所変えても健在だったSFミステリーアドベンチャー新シリーズ第1弾:「12RIVEN -the Ψcliminal of integral-」レビュー(2/2 ページ)
躍動するキャラクターたち
インフィニティシリーズはよくシナリオの構成が巧みと言われるが、キャラクターも魅力的なのが特徴だ。今回もその流れはしっかり受け継いでいる。謎にこだわらずキャラクターに感情移入しながらプレイするのもありだろう。錬丸とミュウの強い絆を描いたラブストーリー、鳴海と途中から助手となるオメガの姉弟のようなパートナーシップ、鳴海と後輩の真琴の深い友情など、キャラクター同士の関係性に見どころが多い。
それではメインのキャラクターを紹介しよう。
雅堂錬丸(みやびどう・れんまる)
幼なじみのミュウとともに、誰もいない不思議な世界に迷い込んだ高校生。普段は頭の回転も早く冷静だが、ミュウのこととなると熱くなる一面も。今回の事件を通して大切な想いに気づき、少年から頼りがいがある青年へ成長していく。その様子はまさしく本作のヒーローだ。
高江ミュウ(CV 野中藍)
錬丸の幼なじみ。謎の計画「第弐エクリプス計画」のため、なぜか命をねらわれている。わがままでちょっと意地っ張りなところもあるが、根は素直な女の子だ。苦しい状況になっても、その明るい笑顔は周囲の気持ちを和ませる。「ありんちょす」「ごめんちょす」は名言。
三嶋鳴海
公安12課に所属する女性捜査官。サイクロペディア症候群で一度見たものを忘れることができないものの、その反動で記憶にぼっかり空白が生じることも。サバサバした姉御肌で、仕事ができる大人の女性。だが、どこか心にアンバランスさがあり、時折弱さを見せる。それもまたいい。
大手町(CV 諏訪部順一)
鳴海の同僚。ちゃらんぽらんで飄々としているが、意外と情報通。実は鳴海の元彼でもある。どこか底知れない部分もあり、まっすぐな高校生の錬丸と異なり、影のある男、といった印象。
ボス(CV 大塚明夫)
公安12課長であり鳴海の上司。口うるさいが基本的には鳴海を心配している。実は鳴海の父親で、職場での親子ゲンカ(?)はなかなか笑える。本来は一番信頼しなければならない相手だが……。
霧寺メイ(CV 松風雅也)
錬丸・鳴海、双方のシナリオで立ちはだかる銀髪の少年。エリート高校の理文学園第六高校(リブロク)の生徒で、奇妙な技「Ψ(サイ)」の使い手。ミュウを殺そうとし、チサトを銃撃する冷酷な性格だが、彼の行動の理由とは……。斜に構えたミステリアスな悪役だ。
ほかにも印象の強いキャラクターが多数登場する。彼らは表の顔と裏の顔を持ち、それぞれ事情を抱えている。ネーミングも凝っていて、その意味を考えるのも面白い。
インテグラルシリーズの独自性
「12RIVEN」はゲームシステムとしては非常にオーソドックス。選択肢も比較的少なく、バッドエンドはあるがシナリオが大きく枝分かれすることはない。前作「Remember11」と比べるとシンプルで、純粋にストーリーを楽しんでもらおうという意図がうかがえる。発売元が移り、心配されていたインタフェースも快適。クイックセーブ・ロード、既読・未読スキップも兼ね備えた「キッドシステム」が継続され、膨大なテキストも非常に読みやすい。
インテグラルシリーズになって変わった点といえば、SF色が強くなったところか。「Ever17」や「Remember11」では、ミステリー的な手法で用いられる閉鎖空間が舞台だったが、今回の背景は青空のもとで開けている(誰もいなくなってしまった世界はある意味究極のクローズドかもしれないが)。波瀾万丈のドラマを手に汗握って楽しむ、SFエンターテイメントとしてのデキがよく、好みはあるにしろ躍動感はこれまでの3本と比べても随一だと思う。打越氏が本作の前に関わった「EVE new generation」と通じる空気もある。公安捜査官の鳴海のイメージが、「EVE」の名物ヒロイン・まりなとなんとなく近い気がするのは筆者だけだろうか。鳴海は女性にも好かれるタイプのキャラクターだ。
今回は、誰もがふと疑問に思うような、哲学的なテーマがメインにおかれている。相変わらず難解だが、物語に乗せて会話で解説されるため、考える糸口がつかみやすい。そのほか、大脳生理学や数学、天文学のトピックスも入り、本気で読み解こうと思えばいくらでも掘り下げられる余地がある。こうした方向性はインフィニティシリーズを受け継いでいるなあ、とうれしく感じた。
最後になったが、本作のディレクターは若林健氏、音楽は阿保剛氏、そしてイラストは滝川悠氏とbomi氏の2人体制。実はここにも仕掛けがある。
制作に足かけ3年かかったという「12RIVEN」。ノベルアドベンチャーの新次元へ、今後も“完全”に向けて独自の道をばく進してほしい。
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