冒険』など、海外との共同制作の実績も長く積み重ねてきました。その他、フランスの絵本を原作にしたアニメーション作品『うっかりペネロペ』なども製作してきました。

 「海外の商談の場では、日本アニメーション=クラシックな世界名作劇場」というイメージを持たれることが多い」と、同社国際部の吉塚泰斗氏は語ります。

吉塚泰斗(よしづか・たいと)
2020年に関西大学文学部を卒業。在学中にカナダ・バンクーバーへ留学。同年、株式会社ヤクルト本社に入社。国内事業に携わった後、フィリピンに赴任し、現地での事業に従事。2025年、日本アニメーション株式会社に入社。国際部にてアニメーション作品の海外放映・配信および商品化に関する営業、契約、海外パートナーとの共同企画・事業開発などを担当している。

吉塚氏:「『20001年 地球の旅』のような新しい取り組みを見てもらうことで、『あ、こんなこともしているんだ』という反応があって。それが既存作品の再評価にもつながって、両方にブーストがかかるんじゃないかと思っています。例えば、さくらももこさん原作の『さくらももこ劇場 コジコジ』は、1997年ごろに放送されて以降、2020年代に入って再び一気に商品化が増えました。いつ大きく注目されるかわからないからこそ、流行りを作るというよりは、長く愛されるIPを作っていくという目線で、海外展開もできたらいいなと思っています」

 今回の協業3作品のうち、『TAVERNA!!!』は漫画を起点にスタートすることがすでに決まっており、ほかにも舞台や実写の企画が進行中だといいます。

櫻井氏:「井上さんとは、実写とアニメを融合したような企画もご相談していまして、必ずしもアニメだけということではなく、僕らの会社ならではの角度の見方を、いちばん合ったフォーマットで届けていきたいんです」

現在制作中の『TAVERNA!!!』イメージボード・設定より ©︎ Salamander Pictures / taskey / Nippon Animation 漫画:urusi
現在制作中の『TAVERNA!!!』イメージボード・設定より ©︎ Salamander Pictures / taskey / Nippon Animation 漫画:urusi

 そしてもう一つ、櫻井氏が大切にしているのが「自分が作品を作らなくてもいい」という姿勢です。『もう1人のアリス』は、サラマンダーの社員である吉澤佑実子氏の企画だといいます。同作は「令和7年度東京アニメピッチグランプリ」で最優秀賞を獲得しています。

©︎Salamander Pictures / Nippon Animation

櫻井氏:「”自分らしいもの”が実現できる場でありたい。若い人にもどんどん入ってきてほしくて、たまに来ると『俺の夢が実現できるぞ!』みたいな会社になりたいと思っているんですよね」

 取材の最後、櫻井氏と井上氏は、それぞれこんな言葉で締めくくってくれました。

櫻井氏:「サラマンダーの新作が出るぞ、次はアニメなの、実写なの、舞台なの、漫画なの、って楽しみにしてもらえるような会社でありたいんです」

井上氏:「『20001年 地球の旅』を皮切りに、ショートもシリーズや映画も含めて、オリジナリティあふれるキッズ・ファミリー作品を、世界で通用する形でどんどん作り続けていきたいと思っています」

 文化やビジネスモデルの違いから、対立構造で語られることもある新興のスタジオと老舗のスタジオですが、今回の取材からは、日本のアニメを世界に届け、勝負していきたいという熱い思いがクロスオーバーしていることが伝わってきました。この座組みがどんな作品と展開を届けてくれるのか、筆者も引き続き見届けていきたいと思います。