藤倉航装に救命胴衣について聞いてみた:救命装備品一筋70年以上(2/3 ページ)
膨張式の仕組み
ところで、膨張式の救命胴衣の仕組みはどうなっているのでしょうか。空気袋があるのだから、それが膨らむのは分かりますが自動膨張の仕組みは? 筆者の疑問を梅木氏に詳解していただきました。まずは膨張式の心臓部ともいうべき膨張装置ですが、空気袋を膨らませるための炭酸ガスが入った炭酸ガスボンベ、内部の紙でできた部分が水没した際に溶解してセンサーの働きをするスプール、スプールカバー、誤って作動索が引かれてしまったときに誤作動を防ぐ安全ピン(プラスチック製で作動後に折れるので、安全ピンを見れば作動前か作動後かが分かるという意味もあり)などから構成されています。
引き手が引かれるか、膨張装置が水没してスプール内の紙でできた部分が溶解すると膨張装置内の撃針がせり上がり、炭酸ガスボンベに封をしている封板を破ることで炭酸ガスボンベ内の炭酸ガスを気室内に送り込み、浮力が生まれることになります。このように自動膨張装置も付いていますが(FN-50、FN-60、WP-1は実装。中には付いていない製品もある)、基本的には手動で作動させるのが主の方法で自動膨張は補助的なものです。これは作動しない恐れがあるからという理由ではなく、通常、人間は衣服を着たまま水没するということに慣れていないため、そういった状況ではあわてて思った通りの行動ができない恐れがあるためだそうです。
例えば船が浸水して転覆しそうだというような、多少猶予がある状況なら、先に救命胴衣を膨張させて浮力を持たせてから飛び込む(もちろん救命胴衣を膨張させることで脱出の妨げになるような狭い航空機内などでは、この限りではない)、あるいは突然、海に投げ出されて水没してしまったケースでは、いっきに顔が水面下になってしまうことが予想されますが、その場合にも自動膨張装置が作動するまで数秒間待つより、手動で動作させることでより早く水面に顔を出すことができるというわけです。
交換部品の耐用年数
固型式の装着がためらわれるようなシーンでも装着できる膨張式の救命胴衣ですが、確実に作動させるためには交換部品をちゃんと耐用年数に応じて交換する必要があります。例えばスプールは内部の紙の部分が劣化すると溶解に時間がかかるようになり、水没してから自動膨張するまでの時間が想定している数秒ではなく、10秒以上長くなってしまう恐れがあるため3年で交換することになっており、炭酸ガスボンベも5年で交換することになっています(より細やかなメンテナンス方法、使い方の詳細は、藤倉航装ホームページの製品情報からダウンロードできる「取扱い説明書」を参照いただきたい)。
そのほかの注意として、湿気の多い場所であったり、水しぶきがかかるような場所だとスプールが溶解してしまいますから保管する場所としては適していません。それから、耐用年数に満たなくとも炭酸ガスボンベに打痕(傷やへこみ)やサビがある場合なども交換が必要です。梅木氏の説明で言われてみれば「なるほど!」と思ったことに、使い方によってパーツの交換頻度は変わるというものがあります。確かに毎日使う場合と1カ月に1回しか使わない場合では、風雨にさらされる回数もおのずと変わってくるでしょう。毎日、作業時に着用しているというような場合、メーカーでは年に1回程度のスプール交換をおすすめしているそうです。
日本製ならではの安心感、絶対ということ
通常の家電製品などでも「万が一、事故があってはならない」ように確実に動作すべく設計、製造されています。それが「万が一、事故のときに使用する」という製品であればななおさらのことです。藤倉航装では昭和14年の設立以来、製品が原因となる事故を一度も起こしておらず、企業パンフレットには「『絶対』であることを自らの使命とし」「妥協を許さぬ物作りの精神」などとありますが、具体的にはどういうことなのでしょうか。それは、すべてのパーツが日本製であるということに象徴されます。社内試験に通るものであれば、安い海外製パーツでも良いのでは? とも思いますが、何かあったときの対応力という面で日本製は譲れない要素だそうです。筆者はどこの国の製品か分からない安いパソコン周辺機器を買ってトラブルが発生しサポートの連絡先も分からず、違う製品に買い換えることになったという経験もありますが、何か問題が発生したときに即連絡して、即対応できるという確実さとレスポンスの早さは国内製品ならではでしょう。
安い海外製品といえば、ちゃんと製品チェックしているかどうか怪しいということもあります。パソコン周辺機器ならば、「使えなかった」と後で笑い話になるかもしれませんが、救命胴衣が使えなかったら「使えなかった」と後で話す機会すら訪れないかもしれません。藤倉航装では製造した救命胴衣を一定の数でロット管理し、国土交通省の担当者にお願いして1着1着すべて受検(検査)することになっています。検査したとしても「100%絶対はないよね?」とついあまのじゃくな思考に走ってしまう筆者も、その姿勢には安心感を覚えました。
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