これまでより、これからの10年のほうが刺激的――久夛良木氏基調講演:東京ゲームショウ2006
東京ゲームショウ2006の基調講演にソニー・コンピュータエンタテインメント社長兼グループCEOの久夛良木健氏が登場。プレイステーション 3で実現されるネットワークコンピューティングについて語った。
「PS3が創る次代のエンタテインメント」と題された基調講演において、久夛良木氏はまず、今年はプレイステーション 3やWiiといった次世代機が発売されるため世界中から注目されていると前置きしつつ、「これからコンピュータエンタテインメント業界が何を考え、どこに向かっていくかについて、わたしの口から伝えられるのはうれしい」と述べ、今回の東京ゲームショウ2006では200台の実機と開発機材を使って、プレイステーション 3のゲームが体験できることを紹介した。
「1983年に8ビットのファミコンが発売されて以来、ゲーム機はこの20年間でプロセッサのクロック数は4けた、計算能力は5けた、メモリの容量は6けたも向上し、そのおかげですばらしいソフトウェアが生まれてきた。今日ご覧に入れたようなすばらしいソフトウェアを2カ月後にユーザーへ届けることができるのは、プレイステーションに携わるものの1人としてうれしい」(久夛良木氏)。
また久夛良木氏は、ゲーム機の特徴の1つはリアルタイム性とコントローラーの入力に即応したレスポンス性であり、そこがPCなどほかのシステムと違うところだと語る。そこで着目すべきなのは、ユーザーインタフェースとしてのコントローラー。「ゲーム機のコントローラーは、直感的で多彩な操作ができるだけでなく、想像もしなかったような新しいインタフェースは今後も提案され、その中のいくつかは将来に定着するだろう」(久夛良木氏)。そしてこのコントローラーの入力にリアルタイムに即応させ、ゲームとして成立させるために、最先端のテクノロジーが惜しみなく投入されていくだろう、と久夛良木氏。広大なバスのバンド幅やパイプライン処理、並列演算といった、コンピュータサイエンスの分野に限られたものであったものを、クリエイターが使いこなすことで新しいソフトが生まれ、コンピュータエンターテインメント産業が伸びてきた。
ただし、これまで巨大で高性能システムを手元に引き寄せようとして発展してきたPCも、ある程度完成域に近づいてきており、巨大なOSも含めて、機能を盛り込んだおかげで、利便性や快適さが損なわれてきていると、久夛良木氏は指摘する。このため計算機能やデータベースなどの基幹機能をネットワークの向こうに置いて、ネットワーク越しでアクセスするという考えも出てきた。「これはオラクルが提唱したが、ネットワークのバンド幅やコンピュータの能力が低かったため、などの問題で普及しなかった。しかし現状では全世界で一定のブロードバンド環境が得られるし、PCもこれまでにないパワーを手にしているので、ネットワークの向こう側に巨大なサーバ、ストレージを持って利用することも可能になってきた。検索エンジンの登場で、ユーザーはネットワーク経由でありながら、あたかもスーパーコンピュータに接続しているかのような体験をすることも可能になった」(久夛良木氏)。
久夛良木氏は、世界中の地図データを集積したものを「リッジレーサー7」で利用するする例などを挙げ、「これまでの地形データは、制作者がリアルな世界で写真を撮影したりして製作してきた。ただしネットワーク越しにサーバで地図データを計算させて、それを使うことができれば、コストの面から言っても非常に大きな可能性がある」と語る。「いまではデジカメやハンディカムなどが普及しているので、ユーザーそれぞれが自分の周りの環境をアップロードして“グローバルマップシステム(GMS)”というようなデータベースを作ることもできる。そこにアクセスしてリアルタイムに飛び回ることができれば、まさに夢見た“どこでもドア”の世界が登場する」(久夛良木氏)。
久夛良木氏はここで「グランツーリスモ」シリーズの例を挙げ、「コース上のシーンなどは動画や静止画の撮影のほか、時にはレーザー測量で作成するが、実在の車のボディや剛性、エンジン、サスペンション、タイヤの摩擦係数などは、車体メーカーとのリレーションシップで、時にはCADデータをもらって変換している。このメリットは1つ1つ入力する手間と費用が省けること」と語り、先ほどの地図データの例とも考え合わせて、さまざまなデータの共有化が今後はさらに進んでいくかもしれないと指摘する。
そこで重要となるのが、誰もがプレイステーション 3を開放的に利用できることだ、と久夛良木氏。「インターネットにつながってみんなが楽しむだけでなく自らが使える環境を提供することが大事。オープンな開発環境を加速していく。開かれたネットワーク環境、開かれたプラットフォームから斬新なアイディアが生まれる」(久夛良木氏)。
