「99のなみだ」はどうして生まれたのか?CEDEC 2008(1/2 ページ)

「自分や自分に似た人に向けた製品を作りたい」――。ニンテンドーDS用ソフト「99のなみだ」の起源は思いがけないものだった。

» 2008年09月10日 20時52分 公開
[塙恵子,ITmedia]

 9月9日より開催されているゲーム開発者カンファレンス「CESAデベロッパーズカンファレンス 2008」(CEDEC 2008)において、「女性ががんばる新しいゲーム開発+α in 『99のなみだ』」と題したセッションが行われた。

 本セッションの講師として、ニンテンドーDS用ソフト「99のなみだ」に携わったバンダイナムコゲームスの石田実緒氏(パブリッシング・プロデューサー担当)、磯桂子氏(企画立案・研究、システム・シナリオのディレクション担当)、青木奈津子氏(システム・シナリオ担当)、鈴木恒氏(制作プロデュース担当)が登場した。

 「99のなみだ」は、10分程度のショートストーリーで感動の涙を流し、気持ちをすっきりさせるという、人への心理的効果を利用した新しい試みの製品。この企画誕生の経緯なども気になるところだ。

photo 2006年1月スタート今年6月発売 構想と技研を入れて1年半、製品開発で半年という流れ

「99のなみだ」は予期せぬ出来事から思いつく

photo 磯氏

 まず、磯氏から企画誕生の経緯について語られた。発端は、3年がかりのプロジェクトの突然の中止という予期せぬ出来事だそうだ。すべてを失って引きこもっていた時期、「99のなみだ」の基礎が生まれたのだという。「病気とか治せるような、人の役に立つものは作れないのかと考えるようになりました。自分や自分に似た人に向けた製品を作りたいなと思い始めていたんです」と磯氏。

 それから、当時同じ部署だった青木氏とランチを食べながら話したことが、「99のなみだ」開発のきっかけとなる。「2人でピザなんか食べながら、心身ともに『癒されたいね』『元気になりたいね』なんて話していました。そこからどんどんアイデアを出していった感じです」(磯氏)。

photo 「癒されたい」から「99のなみだ」は生まれた

 企画書の書き方は分からなかったが、アイデアはどんどん出した。そのとき出た案は大食いする、旅行をする、イルカと泳ぐ、日記を書く、マッサージ、お笑い、泣ける映画など。でも時間がないし、簡単に元気を取り戻したい。さらにたくさん出したアイデアをまとめると、ストレスを解消するにはたくさん笑ったり泣いたりすることだという結論にいたったのだそうだ。磯氏は「短時間で手間をかけずにできるもっとも有効なストレス解消法が、喜怒哀楽だったんです」と説明する。

 アイデアがまとまったら、そこから製品内容を人に伝える必要がある。「どんな時に、とんな人にどんな風に使ってもらいたいかということを、できる限り具体的にしました」と磯氏。そこで注意したのは、思い込みとかこだわりを排除することだったそうで、磯氏は客観的に見るということを徹底したという。「詰め込みすぎないで、どんどん削って、思い切って角を立たせて……。既存の製品で間に合うのだったら、残念ながらそのアイデアはなしということに。つまり新しいかどうかということを中心に考えました」(磯氏)。

 磯氏と青木氏の中で、おおまかなコンセプトは決まっていたが、喜怒哀楽でストレスを解消することができるというのは実際どういうことなのか。自分たちだけで製品を作るのは無理かもしれないと考え始めていた。そんな時に早稲田大学の河合隆史教授に出会い、産学連携プロジェクトがスタートした。

 研究の目的は、特定の心理効果を有したゲームソフト開発。最終的にはソフト開発だけではなく、特許の出願、人間工学学会での発表などの成果をあげている。

photophotophoto 左から産学連携プロジェクトの経緯、泣いた時の気分を表したグラフ(男女別)、泣いた時、泣かなかった時の疲労の違い

 研究スタートの時点では、涙に特化したソフトという構想はなかった。青木氏は「1つ1のアイデアを検証していくということからスタートしました。学術的な資料を読みあさるという地道な作業になりました」と振り返る。

