きっかけは「一年戦争」──ナムコ・バンダイの進化論
「変化に対応できないと生き残れない」──ナムコ創業者の中村会長はダーウィンを引きながら力説した。統合のきっかけはゲーム「ガンダム一年戦争」だったという。
ナムコとバンダイが9月に経営統合すると発表した5月2日、両社トップが都内で会見し、「ナムコの開発力、バンダイのキャラクター事業ノウハウを組み合わせることで相乗効果を上げ、既存事業の拡大と新規事業の創出を図っていく」などと統合のねらいを語った(関連記事参照)。
ゲーム開発協力が経営統合に発展
「ナムコのゲーム開発力とアミューズメント店舗網、バンダイのキャラクターマーチャンダイジングノウハウを融合し、シナジー効果を上げる」──バンダイの高須武男社長は、経営統合の目的についてこう説明した。
高須社長によると、統合を一言で言えば「キャラクターとテクノロジーのロケーション(アミューズメント施設など)の統合」ということになる。例えばナムコのゲームキャラクターをバンダイが商品化したり、「バンダイのキャラクターが『ナムコナンジャタウン』で踊ったり」(高須社長)といった構想を描く。
4月に発売したプレイステーション2用ゲームソフト「機動戦士ガンダム 一年戦争」が、統合の具体的なイメージを分かりやすく示した形だ。「鉄拳」や「エースコンバット」の技術を「ガンダム」に活かせないか。同ソフトは、ナムコからの働きかけに応じて誕生した“統合第1弾”の成果となった。
経営統合のきっかけも「一年戦争」だったという。高須社長によると「昨年12月ころ、ゲームだけでなく本格的な業務提携ができないかと、ナムコの中村雅哉会長に話したのがきっかけ」。両社ともセガとの統合が破談になった過去があるが、「エンターテイメントを通じ夢や感動を提供するという両社の企業使命が共通していた。今回は現場の担当者レベルでも『ぜひ実現させよう』ということになった」と両社の意気投合を強調した。
重複の少ない事業分野
統合の背景にあるのは、ゲーム・玩具業界の事業環境の激変だ。
少子化で国内市場は先細りが見えている上、次世代ゲーム機の登場でゲーム開発コストが増大するなど、相次ぐ新技術への対応も急務。世界レベルの競争も激しさを増している。「このまま成長が続けられるのか、という漠然とした不安」(高須社長)を抱える中、「両社の強みを融合し、新商品・サービスを創出することで顧客層を拡大できる上、コンテンツのマルチユースも進められる」(ナムコの高木九四郎副会長)という読みだ。
両社の事業分野は重複が少ない上、バンダイは欧州・アジア、ナムコは北米と、世界市場の基盤でも補完できる点も決め手になった。各分野の競合企業は「トイホビーならHasbro、Mattel、コンテンツはDisney、ロケーションはセガかもしれない」(同)が、「補完性の高い事業ポートフォリオは世界にも類を見ない」(同)と胸を張る。
変化への対応こそが生き残りのカギ
「強い生物や賢い生物ではなく。変化に対応できる生物が生き残る」──ナムコ創業者の中村雅哉会長は、ダーウィンの「進化論」からという一節を引用し、統合のねらいを説明した。
だが生き残るだけでなく、企業としてさらに成長を目指すなら「変化を予見し、対応していけるかどうかが絶対の条件」とも指摘。その上で「変化を予見する中で、企業としてどうあるべきかを考えて統合を決断した」と語った。
互いの強みを取り込んで融合し、環境の激変もチャンスに変えていける強い企業──ナムコとバンダイが目指す進化だ。
中期的にはグループ内を再編へ
経営統合は当面、共同持株会社「バンダイナムコホールディングス」の下に事業会社としてバンダイ、ナムコが置かれる形となる。バンプレストやバンダイビジュアルなどの子会社は、事業会社が中間持株会社的な位置付けとなり、従来通り傘下とする。
ただ、経営統合による相乗効果とコスト削減効果を効かせるためにも、重複部門・間接部門の統合と事業再編は段階的に進めていく。中期的には「トイホビー」「コンテンツ」「アミューズメント」「ビジュアル」の各グループに再編する計画だが、具体的な時期などは今後詰めていく。
2006年3月期の連結業績見込みは売上高で4600億円、経常利益で440億円。これを統合3年後に売上高5500億円、経常利益550億円とそれぞれ25%拡大させるのが目標だ。売上高はトイホビーで30%、コンテンツで20%、アミューズメントで20%程度を見込んでいる。
「経営統合の最大のミソはゲーム部門」
会見での一問一答は以下の通り。
──統合の経緯は。
高須社長 両社とも独立しても問題なくやっていける会社だが、このまま右肩上がりの成長は続けていけるのだろうかと漠然とした不安があった。バンダイとしても、キャラクター事業で培ったノウハウをもっと活用したいという希望も持っていた。
昨年12月ころ、バンダイとナムコが協力した「ガンダム一年戦争」を作る過程で、ゲームだけではなく本格的な業務提携ができないか、とナムコの中村会長に話したのがきっかけ。経営と執行の分離について中村会長に決断してもらい、前に進んだ。
──統合の具体的なイメージは「一年戦争」のような形ということか。
高須社長 ゲーム部門が経営統合の最大のミソ。バンダイはゲーム開発を外部委託しているし、ナムコは自社開発部門を持っている。次世代機では開発コストも高くなるだろう。ゲーム部門がシナジーを最大化できる部門だ。
──中村会長は新会社にどう関わっていくのか。
中村会長 ナムコを創業して50年経ち、80歳になろうかという年で憎まれ役にはなりたくはないが(笑)、仕事への情熱は持っている。最高顧問として、側面から新会社と業界に貢献したい。
──持株会社で代表権を持つのは高須社長だけだ。実質的に高須体制ということか。
高須社長 指揮系統を一本化し、両社の一体感を高めるのが目的。統合は対等で、役員陣は両社半々だ。
──統合によるコスト削減効果はどれくらいか。人員リストラはあるのか。
高須社長 コスト削減効果はこれから考える。リストラはまったく考えていない。むしろ優秀な人材が必要になるだろう。
──株式移転比率はややバンダイに不利なようだが。
高須社長 市場評価やディスカウントキャッシュフロー法、類似会社比較法などを使って総合的に勘案して決めた。1:1.5は非常にフェアだと、ファイナンシャルアドバイザー(バンダイは大和証券SMBC、ナムコは野村証券)から評価してもらっている。
──バンダイがナムコ株式を取得した理由は。
高須社長 経営と執行の分離の一環だ。金庫株として持ち、消却の予定はない。
──事業会社のバンダイとナムコは上場を廃止するが、上場子会社は今後どうなるのか。
高須社長 非上場会社の子会社が上場しているというのは資本のねじれではある。どこかの段階で持株会社の直接の子会社にする可能性はあるが、当面はこのまま行く。
──(バンダイ創業家出身でセガとの合併破談の責任を取って辞任した)山科誠元社長は知っているのか。
高須社長 守秘義務契約を結んだ上で相談した。非常にすばらしいと喜んでいた。
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