こうした新たな動きを語る中で、12年前のプレイステーションにCD-ROMを導入したことを振り返りながら、「マスクROMはコストも高く、製作に時間もかかったが、安価で生産の早いCD-ROMを導入したことで、一瞬沈滞していた業界も活性化した。その結果膨大なタイトルが生まれてきたが、現在ではまた売れるソフトと売れないソフトの2極分化が始まっているし、ユーザーもクリエイターがチャレンジしたタイトルに手を出していない」と久夛良木氏。
「ゲーム制作の本来の姿は多様性の追求とクリエイターの想像の発露。現状はややもすると売れそうなシリーズものや、手軽な遊びだけに陥りがちな状況にあることには警鐘を鳴らすべきだ。ユーザーも新しいソフトを取りに行くことより、“何で遊ばせてくれるのか教えてほしい”というような受け身の姿勢になっていることも問題だ。SCEの全員が考えているのはイノベーション。イノベーションがないところに持続的な発展はない。本来のクリエイティビティを見据えながら、いまある問題に1つ1つ対応して、来たるべきネットワークセントリックな時代に時間をかけて対峙しなければならない」(久夛良木氏)。
ただしこれまで紹介されたようなネットワーク環境は、現状では手に入れられていない。「インターネットを構成しているのはPCアーキテクチャだが、ギガビットイーサネットであっても、プレイステーションの内部バスのバンド幅に達していない。最先端のPCでプレイステーション 2のエミュレーションもできない。ましてやHDクオリティの映像をリアルタイムでネットワーク上で扱うにはまだまだ時間がかかるだろう。しかし10年たったらそのようになるかもしれない。プレイステーション 3はゲーム機としては“やりすぎ”のようなスペックだが、ゲーム機のすごいところは誰でもTVにつないでくれること。そしてプレイステーション 3をインターネットにつなぎ始める最高のチャンスが生まれている。この2、3年はパッケージメディアと共存するだろうが、ネットワークを活用することで新しいサービスも生まれてくる」と久夛良木氏は語る。ネットワークの持つ双方向性を活用して、既存のしがらみで埋没しているクリエイターと、発信したいユーザーを結びつけたい」とも。
プレイステーション 3ではプレイステーション 2とプレイステーションがエミュレーションできるので、ペイパープレイで提供することも可能だと久夛良木氏は述べる。「プレイステーションフォーマットだけでなく、メガドライブのソフトも動作したらおもしろいし、これ以外のさまざまなソフトも配信したい」(久夛良木氏)。また、プレイステーション 3のプロモーションのために店頭へ設置される試遊台は、アメリカと日本を含めて数万台にのぼる。この活用方法としても、「それぞれをネットワークにつないで、最新のゲームをダウンロードしたり、アップロードするだけではなく、“街角TV”のようなプロモーションや、ICカードを使うことで少額課金を行い、アーケードゲームのように遊ぶこともできるかもしれない。気に入ったゲームを店頭で購入して持ち帰り、楽しむこともできるだろう」とのこと。「これらはリテーラーに提案している最中だ」(久夛良木氏)。
最後に久夛良木氏は、インターネットに接続されているPCを利用してアルツハイマーの遺伝子や難病のDNAを早期に見つけ出す「Folding@home」プロジェクトを紹介。プレイステーション 3の開発環境を対応させ、実験しているとのこと。プレイステーション 3発売後にユーザーがこのプロジェクトへ参加すれば、アルツハイマーにかかわらずサイエンスの分野が加速したら、人類にとって大きな助けになると思っている、と久夛良木氏。「ゲーム機はゲーム機だけと見られがちだが、ネットワークの進化に伴ってこういうことも可能になる」(久夛良木氏)。また、「ゲームの開発中も、サーバにアクセスしながら共同作業で制作しているが、そこにユーザーがアクセスして開発中のゲームソフトを見たりと、ユーザー側がアプローチすることもおもしろい。パッケージの時代ではできなかったライブのエンターテインメントが始まる」と指摘。
「ゲーム産業はいままさに未来の扉を開こうとしている。いままでの10年に起こったことより、これからの10年の方がはるかにおもしろくて刺激的でダイナミックでおもしろくて神秘的だ。コンピュータエンターテインメント産業がこの流れをリードしていく。プレイステーション 3を含む新しい世代のプラットフォームが、この大きな役割の一端を担っていけるかもしれないと考えると、プレイステーションをやっていてよかったと思う」(久夛良木氏)。
関連記事
- 東京ゲームショウ2006:PS3、PS2、PSP合わせて50タイトル近くがプレイアブルで出展――SCEJブース
PS3のタイトルを多数出展しているSCEJは、会場内でも一段と注目を集めている。PS3、PS2、PSP合わせて約50タイトルをプレイアブルで出展。SCEJタイトルに関しては、試遊台も平均して5台以上が設置されている。 - プレイステーション 3 20GBモデルにもHDMIを搭載。5万円を切る価格で発売――久夛良木氏