 その地道な作業が実り、「泣く」という行為が自分たちのコンセプトに非常に近いということにたどり着く。そして自分自身が泣くとすっきりするという実感があったのだと青木氏。

泣くということはどんなことなのか

photo 青木氏

 青木氏いわく、涙には「基礎的な涙」「反射性の涙」「情動の涙(エモーショナルティア)」の3種類の涙があり、それぞれの涙は役割が異なるという。情動の涙には、ストレス物質(マンガン)というものが多く含まれており、流すと体内のストレス物質が排出される。またストレス解消のほかにも、例えば脳内リセット効果や、体的にも免疫効果が高まるなどいろいろな効果が挙げられた。「情動の涙は、わたしたちのコンセプトにマッチしていると感じました」と青木氏。

 そこから、人はいったいどうやったら情動の涙を流すのかという点を掘り下げ、アンケート調査を2回実施。この結果、男女を見て、泣きのつぼ(何に泣くか)というのが大きく違っていることが分かる。同時に男女共通のコンテンツを作るというのは非常に難しいという懸念材料も出てきた。

 その後、感動することに関係する個人の特性(性別など)、感動の対象になるもの(小説なのか映画なのかなど)について洗い出し、最終的にゲームで提供すべき要素、泣けるコンテンツ(「ショートストーリー」)、泣けるシステム(後の「なみだのソムリエシステム」)、泣きやすくする工夫(最適な環境を整える)というのが見えてきたと青木氏は言う。

 講義では、泣きやすくする工夫として、涙は下を向くと止まってしまうため、目線をなるべく下げないで見てもらえるよう、あえてニンテンドーDSの上画面だけを使用する仕様にしたことなども明らかされた。

 「なみだのソムリエシステム」は、自分に合った感動のストーリーを届けるというもの。人が感動する大事な点は、共感を得ることが重要になってくる。「経験、行動、家族構成、それらを抜き出していって、質問に答えてもらうことで特性を決定していく方法にしました」と青木氏。要するに個人の泣きやすいランキング生成を思いついた。

 「特性に応じて泣きやすいものを集めているので、すごく似たような話が上位にきてしまう。そればかりを立て続けに出してしまうと、泣ける物も泣けなくなる。この辺のバランスはどうするのか、大きな課題でした」と青木氏は語る。気分(今日は本当に泣きたい気分だとか)などをうまく組み合わせて出し課題をクリアしたそうだ。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

