インタビュー

【ゲームの日本史】ひたすら最速クリアを目指すRTA(リアルタイムアタック)はどのように生まれたのか(1/3 ページ)

国内最大規模のRTAイベント「RTA in Japan」主催者・もかさんにインタビューしました。

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 欧米に遅れながら、日本でも対戦型ゲームを競技のように楽しむeスポーツが普及してきた――。 ここ数年、こんな報道をよく目にするようになりました。その裏側で静かに、しかし、着実に盛り上がりを見せているのが“最速クリアを目指す”RTA(リアルタイムアタック)。eスポーツを「ゲーム界の格闘技」と表現するなら、100メートル走、ハードル走などのように個人の記録を追求する「ゲーム界の陸上競技」と例えられるかもしれません。

 eスポーツと同じようにRTAもまた、現在はさまざまなイベントが開かれるようになってきています。今回は、国内最大規模のRTAイベント「RTA in Japan」の主催者・もかさんに、「日本におけるRTAの歴史」「広まりつつあるRTAの今後」などを伺いました。

【自由過ぎるRTAの世界】ネタプレイからTAS顔負けのプレイまで

―― RTAとeスポーツの違いの1つとして、「ゲームジャンルやレギュレーションの豊富さ」が挙げられると思います。バグ技を使ってRPGをたった数分でクリアしたり、「ピカチュウげんきでちゅう」(NINTENDO64)のようなほのぼのタイトルを爆速で攻略したりと自由度が高いですよね

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 RTAって自由過ぎて、何でもアリなんですよね。

かわいいピカチュウとの交流よりも、最大効率を目指したプレイが話題になった「ピカチュウげんきでちゅう」のRTA。「RTA in Japan2019」にて実施

 最近、個人的にやってみたいなあと思っているのは「たけしの挑戦状」(FC)。タイトル画面で3万回くらいボタンを押すとエンディングの一歩手前に飛べる裏技があって、それでRTAするという。主人公がひたすらパンチ連打してるだけで、ゲーム画面はほぼ動きません(笑)。

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―― もはやRTAというか、ネタプレイじゃないですか!

 その一方で、人力でTASと同タイムが出せるくらい極まっているタイトルもあります。

 「スーパーマリオブラザーズ」(FC)には「21フレームルール」と呼ばれる変わった仕様があって、面クリア後の暗転画面の長さが一定ではありません。21フレームに1回だけ判定があって、そのときに暗転が解けます(「スーパーマリオブラザーズの1フレーム=約60分の1秒」)。その21フレームのサイクル内に収まっていると、結果的に同じクリアタイムになるんですね。

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―― RTAでは“わずかな時間差を打ち消す調整機能”のように働き、0.3秒くらいの違いなら差が出ない可能性があると

 この影響で、人力でもTASと同じ速度でクリアできる面がいくつかあって。今は「そういう面ではTASと同タイムを維持しつつ、別の面でいかにタイムを縮めるか」という戦いになっています。難し過ぎて挑戦者があまりいないのですが、僕は好きですね。

※TAS:Tool Assisted Speedrun/Superplayの略。エミュレータなどのツールを使い、ゲームの実行速度をスローにするなどして、スゴいプレイをすること。人間のプレイに対し、“理論上可能なプレイ”を追求する手法として知られる

―― 「TASと同速度」って、要するに「理論的に考えられる最高速度」みたいなことですからねえ

執筆時点(2月4日)での「スーパーマリオブラザーズ」の世界最速プレイ。Kosmicさんによる4分55.646秒

日本におけるRTAの歴史

―― そもそもの話なんですが、ゲームにおける「RTA」とはどのように生まれた言葉なんでしょうか?

 例えば、ゲーム雑誌『ファミ通』で1992年、「やりこみゲーム大賞」という読者投稿企画がスタート。94年には「5時間29分で『ファイナルファンタジー6』(SFC)をクリア」というタイムアタック記録が掲載されています。

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1992年『ファミコン通信』(No.164/102ページ)。「やりこみゲーム大賞とは、徹底的にプレーしまくった自慢のゲーム」を募集する企画

 ただ、当時のFFでは「このクリアタイムを出しました」という記録を証明するために、最終セーブポイントまでの時間が利用されていました。

―― あー、セーブ画面なんかを開くと、総プレイ時間出てきますよね

1994年『ファミコン通信』(No.287/86ページ)。「FF6」で大賞受賞した記録は「5時間29分」。ゲーム内のプレイ時間で確認できる

 このように“ゲーム内時間”を競うやり方だと「途中でセーブしておいて、ボスに勝てるまで何度もやり直す」みたいなことができて、そのやり直しにかかる時間はカウントされません。

 それに対して、ストップウォッチで“実際にかかった時間”を測定する流れが現れて、誕生した言葉が「リアルタイムアタック」(RTA)です。

―― レギュレーションの違いを明確化する意味合いがある言葉なんですね

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 和製英語なので、海外では単に「Speedrun」ということが一般的なのですが、特に「ゲーム内時間ではなく、実際の時間を測っているよ」と強調するときには「RTA」を使う場合があるようです。

ちなみに、1994年の『ファミコン通信』(No.287/92ページ)には、実際の時間を計測するRTAに似た“早解き”企画も。ただし、途中でコンビニに行っちゃうくらいのゆるさ
次のページには、その“早解き”記録が掲載。「実質クリアー時間(実際にかかった時間)」「最終セーブポイント(ゲーム内時間)」が併記されています

日本特有のRTA文化「レポート作成」が生まれた理由

 前述した通り、かつては『ファミ通』がタイムアタック記録の受け皿になっていましたが、編集部宛にビデオなどを投稿しても、実際に記録が掲載されるまでに時間がかかることなどから、発表の場が紙媒体からインターネットに移行していきました。

 個人サイトを作って自分の記録を自分で書き、当時、記録集積の役割を果たしていた「ULTIMAGARDEN」というサイトに「自分の記録はこれです」と載せてもらう。そういうことがだいたい2000~2010年くらいまで行われていました。

―― 「ULTIMAGARDEN」では、記録が実際のプレイ動画ではなく、レポート形式で残されているんですよね。攻略情報っぽいのに、参考文献とかまで書いてあって

ULTIMAGARDEN」(閉鎖騒動などがあり現在は「2nd」)に掲載された、「ドラクエ」シリーズのRTA記録一覧
例えば、ミツカンさんによるSFC版「ドラクエ1」のRTA記録では、「どうしたらこのような記録が出たか」がかなり詳細に書かれています

 自分の記録が正当なものであることを証明するために、「こういう風にプレイしたら、こんなタイムが出ました」と詳細な手順を書いていたんです。当時は「ネット上にプレイ動画を配信したら、逮捕されるんじゃないか」と言われていたこともあって。

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