日本をゲームアーカイブ活動先進国とするために:CEDEC 2005リポート
2005年8月29日から31日の3日間、明治学院大学にて開催されている「CEDEC 2005」において、ゲームという文化を蓄積した資料としてアーカイブしていこうとした興味深いセッションが行われた。
立命館大学の細井浩一教授をモデレーターに、東京大学の馬場章教授、立命館大学の上村雅之教授 、そして国立国会図書館の竹鼻和夫氏をパネラーとして招いて行われた「日本をゲームアーカイブ活動先進国とするために」。ここでは、Nintendo Entertainment System(海外版ファミコン)の米国上陸以来、日本コンテンツ産業の国際的競争力向上の原動力となった日本のテレビゲーム産業の功績に相反し、それらの歴史を正確に伝える資料はあまりにも少ないこの現状で、日本におけるゲームアーカイブの現状と課題、そして未来への展望を示さんと見解を論じた。
「先進国とするために」と題されているが、実際は「テレビゲームのアーカイブをするためにはどうすればいいか」というのが現状、と切り出したのは細井氏だった。その可能性を示すものになればと前置きし、今回のセッションが始まった。
現在の日本では、さまざまな立場の人がそれぞれの理由で個別にアーカイブへのアプローチをしているのが現状で、厳密に言えば、何もやっていないわけではない。そんなゲームアーカイブについて、公に収集・研究活動している有識者を集めたこのセッションでは、アーカイブの重要性について有益な情報を聞くことができた。
ゲーム・アーカイブの理念 そして、現在と未来
「ゲーム・アーカイブの理念 そして、現在と未来」と題して登壇した東京大学の馬場氏は昨年、ゲームの学問は可能かと題してセッションを行ったのだが、1年経ってみるとすでにゲームは学問化していたと言う。
馬場氏は資料として取り出したのが、今年春アメリカで出版された「コンピューターゲーム研究のハンドブック」。学問の世界では、ハンドブックが出版されるようになると、その学問は終わりと言われているとのこと。ひとつの体系ができあがってしまった証拠であるとしながらも、これが日本ではなくアメリカで出版されていることが残念でならないのだという。このハンドブックの編纂にも関わったエリック・ジマーマンが来日講演をするというニュースは記憶に新しいが、彼のような若い年齢の有識者中心にアーカイブは進められているのだ。
ゲームの研究と教育を行う世界の大学は、日本をはじめ世界各国で行われており、いわゆるその国の最高学府が進んで研究対象としている。近年の例でいうと、北欧、東欧、オーストラリアなどゲームとはあまり縁がなかった場所での研究がめざましいのだとか。そういう意味からも、今回の議題であるゲーム・アーカイブは、世界的に見てもひとつの潮流となっているのだ。
そもそもアーカイブとは、文書、資料、文書館、文書保存庫の意味。一般的にアーカイブを収集するのは、公文書館であり、図書を集める図書館や、美術品や博物資料を集める美術館や博物館とは分けられている。日本はそれぞれに法律があり、このような大別せざるをえない状況が生まれたのだ。とすれば、果たしてゲームはどこに収集されるべきなのか……。
1980年代、東京大学の月尾嘉男教授により提唱された和製英語「デジタルアーカイブ」が使われはじめると、地域などの文化遺産などをデジタル化して保存・パッケージ化して売り出していこうという流れが発生。折しも日本でおきたIT化政策に乗って2000年になるとデジタルアーカイブが進んでいった。その流れの中にあるのが同じデジタルアーカイブのひとつである、ゲーム・アーカイブだ。
アーカイブは網羅的でなくてはならない、と馬場教授はゲーム・アーカイブの目的を説明する。1つ目はプレイすること。2つ目は開発。3つ目は社内研修・学習、4つ目は学術研究、5つ目が展示、そして6つ目がビジネスとして……。
アーカイブするということは、あらゆる資料を網羅しなくてはならない。目的はさまざまであっても、後々に反映させるためにも極力収集しないと成り立たない作業なのだ。そしてしかるべき方法(現在、インデックスする方法については、統一化されておらず問題のひとつとなっている)により、タイプ、ジャンル、ソフト、ハードなどに分類されていくことになる。
現在、アメリカのスタンフォード大学附属図書館や、ドイツのComputerspiele Museum、PLAY-The exhibitionなど、タイプはさまざまながら世界各国でゲーム・アーカイブは進められている。
昨今、日本では「ゲーム脳」であったり「暴力表現」などでとかく問題になるテレビゲームだが、ドイツなどではゲームは学問であり、むしろ推奨されていると紹介。事件が起きる度に、安易にテレビゲームをその事件の理由にするようなことはないのだという。人間が社会性を獲得するためには、ゲームをするべきと提唱しているのだ。
最後に馬場氏は、これまでゲームの制作には3段階で表されることが多いと前置きし、これからは企画・製作・流通の3段階に、アーカイブを加えるビジネスモデルを提案する。映画や音楽などを含むデジタルコンテンツの分野で、アーカイブがないビジネスモデルはゲームだけなのだという。アーカイブが加わることで、さまざまな展開が予想されるのではないかと、今後のゲームビジネスへの期待を述べた。
「なつゲー」など、アーカイブを利用してのビジネス展開も見受けられる昨今、その潮流は確実に形成されつつあるのではないだろうか?