9月22日から開催されている東京ゲームショウ2006の基調講演終了後のトークセッションで、ソニー・コンピュータエンタテインメント社長兼グループCEOの久夛良木健氏は、プレイステーション 3 20GバイトモデルにもHDMIを搭載することを発表した。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
-
「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの行動”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」【大谷翔平激動の2024年 「家族愛」にも集まった注目】
-
60代女性「15年通った美容師に文句を言われ……」 悩める依頼者をプロが大変身させた結末に驚きと称賛「めっちゃ若返って見える!」
-
「庶民的すぎる」「明日買おう」 大谷翔平の妻・真美子さんが客席で食べていた? 「のど飴」が話題に
-
皇后さま、「菊のティアラ」に注目集まる 天皇陛下のネクタイと合わせたコーデも……【宮内庁インスタ振り返り】
-
真っ黒な“極太毛糸”をダイナミックに編み続けたら…… 予想外の完成品に驚きの声【スコットランド】
-
71歳母「若いころは沢山の男性の誘いを断った」 信じられない娘だったけど…… 当時の姿に仰天「マジで美しい」【フィリピン】
-
新1000円札を300枚両替→よく見たら…… 激レアな“不良品”に驚がく 「初めて見た」「こんなのあるんだ」
-
家の壁に“ポケモン”を描きはじめて、半年後…… ついに完成した“愛あふれる作品”に「最高」と反響
-
ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
-
「ほぼ全員、父親が大物芸能人」 奇跡的な“若手俳優の集合写真”が「すごいメンツ」と再び話題 「今や全員主役級」
- ザリガニが約3000匹いた池の水を、全部抜いてみたら…… 思わず腰が抜ける興味深い結果に「本当にすごい」「見ていて爽快」
- ズカズカ家に入ってきたぼっちの子猫→妙になれなれしいので、風呂に入れてみると…… 思わず腰を抜かす事態に「たまらんw」「この子は賢い」
- フォークに“毛糸”を巻き付けていくと…… 冬にピッタリなアイテムが完成 「とってもかわいい!」と200万再生【海外】
- 鮮魚スーパーで特価品になっていたイセエビを連れ帰り、水槽に入れたら…… 想定外の結果と2日後の光景に「泣けます」「おもしろすぎ」
- 「申し訳なく思っております」 ミスド「個体差ディグダ」が空前の大ヒットも…… 運営が“謝罪”した理由
- 「タダでもいいレベル」 ハードオフで1100円で売られていた“まさかのジャンク品”→修理すると…… 執念の復活劇に「すごすぎる」
- 母親から届いた「もち」の仕送り方法が秀逸 まさかの梱包アイデアに「この発想は無かった」と称賛 投稿者にその後を聞いた
- ある日、猫一家が「あの〜」とわが家にやって来て…… 人生が大きく変わる衝撃の出会い→心あたたまる急展開に「声出た笑」「こりゃたまんない」
- 友人のため、職人が本気を出すと…… 廃材で作ったとは思えない“見事な完成品”に「本当に美しい」「言葉が出ません」【英】
- セレーナ・ゴメス、婚約発表 左手薬指に大きなダイヤの指輪 恋人との2ショットで「2人ともおめでとう!」「泣いている」
- 「何言ったんだ」 大谷翔平が妻から受けた“まさかの仕打ち”に「世界中で真美子さんだけ」「可愛すぎて草」
- 「絶句」 ユニクロ新作バッグに“色移り”の報告続出…… 運営が謝罪、即販売停止に 「とてもショック」
- 「飼いきれなくなったからタダで持ってきなよ」と言われ飼育放棄された超大型犬を保護→ 1年後の今は…… 飼い主に聞いた
- アレン様、バラエティー番組「相席食堂」制作サイドからのメールに苦言 「偉そうな口調で外して等と連絡してきて、」「二度とオファーしてこないで下さぃませ」
- 「明らかに……」 大谷翔平の妻・真美子さんの“手腕”を米メディアが称賛 「大谷は野球に専念すべき」
- 「やはり……」 MVP受賞の大谷翔平、会見中の“仕草”に心配の声も 「真美子さんの視線」「動かしてない」
- ドクダミを手で抜かず、ハサミで切ると…… 目からウロコの検証結果が435万再生「凄い事が起こった」「逆効果だったとは」
- 「母はパリコレモデルで妹は……」 “日本一のイケメン高校生”グランプリ獲得者の「家族がすごすぎる」と驚がくの声
- 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
- 「真美子さんさすが」 大谷翔平夫妻がバスケ挑戦→元選手妻の“華麗な腕前”が話題 「尊すぎて鼻血」