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ニンテンドーDSのWi-Fiコネクションは、軽々と障壁を飛び越えるGame Developers Conference 2006(3/3 ページ)

現地時間の24日、米国サンノゼで開催されたGDC 2006において、任天堂の大原貴夫氏によるセッション「The Zen of Wi-Fi: A Postmortem of the Wireless Features of Nintendo DS」と題して、Wi-Fiコネクションの目指すものと事後分析を行った。

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「無料」というコンセプトについて

 従来は「オンラインゲーム=お金がかかる」というイメージを持つ人も多いと、先に挙げた「モバイルシステムGB」を例に挙げる。「モバイルシステムGB」もそうだが、ゲームを遊ぶためにはオプション機器や通信回線を必要とするものもあり、毎月お金がかかるなどを理由に購入を諦める場合もあると議論した。こうしてそれを取り除くためにも、“カンタン”でも述べた北米でのマクドナルドや日本のソフト販売店への無料接続ポイントの提供へとつながっていく。無料で体験版などを遊ぶ機会が増えることで、実際ソフトを購入するキッカケを増やせるのではないかと考えたわけだ。

 こうして障壁を取り除いていったことが、これほどの短期間で多くのユーザーを獲得できた理由であると確信していると大原氏。これが任天堂の言うところの破壊的イノベーションなのだと。

ニンテンドーDS開発時の技術的課題

 ニンテンドーDSの開発当初から、P2Pで通信を行う際のNATネゴシエーションが問題とされていた。「おいでよ どうぶつの森」や「マリオカードDS」で実現しようとしていたサービスの多くは、ユーザー同士がインターネットを介して直接通信を行う、P2P方式のモデルだった。ニンテンドーDSの場合は無線LAN接続になるため、必ずルーターのローカル側からインターネットから接続することになる。

 つまり自宅などにあるルーターの下にある、プライベートなIPアドレスしか持たないニンテンドーDS同士が、必ずルーター越しにインターネットに接続&経由して通信しなくてはならないのだ。「もちろん、ルーターなどを越えて通信を行う技術もあるが、我々の都合で世の中に出回っているすべてのルーターをカバーするのは難しい」と大原氏。任天堂はそのため、選択した技術で世界中どれだけカバーできるかのテストを行ったと一例を紹介する。

 「どうぶつの森」をモチーフにしたPCのディスクトップに置く用の時計ソフトを雑誌の付録などで配布。NATテストを行うためのプログラムを入れ、ユーザー合意の上で、自宅の環境をPCからテスト。それを任天堂が集計した。任天堂がスパイウェアを送り込んできたと勘違いされては、Wi-Fiコネクションのコンセプトに影響があるので、発売前ということもあって趣旨説明には細心の注意を払ったと大原氏はエピソードを披露する。結果はもちろん予想を上回るよい結果だった。

 ただし、すべてがうまくいったわけではない。実作業でもっとも大きく影響が大きかったのは、2004年から進めていたニンテンドーDS用のPCPIソケットライブラリだった。ほぼ完成し修正作業をしている段階で、「おいでよ どうぶつの森」や「マリオカートDS」のプログラム開発が進むにつれ、準備していたPCPIライブラリではメモリが足りなくなってしまったというのだ。急遽、別のメモリの消費量の少ないソケットライブラリの開発をスタートさせ、下位のソケットライブラリに変わった時から上位のライブラリと差し替えなくてはならなくなったと、ライブラリのリソースが遅れたことを明かす。GDCが開発者向けのカンファレンスということもあり、その場で改めて開発者に向け謝罪する。

 ニンテンドーWi-Fiコネクションの開発は社内を横断したプロジェクトチームで進められ、コンセプトレベルに関しては発表の前から議論していたが、具体的な仕様の検討がはじまったのは2005年になってからという。時間もないので社長直下のプロジェクトとなり、週2回、開発各部門から担当者が集まってミーティングを行いながら具体化を進めたとのこと。岩田氏もほぼすべてに参加し仕様検討に加わっていたので、現場と経営者間の相互理解も早く、これもローンチに間に合った大きな要因だったというから興味深い。ただし、大原氏はそれはそれで緊張を強いられたとも。これもすべて効率のよい、いい結果となったと会場を笑わせる。

 ニンテンドーWi-Fiコネクションでは、すべてのゲームが任天堂の認証サーバーを通っている。認証サーバーの開発も日本とアメリカとの共同作業で進められていた。日本ではニンテンドーDSに実装するためのクライアント側のライブラリを。アメリカではサーバーのコーディングを担当するなど分担。時差などを克服しながら、はじめてのワールドワイドな開発に苦労したことも吐露する。

 大原氏が特に印象に残っているのは「マリオカートDS」を使用しての、世界同時βテストだったと振り返る。現在のように100万人が使っているわけではないので、対戦の時間を合わせるのも大変だったとのこと。特に世界同時となるとなおさらのこと。しかし、テストとはいえ楽しかったのだとか。フレンド登録をしている人との対戦はさらに楽しく、テスト中にアメリカ勤務の同僚と偶然マッチングした際には、相手の表情も想像でき、自宅でテストに参加するのがすごく新鮮だったそうだ。

 このβテストには岩田氏も参戦。社長だからといって誰もが手を抜かず、「みんな真剣で手加減してくれない」と岩田氏がぼやくほどだったとか。このようなエピソードからも分かるように、経営側と開発側との距離が近いということが、最良の結果に至ったのかもしれない。

 ニンテンドーDSは2007年までにコナミのウイニングイレブン最新作など約40タイトルが開発中とされている。現在、すでにサービス提供がされているマッチング機能のほか、相手をダウンロードできるようにするなど、機能拡張を進行中とのこと。任天堂の次世代ゲーム機レボリューションにおいても、ネットワークを使用しての面白いことを考えていると発言。今後の展開にも目が離せない。

 大原氏は最後に冒頭の言葉を引用し、「一度はネットワークにつなげて遊んでくれる」という目標は、まだ完全に達していないと、障壁となるものを飛び越えていけるようにと希望を語る。ここがGDCという場所柄か、開発者に向けてWi-Fi対応のソフトの充実を呼びかける。どうか世界中で一番多くの人々が参加する仕組みとなるように。

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