国立国会図書館と電子情報の長期保存パッケージ系電子出版物
続いて登壇した国立国会図書館の竹鼻和夫氏は、NDLとデジタルアーカイブについてと題して、国立国会図書館でのゲームソフトのアーカイブについて説明した。
NDLとは、National Diet Libraryの略で、国立図書館のことを指す。国内で刊行される出版物を広く収集しており、パッケージ系電子出版物(ゲームソフト)もその対象となっている。
竹鼻氏は、電子情報は意外にも脆弱で長期保存が難しいと語る。たとえばゲームソフトもハードの転換によって再生できなくなるなど、技術との依存関係が強すぎたり、編集しやすいことからその真性の確保の難しさなどが挙げられる。
2002年から3カ年計画で調査をしたところ、パッケージ系電子出版物(PC関連中心)のおよそ7割弱が、すでに最新のPC環境での再生に問題があることが分かったという。マイグレーションやエミュレーションが試行され、旧式のハードやOS、アプリを入手するも、あくまでも短期的なとりあえずの解決策でしかない。
世界を見ると、UNESCOによる「デジタル文化遺産の保存に関する憲章とガイドライン」が2003年に提唱されたほか、米国議会図書館による「NDIIPP」(National Digital Information Infrastructure and Preservation Program)や、欧州での「DPC」(Digital Preservation Coalition)、オーストラリア国立図書館による「PADI」(Preserving Access to Digital Information)など、各国とも精力的に活動している。
竹鼻氏が提案するNDLでのデジタルアーカイブの指針としては、開発者同士が情報の共存を行う「OAIS」(Open Archival Information System)や、図書館所蔵の書籍背表紙にあるような情報を知るための情報「メタデータ」、知的生産物を貯めておく「機関リポジトリ」を活発に行うことを推奨している。
NDLは今後、100年を見据えた保存を提唱している。さまざまな電子情報を収集、整理、保存、提供し、OAISなどの国際標準に準拠、メタデータを基に連携などを方針とし、今年からデジタルアーカイブの設計、開発を開始し、2009年の運用を目指すとのこと。
ただし、電子情報の長期保存はコストがかかるほか、保存開始前の情報に関しては収集が難しいなどの問題点もある。国会図書館では、2002年からゲームソフトの収集を積極的にはじめたものの、それ以前のものに関しては収集を積極的には行っていないのが実情だ。また、収集されたものについても厳密なインデックス化には至っていない。このへんの問題点をクリアしていくことが今後の課題となるのではないだろうか?
日本をゲームアーカイブ活動先進国とするために
最後に登壇した立命館大学教授の上村氏は、ハードが変わる度にソフトとの互換性が失われ、旧来のものは捨てられていった歴史が、ゲームアーカイブのビジネスチャンスを狭めていたと語る。
近年の下位互換の流れは喜ばしいことで、アーカイブもしやすくなった。ただし、ゲームは映画のように監督の意志だけで成り立つものではなく、プレーヤーがプレイしてはじめて成立する世界であり、それを記録していくことは難しいのだと言う。
確かに映画や音楽は、あくまでも受け身でその記録を享受できるが、ことゲームとなると遊んでなんぼの世界。ソフトやハードをアーカイブするという作業において、ただ漠然と収集するということだけでなく、プレーヤーという存在を意識したものであっても面白いのではないかと提案する。
この後、オンラインゲームの収集をどうするべきか、国会図書館で収集しきれない2001年以前のアーカイブ化についてはどこが担うのか、など有意義な質疑応答が繰り広げられる。新しいアーカイブのアプローチとして、SNSなどを利用することなど、試作をすることを明言。今後は専門職(資格)を持った人間が、そのアーカイブ化をグループで管理するシステムを作っていくことが語られた。
最後に立命館の細井氏は、現在行われているアーカイブ方法を図にしたもので、これからの目指すべき方向を示唆する。
2003年からは、任天堂の協力を得て、公式にエミュレータを利用した保存活動をはじめていると細井氏。すでに失われつつあるゲームアーカイブを救いだすには、あまりにも時間は早く流れていく。世の中にはさまざまな形でゲームを収蔵している人間がいるとは言え、データそのものが消えてしまったものも多い。これらの消えてしまう資産を収集、分類し、ビジネスとして生かす時代が来ているのだ。
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左から馬場氏、竹鼻氏、上村氏
国会図書館のゲームソフト受入状況
縦軸が手段。横軸が目的となる。現在のアーカイブ状況を図にしたもので、消費者指向と開発者指向を結んだところにビジネスモデルが生まれると結ぶ
世界初(?)の公式エミュレータ