“知る人ぞ知る名作”ではもったいない。実写映像が映えるPSPでこそプレイしてほしい:「街 〜運命の交差点〜 特別篇」レビュー(2/2 ページ)
運命の迷宮、正解の道はどれだ?
ここからは街のシステムを説明しよう。街は、8人のキャラクターの10月11日から15日までの5日間を描く、8本のシナリオで構成される。シナリオ中には選択肢が挟まり、話が分岐するのだが、この選択の結果がほかのシナリオにも影響するのが大きな特徴だ。こうして8人の行動をたくみに操って、バッドエンドを避けていく。入り組んだ因果関係を推理して運命を組み立てる、パズルチックな感覚が新鮮だ。
ポイントになるのはザッピングシステム。シナリオを進めていると、文章中にほかの主人公の名前が緑色で表示されることがある。そこで、□ボタンを押すとほかの人のシナリオへ移れる。本作では1人のシナリオだけをひたすら追っていくことはできず、ある程度までいくと「つづく」と途切れてしまう。この場合は、ほかの主人公のシナリオからザッピングして、続きを読むこととなる。
また、テキスト中には、青色で表示された単語もあり、これを選ぶとちょっとした説明「TIP」を読むことができる。この中にもザッピングが隠されているので、注意が必要だ。TIPにはシニカルな解説や笑える内容も多く、ザッピング探しという以上に読み込んでしまう。
魅力的な8+αのシナリオ
いくらシステムが面白くても、ノベルゲームの命はやはりシナリオになるだろう。コミカルからシリアス路線、サイコホラーに至るまで、バラエティに富んだ街のシナリオを簡単に紹介しよう。
●オタク刑事走る!
渋谷中央署・刑事:雨宮桂馬(25歳)
ゲームとPC、コーヒー牛乳をこよなく愛する自称“ゲーマー刑事”の雨宮桂馬。犯人からの指示に従い、爆破を阻止するため、クイズゲームやUFOキャッチャー、数々の暗号に挑む。失敗すれば渋谷は壊滅。刑事もののお約束も入り、コミカルな中にも緊迫感があるシナリオだ。
●THE WRONG MAN 馬
俳優:馬部甚太郎(36歳)
17年も芽が出ない、やられ役専門の俳優・馬部。ようやくもらった組長役というチャンスだったが、なぜか撮影中に強盗の容疑者と間違えられてしまう……。「THE WRONG MAN 牛」と対になる入れ替わりもので、顔に似合わず意気地なしの馬部が、ピンチをどう切り抜けるか見ものとなる。
●THE WRONG MAN 牛
元ヤクザ:牛尾政美(36歳)
半年前に組から足を洗った元ヤクザの牛尾。今日は宝石店員の綾にプロポーズしようと店を訪れるが、そのとき運悪く宝石店に強盗が! しかも強盗の仲間と誤解されてしまう。慌ててドラマのロケ隊に逃げ込むが……。任侠の世界しか知らない牛尾が、これまた独特なドラマのロケで騒動を巻き起こす。
●やせるおもい
フリーター:細井美子(20歳)
158cm、64kg。美味しいものを食べると寄り目になる、ちょっと太めの女の子・美子は、“5日で17キロやせろ!”という条件を彼氏に突きつけられる。なかなかやせられない美子は、どんどん過激な手段へ走っていくが……。素直に笑えるギャグ系のシナリオだ。用語解説は食べ物ばかりで軒並み「美子の好物」と説明されているのに爆笑&切ない。
●七曜会
大学生:篠田正志(21歳)
父親のコネで一流企業に内定していた正志。だが、謎の美女に内定取り消しものの写真を突きつけられ、秘密結社「七曜会」に入ることに。そこで次々と人を脅迫するが……。おどおどしていた正志が徐々に脅迫の快感に目覚めてしまう。普通の人間に眠る裏の一面がデフォルメして描かれる。
●迷える外国人部隊
傭兵:高峰隆士(25歳)
フランス外人部隊の傭兵・隆士は、3年ぶりに日本の土を踏んだ。平和な日本になじめず、自分の中の暴力的な衝動を持て余す隆士。居場所がない焦燥感にかられ、渋谷の喧噪をさまよう……。シリアスなハードボイルド系ストーリー。街屈指の切ないエンドを迎えたあと、さらにオマケシナリオの「花火」を読むと泣ける!
●シュレディンガーの手
小説家/ドラマ原作者:市川文靖(38歳)
売れっ子ドラマ原作者の市川は、ある悩みを抱えていた。朝、目覚めると、市川が書いた文学的小説は失われ、中身は低俗で刺激的なドラマのプロット原稿に置き換わっている。”真の<私>を評価してほしい”と願う市川は、原稿をすり替える何者かとの対決を決意するが……。悪夢が現実を侵食したかのような、異色のエピソード。奇妙な読み味はクセが強いが、ハマるとたまらない。
●で・き・ちゃっ・た
高校生:飛沢陽平(18歳)
モテモテ高校生の陽平は、一夜だけをともにした亜美から“赤ちゃんができました”と衝撃の告白を受ける。本命の社長令嬢、美奈子と付き合い始めたというのに……。陽平はどうなる? 情けないモテ男が周囲の人々に振り回されるドタバタコメディ。自業自得とはいえ、どんどん追いつめられる陽平の運命が気になる。
以上が8本のシナリオ。気に入ったものはありましたか?
続編が待ち遠しい!
今回、改めてPSP版の街をプレイして感じたのは、「サウンドノベル」というジャンルに恥じることのない、そのシナリオの質の高さだった。さすがに、桂馬のPC関係や渋谷の街並みなど、時代を感じさせる部分はあるが、本質的には古びておらず、今でもグッと引き込まれてしまう。PSPといえばロードの長さがしばしばネックと言われるが、本作に関しては、移動マップを使ったとき以外の通常プレイでは読み込みも短く、ストレスは思ったより少ない。
惜しいのはセーブの煩わしさだろうか。セーブ時間がそもそも長いうえ、バッドエンドや1日の終わりでいちいちセーブするかどうかを聞かれる。バッドエンド集めも街の醍醐味なので、セーブはなるべく軽快にしてほしかったのだが……。
とは言え、わざわざ据え置き型のゲーム機を出さなくても手軽に街が遊べるのはありがたい。熱狂的なファンが続編を待望している本作。まずはこの手軽なPSP版で新たなユーザーを獲得して、弟切草、かまいたちの夜に続く人気者になってほしい。
街 〜運命の交差点〜 特別篇 | |
対応機種 | PSP |
メーカー | セガ |
ジャンル | サウンドノベル |
発売日 | 発売中 |
価格 | 5040円(税込) |
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