昨日の総合アクセスTOP10
  1. /nl/articles/2406/21/news008.jpg 和菓子屋の店主、バイトに難題“はさみ菊”を切らせてみたら…… 282万表示を集めた衝撃のセンスに「すごすぎんか」「天才!?」
  2. /nl/articles/2406/21/news116.jpg 都知事選掲示板に“ほぼ全裸”ポスターが掲出で騒動に→アイドルが懸念示す 「300万円を考えると安いものなんでしょう」「真面目に頑張りたい人が可哀想」
  3. /nl/articles/2406/20/news090.jpg 「これはさすがに……」 キャッシュレス推進“ピクトグラム”コンクールに疑問の声相次ぐ…… 主催者の見解は
  4. /nl/articles/2406/21/news017.jpg 0歳弟のお世話を頑張る8歳次男、ほほえましい光景かと思いきや…… 爆笑のオチに「面白いw」「全ての言動が可愛いのよ!」
  5. /nl/articles/2406/14/news016.jpg じいじとばあばの、孫をめぐる“激しいバトル”が246万再生 ほほ笑ましい光景に「癒やされる〜」「ばあば毒舌www」
  6. /nl/articles/2406/21/news016.jpg 「これだからアメリカの床屋はむずい」 本人も笑いを止められない仕上がりに「絶対に期待を裏切らなくて好き」
  7. /nl/articles/2406/20/news165.jpg 「これは刺さる」 ポイ捨て禁止の看板 → “辛辣すぎる標語”に10万いいね 「その通り」「地元にもほしい」と称賛の声
  8. /nl/articles/2406/20/news015.jpg 「ヤフオク!」でメダカを買ったら、謎のトラブルに巻き込まれ…… ゾッとする展開に「自分ならこんな事できません」
  9. /nl/articles/2406/19/news096.jpg 「エラー品ですかね?」 カッターの刃にあるはずの“あれ”がないと思ったら…… 「そういうの需要あります」「便利ですよ」
  10. /nl/articles/2406/20/news043.jpg 【今日の計算】「30+30÷30」を計算せよ
先週の総合アクセスTOP10
  1. 「最初から最後まで全ての瞬間がアウト」 Mrs. GREEN APPLE、コカ・コーラとのタイアップ曲に物議 「誰かこれを止める人いなかったのか」
  2. 「値段を三度見くらいした」 ハードオフに38万5000円で売っていた“予想外の商品”に思わず目を疑う
  3. 「え?」 “ごみだらけの道”を掃除したら…… あらわになった“まさかの正体”に世界中が驚き 「信じられない」【海外】
  4. 185センチ木村沙織、生放送で櫻坂46メンバーの横に立つと……朝8時51分に驚きの光景 「あれ? 子供が混じってる?」「親子すぎる」
  5. 「この家おかしい」と投稿された“家の図面”が111万表示 本当ならばおそろしい“状態”に「パッと見だと気付けない」「なにこれ……」
  6. 【今日の計算】「8−8÷8+8」を計算せよ
  7. フジ「アンメット」、池脇千鶴のサプライス姿が激変しすぎて“最も衝撃” イメージ覆す“肉づきたるみ顔”に「わからんかった」「びっくりして夜中に声出た」
  8. 「これどうやって使うの?」→「考えた人マジ天才」 セリア新商品の便利な使い方に「これ100円でいいんですか!?」
  9. 「この子はきっと豆柴サイズ」と言われた子柴犬、4年たつと…… 衝撃のビフォーアフターに「愛情詰まりすぎてw」「爆笑しました」の声
  10. 飼い主のことが好きすぎる超大型犬、最後は勢い余って…… 直視できないレベルの一撃に「何回見ても笑っちゃう」「襲われてる人がいます!!」
先月の総合アクセスTOP10
  1. 「今までなんで使わなかったのか」 ワークマンの「アルミ帽子」が暑さ対策に最強だった 「めっちゃ涼しー」
  2. 「現場を知らなすぎ」 政府広報が投稿「令和の給食」写真に批判続出…… 識者が指摘した“学校給食の問題点”
  3. 市役所で手続き中、急に笑い出した職員→何かと思って横を見たら…… 同情せざるを得ない衝撃の光景に「私でも笑ってしまう」「こんなん見たら仕事できない」
  4. 「思わず笑った」 ハードオフに4万4000円で売られていた“まさかのフィギュア”に仰天 「玄関に置いときたい」
  5. 「ごめん母さん。塩20キロ届く」LINEで謝罪 → お母さんからの返信が「最高」「まじで好きw」と話題に
  6. 「二度と酒飲まん」 酔った勢いで通販で購入 → 後日届いた“予想外”の商品に「これ売ってるんだwww」
  7. 幼稚園の「名札」を社会人が大量購入→その理由は…… 斜め上のキュートな活用術に「超ナイスアイデア」「こういうの大好きだ!」
  8. 釣れたキジハタを1年飼ってみると…… 飼い主も驚きの姿に「もはや、魚じゃない」「もう家族やね」と反響
  9. JR東のネット銀行「JRE BANK」、申し込み殺到でメール遅延、初日分の申込受付を終了
  10. サーティワンが“よくばりフェス”の「カップの品切れ」謝罪…… 連日大人気で「予想を大幅に上回る販売」