業界に一石を投じたジャンル“サウンドノベル”を今一度振り返るチュンソフト 中村光一氏インタビュー(2/2 ページ)

» 2006年07月26日 16時41分 公開
[小城由都,ITmedia]
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「街」の続編が出ないワケ

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――「街」では渋谷を舞台にして、システムも急に変わりました。

中村 渋谷を舞台にしたのは、長坂さんのこだわりなんです。スクランブル交差点で信号待ちしている時に、“たまたまこうやって信号待ちしているだけの関係である人たちが、ちょっと肩がぶつかったことで人生が変わっていったらどうなるんだろう”みたいなことを考えたらしいんですね。そこでもし、それぞれの人の後ろをつけていったら、どんな人生が待ち受けているんだろうという楽しみと、人と触れ合うことで人生が変化していくという楽しみをミックスしたら面白いんじゃないか、という提案をいただいたんです。それがきっかけで、そのまま渋谷を使うことにしました。最初は100人の人生を描きたかったので、100のプロットを出したのですが、実際に使ったのは8本でしたね。

――渋谷の街をそのまま撮影したり、役者を使ったりしていましたが。

中村 ROMになったことで、容量の制限が広がりました。これをアニメとかグラフィックで描き起こすなどすれば、途方もない仕事量になりますし、描き分けも大変だと判断したんです。CD-ROMの次の記録媒体が出てくれば、映像を記録することも可能になってくるだろう。であれば、今の段階では実写で作ってみるのが良いのではないかと。

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――「街」は魅力あふれる作品だったと個人的には思っているのですが、なぜ続編が登場しないのでしょうか?

中村 実は現実的に難しい問題が山積みしておりまして……(笑)。「街」の続編を出そうという話は良く挙がりますし、何度も形にしようとは考えています。「弟切草」の販売本数がスーパーファミコン版だけで30万本を越えていて、「かまいたちの夜」にいたっては70万本を越えたんです。しかし「街」は12万本くらいだったんですよ。実を言うと、「街」はすごい制作費がかかっているんです。当時にしては有名な役者さんを使っていたわけではない(実は窪塚洋介さん、北陽の伊藤さおりさんなどが出演している)にもかかわらず、映画を作るのと同じくらいのコストがかかっている。その売り上げが12万本では当然回収できないわけです。熱烈なファンの方が多いのは良く分かっているんですけど、コスト面やそのほかさまざまな要因があり、企画が出ては消え、出ては消えしているんですよ。

――ユーザーには支持されていても続編を出すことができない。非常に残念な話ですね。

中村 そういう意味ではずっとゲームを作ってきて、初めて挫折感を味わったのも「街」だったんですよ。それまでは「弟切草」を出した時も、当時はいろいろ批評がありましたけど、自分なりに自信があって結果もついてきました。当然それは「かまいたちの夜」につながって、こちらもヒットさせることができました。「街」だってちゃんと確信めいたものはあったんです。実写を使うということへのこだわりもありました。でも、この作品だけは数字がついてこなかったんです。周囲からは“実写を使ったのがいけなかったんじゃないか”とも言われましたが、実写だから面白くないとか、3Dだから面白いとか、関係ないと思うんですよね。実際、思い出のゲームランキングなんかを見ると、常に上位にランキングされている。非常に考えさせられる作品でした。

――では、サウンドノベルで唯一続編が発表されたのが「かまいたちの夜」だったというのも、そのあたりの理由からなのでしょうか。

中村 そうですね。「かまいたちの夜」は続編がほしいという声が多く、売り上げとしてもかなり良い数字を残していました。また、もともとスーパーファミコン版だった初作を、プレイステーション版に移植したところ、「弟切草」や「街」が10万本前後で推移している中、40万本以上という圧倒的な売り上げを見せたんですよ。

――その理由は何だと考えていますか?

中村 スーパーファミコン版は面白かったけど解けなかった、という人たちが多かったみたいですね。プレイステーション版でフローチャート機能をつけたので、それでもう一度やってみようという人が増えたのかな、と想像しています。スーパーファミコン版だけをプレイしている人に話を聞くと、意外と“犯人は真理でいいんですよね”という人が多い(笑)。たぶんそういうところもあって、プレイステーション版は売れたんじゃないかと思いますね。

――やはりそういう販売数の面や、続編を作りやすい環境にある作品ということで、「かまいたちの夜2」につながったのだと思いますが、意識されたことはありますか。

中村 「かまいたちの夜2」というタイトルをつけるにあたって、何をもって“2”というのだろうか? ということは、相当スタッフ間でも議題にあがりました。当時の議論では、やっぱり雪山じゃなきゃいけないんじゃないか、とかも出ましたが、結局、登場人物を継承していること、密室で行われる連続殺人であること、という2つが“2”であるゆえんであると決定したんです。

