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「ガジェット通信 アニメ流行語大賞2019」で「ゴマすりクソバード」が金賞を獲得した件でけもフレを追ってきた身として思ったこと

それは愛か。憎しみか。にぎやかしか。その1票には、どんな思いを込めましたか。

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 ガジェット通信が12月6日、「ガジェット通信 アニメ流行語大賞2019」を発表しました。その結果は、以下の通り。

  • 金賞:ゴマすりクソバード(けものフレンズ2)
  • 銀賞:シャミ子が悪いんだよ(まちカドまぞく)
  • 銅賞:イキリ鯖太郎(Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-)

 「全部ネットミームやんけ」というツッコミを入れたいところですが、今回は「ゴマすりクソバード」が金賞を獲得した件について、「けものフレンズ(けもフレ)」を第1期から追い続けてきた身として思ったことを記しておきます。本当の愛は、そこにあったのか。

けものフレンズ2(画像は以前のけものフレンズ公式サイトから)

「ゴマすりクソバード」なるもの

 まず、「ゴマすりクソバード」なる響きからして蔑称としか思えぬ謎の鳥は何者なのでしょうか。その正体は、「けもフレ2」第7話“すぴーどのむこう”で初登場した「G・ロードランナー」の愛称、異名、あだ名……さまざまな思いが込められた呼び名です。

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 2019年1月に放送された「けもフレ2」は最終話のニコ生アンケートで“とても良かった”が史上ワーストの2.6%を記録するなど、良くない方向で話題となってしまいました。この辺については語ると長くなるので、関連記事「『けもフレ2』最終話アンケート“とても良かった”2.6%の衝撃 何があったのか、1話からの振り返りと私見」を見てください。

 そんな「けもフレ2」において、2人だけネット上で深く愛されたキャラがいました。1人は第9話で登場してふびんな目にあい続け退場してしまった「イエイヌ」。そしてもう1人が、「ゴマすりクソバード」ことG・ロードランナーです。

 G・ロードランナーは親分として慕い心酔する「プロングホーン」の腰巾着のようなポジションで、プロングホーンのためなら多少のズルもいとわないいかにも小物の脇役といった感じのキャラ。分かりやすく言えば、「ドラゴンボール」の「プーアル」をもうちょっと小憎たらしくした感じです。

 が、そんな脇役でありながら、最初から最後まで行動理念が一貫していたこと、ズルした分程度の軽い報いを後で受けていること、ちゃんとお礼をいえることなど最後まで愛され要素がたっぷり詰まっていたことからカルトな人気キャラに。一部で「ロードランナーだけはいいキャラ」といった声があがり始めます。

けものフレンズ2公式サイト第7話の紹介ページ。G・ロードランナーはどこにもその姿が写っていない。不遇である(プロングホーンも出てないが)。その姿を見たい人は「ゴマすりクソバード」で検索だ

 さらにその後、Twitterのファンアートで「G・ロードランナーの『G』」は何のことか」を当てるという4コマが登場。そこで作中の行動をきれいかつドぎつくまとめた「ゴマすりクソバード」ではないかという一言が人気になり、彼女の異名として定着していきました(ちなみに正しくは「グレーター」の「G」)。

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 このように、どう見ても蔑称としか思えぬ名前ですが実はネタから生まれたもので、G・ロードランナーは「けもフレ2」屈指の愛されキャラとなっていきます。その後もだんだんと人気は高まっていき、より一般的に愛される略称「ゴマちゃん」の名で親しまれるようになりました。

ゴマすりクソネットミーム

 その後も「ゴマすりクソバード」の名は徐々に広がっていき、ニコニコ動画などにはゴマちゃんを題材としたMAD動画やMMD動画、果てはUnity製のゲームまで大量に作られていくことになります。そのほとんどはネタ動画で、真面目な動画ではよくイエイヌが登場していたと記憶しています。

 さらにその後、ハリウッド映画「ゴジラ キング・オブ・モンスターズ」に登場する怪獣「ラドン」も、その振る舞いから「ゴマすりクソバード」の異名を獲得。もはやこの名は「けもフレ2」やG・ロードランナーを超えて、ネットミームとなっていきました。

黒い人気

 こうして「けもフレ2』屈指の人気キャラとなったゴマちゃん。しかし、その人気や愛されの裏には、「けもフレ2」制作陣へのカウンター的な思いが込められていた部分もあったのです。

 「ゴマちゃん」が登場した第7話は、第1期の主人公である「かばんちゃん」が成長した「かばんさん」になって登場した直後でもありました。この「かばんさん」は一部に第1期のころからは信じ難い行動や言動が目に付き、「けもフレ2」が最初に大きくざわついた時期でもあったのです。

