「ゲーム学」の確立を目指して――日本デジタルゲーム学会が設立

2006年5月19日、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)の設立総会が開催された。DiGRA JAPANは、日本におけるゲームについての本格的、かつ国際的な学術的研究の場として設立された学会で、総会では設立の経緯や目的などが語られた。

» 2006年05月20日 01時45分 公開
[遠藤学,ITmedia]
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 2006年5月19日、日本デジタルゲーム学会(DiGRA JAPAN)の設立総会が開催された。DiGRAとはフィンランドに本部を置く、デジタルゲームについての研究に関心を持つ研究者・実務家の国際的非営利団体「Digital Games Research Association」(DiGRA)のこと。DiGRA JAPANはその日本支部であり、日本におけるゲームについての本格的、かつ国際的な学術的研究の場として設立された学会となる。

photo 馬場章氏

 会長を務めるのは、東京大学大学院情報学環教授であり、東京大学ゲーム研究プロジェクト共同代表の馬場章氏だ。馬場氏はDiGRA JAPAN設立の経緯について、「ゲームの普及に貢献したファミコンの登場から20数年、現在発売されている家庭用ハード3つのうち、2つが日本のものであることが示すように、日本はゲーム大国と言われている。ところが、学術的な研究という点では、国際的に大きく遅れを取っている。日本における学術的な取り組みというのは3年半、4年前くらいから本格的に始まっていたが、それは分散的に行われていたもの。しかし、これまで活動してくる中でお互いに交流も生まれ、日本全体を網羅するような学会を作れるような時期になってきたのではないかと考えた」と説明。

 新しい学問としての「ゲーム学」が成立するのではないか、という可能性が見えてきたのだという。学問としてゲーム。これはもちろんプラスの側面ばかりを取り扱うわけではない。「ゲーム脳」を代表する反ゲーム的な言説や世論を始め、近年叫ばれているゲーム市場の閉塞(へいそく)感も、同学会の研究対象になるとのこと。

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 また、馬場氏はDiGRA JAPANの役割として、国際的な面と国内的な面の2つがあると語る。国際的な面というのは、DiGRAの日本支部として、世界的なレベルでの共同研究の推進と、国際会議への積極的な参加となる。一方の国内的な面というのは、日本におけるデジタルゲーム研究の推進だ。

 「これまで培ってきたさまざま成果を引き継ぎつつ、通常の学会にありがちな研究者・大学生といった構成ではなく、開発者や産業界からはもちろん、行政や自治体といった組織にも協力を要請していく。また、ゲーム産業の人材育成という点では1歩先をいく専門学校からも、積極的に人を迎え入れていく」(馬場氏)とした。

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 最後にDiGRA JAPANの主な目的として、「国内のデジタルゲーム研究を推進する」、「海外の学術団体との交流を推進する」、「研究発表の場を確保し拡大する」、「ゲーム研究関連の学術情報を交換する」、「若手研究者を養成する」、「デジタルゲームに対する社会認識の形成に寄与する」、「ゲーム産業界の発展に貢献する」という7つを挙げた馬場氏。「7つ目に関しては、最後だから軽視しているというわけではなく、ほかの6つを進める、産官学の連携を強めていく中で、その結果として貢献することができればと思う」と力強く語った。

DiGRA JAPAN設立における役員たちの意気込み

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DiGRA JAPAN副会長 細井浩一氏(立命館大学政策科学部教授)
 諸外国に比べれば明らかにゲーム研究は遅れているが、日本の中では東京圏での研究、産業が一番進んでいる。そういった中で、オールジャパンとしているからには、忘れてほしくないのが関西、九州といった地域。東京圏ほどではないにせよ、これまでの何年間か活動してきたという、しっかりとした歴史もある。そういった中でオールジャパンを意識した組織作りを大切にしていきたい。


photophotophoto 細井氏はこれまの活動について資料を交えながら説明。レベルXに出展されていたファミコンソフトは、任天堂の協力を得ながらファミコンソフトのデジタル化を進めていた、立命館大学の「ゲームアーカイブ・プロジェクト」によるたまものだと、研究の成果に胸を張った
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DiGRA JAPAN理事 坂元章氏(お茶の水女子大学文教育学部教授)
 これまでテレビゲームの心理的な部分、良い面も悪い面も含めて研究を進めてきました。良い影響があるのであれば、それを生かしてどのように利用していくのか。また、悪い影響があるのであれば、どのようにすれば抑えられるのか、といったことを研究のテーマにしています。今回の学会の設立は関係者を連携させ、研究を活性化させる。微力ながら、学会の発展に尽力をつくしていきたいと思います。


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DiGRA JAPAN役員 岩谷徹氏(バンダイナムコゲームス新規事業室コンダクター)
 この中では私が一番年を取っているが、それだけ長くゲームにかかわってきたということで、すでにゲーム業界に携わって30年近くが経った。30年もやれば何かあるだろうということで、これまでのノウハウを生かしながら、学会の力になりたいと考えている。学会というと論文発表といったものが中心になるが、この場合、成果物としてこういうゲームができたということを目指すことになる。さらに個人的な要望を言うならば、ゲームは現在、主に健常者がやるものとなっているが、例えば目の不自由な方でも楽しめるといったゲームも研究していただきたいし、ともに目指していきたい。


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DiGRA JAPAN役員 山口浩氏(駒澤大学グローバル・メディア・スタディーズ学部助教授)
 専門はファイナンスなどの金融分野や経営学といったものになります。金融の技術というのは、いろいろなところで役に立つのではないかと考えています。そういった中で、ゲーム内で経済活動が行われているということに着目しており、面白いと思っています。こういったものを研究の対象として取り上げていきたいと考えています。


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DiGRA JAPAN役員 中村彰憲氏(立命館大学政策科学部助教授)
 元もとゲーム産業を研究したいという立場から、私の研究はスタートしました。その中で出会ったのが中国のゲーム産業。最初は海賊版などを遊んでいた中国の人々ですが、そのうち見たこともないようなゲームを遊びだしました。それがオンラインゲームだったんです。ここからオンラインゲームに対する研究が始まりました。今回、このような形でDiGRA JAPANが設立させたことで、さまざまな角度からゲームを学べる可能性が出てきました。これを心から喜び、皆さんとともに盛り上げていきたい。


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DiGRA JAPAN役員 新清士氏(IGDA日本代表)
 IGDA日本は2002年にスタートしました。IGDAはゲーム産業そのものの発展を目指し、ゲーム開発者のコミュニティを作り、育てていくという目的の元に設立されました。そういった中で、学術的な面からも議論ができる場を作れないかと考え、ありがいことに、非常に豪華な方たちの協力の元、このたび学会という形でDiGRA JAPANそ設立することができました。北米ではゲーム研究に、非常に多くのゲーム開発者がかかわり、活発な議論が行われています。こういったものはゲーム開発そのものにメリットをもたらします。単なるアカデミックなものとして終わるのではなく、ゲーム産業そのものの発展へとつなげていきたいと考えています。


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DiGRA JAPAN役員 伊藤憲二氏(東京大学大学院情報学環講師)
 科学技術論の観点から、ゲームは非常に興味深いものと感じ、研究を始めていました。DiGRAにおいては、海外との交渉を主に担当することになると思います。


 なお、DiGRA JAPANには誰でも無料で入会することができる。会員の種類は「正会員」、「賛助会員」、「学生会員」の3つがあり、正会員は年会費1万円、賛助会員は年間一口10万円の会費、学生会員は年会費2000円となっている。もし、興味があるという人は、DiGRA JAPAN公式サイトに詳細が載っているので、そちらをチェックしてもらえればと思う。

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