――「かまいたちの夜2」では、我孫子さんは監修で参加されています。

中村 メインでシナリオを書いてくれたのは田中啓文さん、牧野修さんですね。我孫子さんが書いたのは、ピンクのしおりとか、ギャグとか面白いところです(笑)。

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――ちなみに「かまいたちの夜」から「かまいたちの夜2」に移行する際のストーリーですが、“ゲーム落ちは、ちょっとないだろう”と議論にならなかったんでしょうか。(※「かまいたちの夜2」において、「かまいたちの夜」は同名ゲーム内の話ということになっている)

中村 まったくありませんでした(笑)。でも、それが最大の失敗ですね。我々はみじんも不自然さを感じなかったものですから。最初に田中さんからシナリオを受け取った時も、すんなり通してしまいました。まさかあんなに議論されることになるとは夢にも思いませんでしたよ。でも、「かまいたちの夜」の状況を受け継いで、「かまいたちの夜2」を作るというのは、本当に難しいんです。登場人物が全員そろって登場することも難しい。

――「かまいたちの夜2」のピンクのしおりも、これまたずいぶんとエッチでした。ギリギリだったんじゃないでしょうか。

中村 あれは……確かにギリギリでしたね。当時はSCEさんの内部でも、相当議論があったみたいです。我々の担当だった方は“影だからいいじゃないですか”とかばってくれたんですけど、“この食い込み具合はダメだろう”とか、ものすごく真剣に話し合われていたみたいですよ(笑)。

――ホラーやオカルトのシナリオは、前作にもまして怖いものが多かったですね。

中村 田中さんや牧野さんは、ホラー色の強いシナリオを得意とする方たちだったので、自然とそうなりましたね。あのシナリオに負けないようなグラフィックを作らなければならないということで、当時のグラフィックスタッフたちが頑張ってくれました。

サウンドノベルはまだまだ出る

――「かまいたちの夜2」から、サウンドノベルの域を超えた気がしました。

中村 そうですね。サウンドノベルとは何か? という話につながってくると思うんですけど、当初は少ないグラフィックやプログラムで、コストをかけずに、それでいて楽しめるものを、という目標で作り始めたものが、今ではRPGを作るのと同じくらいのコストがかかってしまうようになりました。サウンドノベルというジャンルが持つポジションというものが分からなくなった、というのも正直なところです。映画の世界では、一時期邦画がまったくダメだった時代がありました。映画といえばハリウッドみたいな。でも最近では邦画の勢いが伸びてきています。内容的に面白い、面白くないというのももちろんあるんでしょうけど、某プロデューサーが言った“字幕を読まなくていいからなのでは”という一言に注目していて、“なるほどね”と納得しちゃったりしました。

――遊ぶということに対してのエネルギーや時間のかけ方が、希薄になってきているんじゃないかということでしょうか。

中村 最近のゲームは、特定のソフト以外の大ヒットはなくなってきてますよね。自分も昔ほどゲームをやらなくなっています。昔は、新しいタイトルが出るとすごい楽しみで、ワクワクしながら買いに行ったりした覚えがあるんです。でもそういうのがなくなってきた。面白そうだなと思ってプレイして、2時間くらいたつともういいやとなってしまう。逆に今の若い子に話を聞くと、ファミコン時代のソフトのほうが面白い、という声が良く挙がるんですよ。これっていったい何なんでしょうね? それに、ボリュームのバランスも難しくなってきました。量が少ないと物足りないと感じられてしまい、逆に多いと、全部見るのが大変という声があがってしまう。

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――そんな中で「かまいたちの夜×3」が発売されます。

中村 「かまいたちの夜2」の時の反応で、ミステリーとして簡単すぎたという反応が多かったのと、ホラー色が強すぎるという意見がありました。そして我孫子さん自身も、もっと書きたかったという条件が重なって、「かまいたちの夜×3」を出すことになったんです。今回は“簡単”とはいわせないつもりですよ。犯人とトリックがしっかりと分かった上でないと、エンディングは見られません。ちょっとしたイジワルもしてあるので、我々の罠も潜り抜けていただかないと(笑)。

――これからゲーム業界は、次世代機を中心に回っていくことになると思います。次世代機になることで、サウンドノベルは何か変わりますか?

中村 ハイビジョン対応になるとか(笑)。ドルビーサラウンド5.1ch、記憶媒体、いろいろと変化はあるでしょう。3Dを使ってリアルタイムに演出できるのではないか、などのいろんな話は出ています。けど、率直に言って“それって必要かなぁ”と思ってしまうんですよね。だから、基本としてのサウンドノベルは変化しないと思います。

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――今後もサウンドノベルは登場するんでしょうか。

中村 もちろんまだまだ出しますよ。このシステムを利用すれば、さまざまなものに展開することができるわけですし。面白いストーリーがあって、面白いアイディアがあれば、どんどんゲーム化していきたいと思っています。

――本日はありがとうございました。

(C)CHUNSOFT/我孫子武丸/田中啓文/牧野修
(C)2006 CHUNSOFT/我孫子武丸/羽毛田丈史


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