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 このように「けもフレ2」はすでに炎上気味だったことから、「制作陣が力を入れたメインキャラよりこういう脇役の方が推しやすい」という意思も働いていました。これはイエイヌも近いところがあり、「感動的な話として作った制作陣の思いとは裏腹に『いいキャラなのに扱いがかわいそう』」「救いが必要」という意思から人気が高まっていったのです。ゴマちゃんに比べると、イエイヌはこの「制作陣に対する反発」の意志がより顕著に現れています。

 視聴者からメインキャラがぞんざいに扱われ、ゴマちゃんとイエイヌという本来不遇なはずの2人の人気だけが高まっていく。純粋なキャラ愛、制作陣への憎しみ、未視聴者による面白半分……さまざまな意思がいびつに絡み合い、反発し、ゆがんで生まれた、“黒い人気”が2人の身に降り掛かっていきます。それはまるで、邪神崇拝かのような……。

そしてアニメ流行語大賞へ

 そして約1年が過ぎた、12月6日。「ゴマすりクソバード」は、「ガジェット通信 アニメ流行語大賞2019」を受賞します。

 私はこのニュースを見たとき、非常になんとも……言葉で形容し難い感情に襲われました。ゴマちゃんの素晴らしさが認められた……? いや、いまだ「けもフレ2」への怒りが多くの視聴者たちの心の中で燃え続けているが故の結果……? ネットのおもちゃにされているだけ……? それとも――その全てか。私は、竹中直人さんの「笑いながら怒る人」のような状態で、投票結果を見ていました。

 以前書いた記事の通り、私も「けもフレ2」の作品内容自体はあまり褒められたものではないと思っています。特に、炎上していた制作陣については、強く思うところもありました。

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 しかし同時に、「けもフレ」第1期の軌跡と奇跡を、今でも思い出します。信じられない量のMADやMMDのニコニコ動画への投稿、連日のテレビでの特集、さまざまな名誉ある賞の受賞……。「けもフレ」というコンテンツは、間違いなくすさまじいほどの輝きを放っていた時期もあったのです。

 Yahoo!検索大賞で大々的に表彰までされた2017年のあの輝きは、いまやこのような形でしか表彰されないほどになってしまったのか……。この事実はあまりにも重く、そして悲しいものであるといわざるを得ません。

 今回の「ガジェット通信 アニメ流行語大賞2019」では、6000票以上が集まったとのこと。その中で「ゴマすりクソバード」は25%の得票率を誇っており、1500件以上の票が集まったことになります。

 しかも、比較的できたばかりの言葉に票が集まりやすいネット投票で、「けもフレ2」は最も票の集まりにくい1月スタートのアニメでありながらこれです。もし「けもフレ2」が秋アニメだったら、50%以上の得票率になっていたかもしれません。それほどまでに、いまだ「けもフレ2」に対して何かしらの思いを抱いている人が多いということでしょう。

 今回投票した1500人以上の人たちは、いったい何を思い「ゴマすりクソバード」に投票したのでしょうか。純粋なG・ロードランナーへの愛でしょうか。「けもフレ2」やその制作陣に対する怒りや憎しみでしょうか。それとも、未視聴組の面白半分でしょうか。今回の金賞は、喜ばしいものなのでしょうか。視聴者や読者の皆さんは、この結果をどう思っているのでしょうか。私はどのような感情でこの結果を受け止めればいいのか、よく分かりません。

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 この金賞がどのような意味を持つのかすら、もはやよく分からないものになっています。「ゴマすりクソバード」という言葉は、「けもフレ」の負の歴史であり、また数少ない希望でもあり……一言で形容できるものではなくなってしまいました。

 けものフレンズプロジェクトを降板することになったたつき監督やヤオヨロズは、「ケムリクサ」のヒットによって新たに希望ある道を歩みだしました。けもフレ自体も、セガの「けもフレ3」が好評を博しており新たな道を進んでいるところです。

 では、「けもフレ2」という作品は、今後どうなっていくのでしょうか。正史として今後も残り続けていくのか、それとも忘れられていくのか。もしかすると10年ほどたち「けもフレ2って覚えてる?」という話になった際には、「ああ、あのゴマすりクソバードが出てきた……」と思い出すためのきっかけになっているのかもしれないな……と思うと、今回の金賞は喜ぶべきもの――なのかもしれないと、少しだけ、思ったりもします。

 金賞おめでとう、ゴマちゃん。純粋な気持ちで祝うことはできないけど、いつかこの愛称も笑い事にできるような、そんな未来が待っていることを望みます。

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